第18話

「遊ぶ……?」

ほのりは怪訝な顔をする。

「まあ、戦ってくれればいいんだよ。ボクにとって戦いことは遊ぶことなんだよね」

ほのりはこの魔族――メルト――の魔力量を見た。

(冷静になってみると、こいつの魔力量は多すぎる。

雪斗と同じくらい、いや、それ以上はあるかな。

雪斗と合流するまで待った方がいいかも)

ほのりが動かないでいると、メルトは口を尖らせた。

「ねえ、遊んでくれないの?

じゃあ、あっちにいる人たちをみーんな殺しちゃおうかなぁ」

メルトが指差した方を見ると、そこには、今まさに逃げている人達がいた。

(ダメだ。合流を待ってる時間はない!)

「いいよ……遊んであげる!」

ほのりはバッと指を合わせた。

(こいつは危険だ。一撃で決めないと!)

―――――スキル錬成『炎火』

炎がメルトを包み込む。

ほのりはメルトが生きていた場合に追撃できるよう、スキルの準備をした。

煙が晴れる。しかしそこにメルトはいない。

「どこっ!?」

「ここだよー」

メルトはほのりの背後にまわりんでいた。

メルトの拳がほのりに当たる直前、本能的にほのりはスキルを発動した。

―――――スキル錬成『守護壁』

メルトの拳は青白い壁に止められる。

「あれー?君は火を操るスキルじゃないんだー。スキルは一人一個のはずなのに、なんで二個持ってるの?

それとも、全部ひっくるめて一つのスキルなのかな?」

ほのりは守護壁に魔力を通し続ける。少しでも気を抜けばこの防御は打ち砕かれてしまう。

「頑張ってるねー。でも、無駄なんだよ」

―――――溶解『シンプルバージョン』

メルトがスキルを使うと拳が触れている部分から守護壁が溶けていく。

「なっ!」

ほのりは急いで距離をとった。

追撃するメルト。

―――――スキル錬成『武器生産』:剣

作った大きめの剣をメルトに投げつけた。メルトは最小限の動きでよける。しかし次の瞬間、避けたはずの剣が腹に刺さった。

――――スキル錬成『物質操作』。

「いったああああ!」

メルトは傷口を抑えて痛がった。だがどこか芝居がかっている。

「痛ああああああ……あああ、あはっ!

あははっ!」

壮絶にメルトは嗤う。片手で剣を引き抜き、溶かした。

「いいね!いいね!こういうのだよ!ボクが求めていたのは!

血を血で洗う、殺し合い!

んふふ!ひっさしぶりだぁ。血を出したのは」

メルトが自分の血に触れると血は生きているかのようにメルトの体に戻っていった。

「どういうこと……?あなたのスキルは触れたものを溶かすんじゃ……」

「おっしい!ボクはね、触れて溶かしたものを操ることができるんだよ。だからね……」

突如ほのりの体に衝撃が走った。ボールのようなものがほのりにぶつかったのだ。

ほのりは衝撃で吹き飛ばされ、近くの木にぶつかった。

(背中と……肺が痛い。なにあの緑と茶色でできたボール。バランスボールくらいの大きさがある……)

ボールはメルトの元へ戻った。

「そこら辺の木を溶かしてボールにしてみたんだ。なかなかの威力でしょ?」

ほのりはヨロヨロと立ち上がった。

(勝てるのか……?こいつに……私は……。

いや、勝たなきゃダメなんだ!みんなを助けるために!)

――――――スキル錬成『氷河』

パキパキと音をたててメルトは氷漬けにされる。すぐさまメルトは氷を溶かした。

「これ、魔力をたくさん消費してまでやりたかったこと?

他の人になら効くかもだけど、ボクを氷に閉じ込めたって、溶かしてくださいと言ってるようなもんじゃ……」

「溶かしてくれてありがとね」

息も絶え絶えになりながら、ほのりはスキルを展開する。

―――――スキル錬成『雷撃』

ほのりが手を銃の形にすると、指先に電気のエネルギーが溜まっていく。

「しまっ」

メルトが言い終わらないうちに電気の塊が発射される。ドォンと雷が落ちたような音がした。

「ぎゃあああああああああ!」

体に電流を走らせながらメルトは絶叫した。

「うう…うううう」

メルトはあとずさり、逃げた。

「ま、待て!」

ほのりは追いかける。メルトの輪郭がグニャリと曲がり、見えなくなった。

(そっか。自分の体も溶かせるから……くそっ!見失った!)

