第21話

「ほのり!ほのりー!」

叫びながら雪斗は城内を駆け回る。

「雪斗……?」

「!ほのりか!?」

雪斗はかすかに音が聞こえた方向へダッシュした。

部屋に入るとほのりが大きい鳥かごの中に入れられていた。

ほのりは雪斗の姿を見るとパアァと明るい表情を作った。

「ごめん、俺にもっと力があればこんな目には……!」

雪斗は鳥かごをこじ開けてをほのりを救出した。

「ううん、助けに来てくれて嬉しかった」

ほのりは牢屋から出るがよろけて転びかけた。

慌てて雪斗が体を支える。

「あ、ありがとう」

「ほのり、ふらふらじゃないか。どうしたんだ?」

「なんでもないよ」

「分かりやすすぎる嘘つくな!どうしたんだ?」

「……スキルが使えないように、魔力を吸い取られてたの」

弱々しいほのりを見て、雪斗は頭の中でプチーンという音が鳴ったのを聞いた。

「あの野郎もう1回殺してくる」

一息ににそう言うと雪斗は早足で玄関へ向かおうとする。

「え、雪斗ちょっと待って!」

追いかけようとするがバランスを崩して転んでしまった。

その様子を見て、雪斗はほのりをおぶった。

ほのりは慌てて雪斗から降りようとする。

「だ、大丈夫だから!

支えてもらえれば歩けるし!

それにもうしばらくすれば、魔力も回復すると思うんだ」

「駄目だ。何かあったらどうする。

ほのりが危険な目にあったのは俺の力が足りなかったせいでもある。

ほら、このまま帰るのは危ないぞ」

雪斗が背中をほのりに向けると、ほのりは恥ずかしそうにその背中に乗っかった。

二人は雪斗がいた病院まで戻る。

魔族を倒したおかげか、幸い道中は一匹も魔物に出くわさなかった。


病院に戻ったとき、一番にかけられたのは……お叱りの言葉だった。

「今までどこにいたんですか!

とっても探したんですよ!

ゆっくり休養するように私申し上げましたよね?

勇者様は耳が聞こえないんですかね?

ん?」

「すみませんでした」

ガミガミと怒る看護師。目が三角形になっているのではないかと錯覚するレベルだ。

負い目があるようで、雪斗はしおれていた。

看護師さんの口振りからするに、おそらく無断で病院から出ていったのだろう。

「次やったら許しませんからね。

こちらのベットが空いていますので、ついてきてください」

案内されたのはベットが二つだけある病室だ。部屋全体が大きいので、フリースペースにテーブルを一つ置けそうだった。

他の病室には四つベットがあるので、わざわざ二人のために用意してくれたらしい。

「聞きました。二人はこの町を守って下さったんですってね。ありがとうございます。

ゆっくり休んでくださいね。必要なことがあったらお声がけください」

二人の健康診断をした後、看護師さんはそう言って病室を出て行った。

(体が弱っている時の看護師さんて、本当に天使に見えるなあ)

そんなことを考えながら布団に入ると、すぐに眠ってしまった。


翌日目が覚めたのは昼過ぎだった。

隣を見ると雪斗がまだ寝ていた。

コンコンコンコン

と窓がたたかれる音がし、そちらの方を見ると 鳩が窓ガラスをくちばしで叩いている。

窓を開けると、鳩はほのりの肩にとまり、毛づくろいをした。可愛いと思って撫でていると胸元に手紙がついている。

手紙を鳩から外すと、鳩は役目を終えたかのように窓から出て飛んで行った。

ルシーからの手紙だった。

『昨日はアラカルトを魔族から守っていただいてありがとうございました。

深い感謝を申し上げます。

魔族との戦いで、お二人の体は大変疲れていると思います。

そこで!教会特性の、疲れが取れる薬を同封しました!

よければお飲みくださいね。

しばらくは何も予定がないので、ゆっくりお休み下さい。

                          ルシー』

同封されていた瓶の中には、黄色の錠剤が2個入っていた。

「うーん……なんか怪しい……。スキルで抗体作ってから飲もっかな」

「ふぁーあ」

隣で寝ていた雪斗が目を覚ました。キョロキョロと辺りを見渡し、ほのりを見つけるとピタリと動きを止めた。

「よかったぁ。ほのりがいる」

安心したように雪斗は微笑んだ。

「あはは、どうしたの?寝ぼけてる?」

寝起きの雪斗が可愛くて、ほのりは布団の中に顔を突っ込んだ。

(うーん、天使かな?)

真顔で不真面目なことを考えながら、片手でルシーからの手紙を雪斗に渡す。

手紙を読んだ後、雪斗は感心したように言った。

「へーなるほど。早速飲んでみようかな」

ウキウキで黄色い錠剤を一錠手に出し、近くに用意されていた水で飲もうとする。

慌ててほのりは止める。

「ちょっと待って!

とりあえず、私が1錠飲んでみるから!

私だったらもし体に合わない成分が入っていたとしても、スキルでなんとかできるからさ」

そう言って雪斗が何か言う前に薬を口に放り込んだ。

5分後ほのりはおもむろに口を開いた。

「ごめんなさい。

普通に疲れが取れるいい薬でした」


二人はベッドに寝転がりながら、忙しくて話せなかった分、いつもの倍、会話をした。

この世界に来てからのことも、元の世界でのことも。


そんな調子で試験の終わった受験生のようにだらけていると、ある日部屋の中に男の子が急に飛び込んできた。

数日だらけていたといえ、死線をくぐり抜けてきた二人はすぐさまスキルを発動する準備をした。しかし男の子は何もする気配がない。ほのりと雪斗は顔を見合わせ、ほのりが男の子に話しかけた。

「どうしたの?」

ほのりが尋ねると、三秒ほどためらった後、男の子は勢いよく土下座をした。

「お願いします!

少しの間でいいんです……。僕を匿ってくれませんか?」


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