第19話

翌日雪斗は病院のベッドで目を覚ました。

「どこだ……ここ。そうだ、ほのり!」

反射的に隣のベッドをみるが そこにほのりはいない。

(やっぱり、夢じゃないか……)

ほのりが連れ去られた時の、敵の後ろ姿が脳裏に蘇る。

「くそ!」

無力さがひしひしと込み上げ 、雪斗は両手を強く握りしめた。

ノックの音が鳴り、 看護師が入ってきた。

「 大丈夫ですか? お腹の傷がひどくて……。もう目覚めないんじゃないかと心配していました。 しばらくは安静にしてください」

雪斗は首を横に振った。

「 でももう行かないと……。

友人が危険な目にあっているんです 」

看護師は 困ったようにウーンとうなった。

「それは確かに早く行かなければいけませんね。そうは言ってもそのお腹の傷で満足に動けるとは思えません。それに、あなた魔力は現在非常に少なくなっていると思うんです。

魔力が回復するまで待った方がいいのでは…… ? まずは体調を整えることを第一に考えてください 」

そう言って、看護師は部屋から出ていった。

雪斗はうつむいた。 看護師の言ったことは全て正しかった。

(三日後……)

雪斗ははメルトにやられた傷を見た。皮膚が溶けていたように抉られている。

(おそらくあの敵は触れたものを溶かすといったスキルをもっているのだろう。

つまり生半可な武器ではすべて溶かされてしまう……。僕がこの三日でやることは体調を全快させること。そして僕自身のスキルをもっと強くすることだ)

決意するように雪斗は拳を握りしめた。


雪斗はポケットから ネックレスを取り出す。 ネックレスの先には小型の写真入れがあり、ほのりの写真が収納されている。

ほのりは雪斗が好きである。

しかし雪斗もほのりのことを愛していた。

幼い頃からずっとほのりといたことで、他人には気づかれていない。

(ほのりの笑った顔も傷ついた顔も、全部僕のものだ)

「誰にもほのりを傷つけさせない……そう決めていたのに」

雪斗は一人きりの病室でブツブツと呟いた。

「 殺す……殺す……あいつだけは。

ほのりを傷つけたあいつは俺の手で!」


「きっと今ごろボクを殺すために頑張ってるんだろうなー。ね?おねーさん?」

うっとりしながらメルトはほのりに話しかけた。

「話しかけないで。私はあなたの話なんて聞きたくない。というか、監禁場所が鳥籠の牢屋って趣味悪いね」

「しょーがないじゃん。 負けた奴には興味なくなっちゃうの!もう君は、ボクのおもちゃなんだよ。勇者をおびき寄せるくらいしか価値がない。

あー楽しみだなー!勇者と戦えるの!」

「卑怯者のくせしてよく言うよ」

ほのりは鼻で笑った。

だがメルト特に苛立った様子を見せない。

「ボクにとって、戦いっていうのは正々堂々と戦うだけじゃない。騙しも立派な戦略の一つさ。ボクを殺しきれなかったのはキミの甘さだね」

ほのりは悔しそうに唇を噛んだ。

「っていうか君随分と余裕だねー。

もし3日以内に勇者が来なかったら、君は僕の実験動物になっちゃうんだよ?

試したかったんだよねー。どこをどう溶かしたら、どんな反応をするのか。体のいろんな部分を使って調べてあげる……」

ほのりは顔を強ばらせた。

だが強がって笑みを見せる。

「雪斗は絶対来てくれるもん。

それであんたなんかボコボコにしてくれるんだから」

「そうかい。そりゃあ楽しみだ」

メルトは部屋を出ていった。



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