辺りを見回していると、背後に魔力を感じた。

振り返ると先程の「木のボール」がぶつかるところだった。

間一髪でそれを避ける。

(魔力でちゃんと操れなくなってる。攻撃は効いてるんだ)

攻撃に失敗した反動で、メルトはバランスを崩した。

(いまだ!ここで、決める!)

――――――スキル錬成『虚刃うつろやいば』!

ほのりはメルトの強さにあわせた刃を錬成する。

メルトの背後に回り込み、刃でメルトを切る……………はずだったのに。

クルリとほのりの方を向いたメルトの手には人間の少女がいた。少女の顔は恐怖でひきつっている。

「…………っ!」

(さっき逃げたときにさらったのか……)

考える時間は一瞬だ。

(このまま攻撃すれば、メルトを倒すことはできる。女の子を巻きぞえに。

でも、私はなんのために戦っているの?

自分の命が危ないから?人を殺すこいつが許せないから?

違う。

町の人のためだ!町の人達を助けるためだ。

それじゃあ、この子を、守りたい町の住人であるこの女の子を殺すことなんて、できるはず……)

ほのりは虚刃を消した。攻撃が中止されたのを感じとったのか、メルトはにっこり笑った。

「君ならそうすると思ったよ」

ほのりのみぞおちへ、メルトの拳がめり込んだ。嫌な音をたててほのりは遠くまで飛ばされる。途中、衝撃で何本か木が折れた。

「そういえば初めて会ったとき、君はボクを心配してくれたよね。優しいね。本当に反吐が出るくらい優しいよ。だから君は」

メルトは持っていた女の子をほのりに見せた。

メルトが手を離すと、女の子はバラバラになり、やがて液状化した。

「騙されるんだよ」

ほのりは目を見開いた。

「君が戦っている間に周辺の住民はとっくに避難していたんだ。君の足が速くて人をさらえる時間もなかったしね。

だからそこら辺の枝とか土とか使って人形を作ったわけ」

「でも顔は本物だった」

「ああ!そうなんだよ!

あの子かわいいよね。ここに来る途中で殺した中でかわいい子がいたから顔、取ってきちゃった。

一回溶かしてるから、表情を作るのなんて簡単だったよ」

「こんの……くそやろう……!」

ほのりは歯を食い縛った。

「あはは、そんな汚ない言葉使いしちゃダメだよ。女の子なんだから」

メルトは動けないほのりの前にしゃがんだ。

「いーねー。いい顔してるよ。ボクのこと恨めしいのに、体が全く動かないことが悔しくて……ああ恐怖も感じてるのかな。

ボクは人間のぐちゃぐちゃになった顔、好きなんだー。

そうそう。ボクを殺すの躊躇ったときの顔は最高だったよ。心の葛藤がすごくよく伝わってきた」

「……………!」

ほのりは今すぐ目の前の少年をぶん殴ってやりたかった。だがもう指一本も動かせない。

虚刃を作ったときに、ほぼ全ての魔力を使い果たしてしまった。少しでも力を抜くと気絶してしまうだろう。

「さて、どうしよっかなー。君のことを殺すのは簡単だけど、なんかもったいないし。

勇者じゃないから殺さないのもオッケーなんだよなー」

メルトはうーんと考えた。

「これは……どういう状況だ?」

「んー?今ボク考えてるんだけど」

不満げに声の主に言ったあと、メルトは一時停止した。

「もしかして……勇者か?」

メルトが振り向くと雪斗がたっていた。

「周りの人からはそう呼ばれてる」

「ボクってほんとに運がいい!

じゃあ今度は勇者さんと遊ぼうかなって……あれ?」

メルトは怪訝そうに眉をひそめる。

「ぜんぜん魔力残ってないじゃん!

もしかしてボクが連れてきた魔物、みんな倒しちゃったの?」

「ほのりから、離れろ」

雪斗は怒りの滲んだ声を出した。

「んー、今の君と戦ってもつまんなそうだなー」

「ほのりから離れろって言ってるだろ!」

雪斗は剣を作り、メルトに切りかかった。

しかし剣を空を切る。

木の枝にメルトはのっていた。

ほのりはメルトの肩に担がれている。

「返せ!」

「おっと、動いていいの?」

雪斗は脇腹に激痛を感じる。

そっと脇腹を触ると、肉が溶けて血が出ている。先程の剣の攻撃の際、触れられていたのだ。

「思ったより浅い傷になっちゃった……。

まあいっか。

それじゃ、またねー。この子はもらってくよー!

三日以内に来なかったら、この子殺しちゃうかも」

「待て!……ぐっ!」

出血で足がふらつく。

目の前からは既にメルトは消えていた。

「くそっ!ちくしょう………」

雪斗は地面を強く叩き、気を失った。






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