第17話

翌朝。とてつもない轟音で二人は目を覚ました。

「なんだ!?」

雪斗はベットから飛び降りる。

隣の部屋に寝ているほのりの部屋に向かった。

「ほのり!」

「んー?雪斗?」

起きているもののほのりはまだ寝ぼけている。

「ほのりになにかあったのかと思ったよ」

「あーすごい音したよね……。外じゃないかな」

ほのりは目をこすりながらカーテンを開け、息をのんだ。

さっきまで眠たそうな目は、ぱっちりと開かれている。眠気は完全に吹き飛んでいた。

「ほのり?どうしたんだ……っ!?」

窓の外を見て、雪斗も表情を強ばらせる。

外は地獄のようだった。


2~5メートル以上の魔物がこの町に押し寄せて来ており、人の家は壊され、地面は割れていた。

人は必死に逃げているが、何人か捕まり食われ、何人かは踏みつけにされていた。

魔物はどれも、森で会ったものとは別格の強さだ。

その中で抵抗をしている人もいた。

教会の神官である。しかし限界がくるのはそう遅くはないだろう。

人の死体を見て、ほのりは吐き気をもよおした。

「ほのり!」

「大丈夫、大丈夫……初めて、死んでる人みたから……」

雪斗に支えられて、ほのりはなんとか自分で歩けるようになった。

「……助けないと………助けなきゃ!」

ほのりが部屋の出口に向かおうとしたとき、バンッと勢いよく扉は開けられた。

「無礼をお許し下さい!挨拶をしている暇もございません!至急、勇者様方に救援を求めます!」

部屋に入ってきた神官は片ひざをついて頭をたれた。

「現在、神官が戦っておりますが、町の人々を逃がすので精一杯です。

お願いします、どうか!」

そう言った神官の肩には血がついていた。

「もちろんです!」

ほのりは神官に現在の被害状況を尋ねた。

「雪斗!南へ行って!そこの避難が間に合ってない!」

「分かった!ほのりは!」

「私は西へ向かう!」

「気をつけてろよ!」

「雪斗もね!」

二人は玄関前で散った。


西へ向かいつつ、ほのりは魔物を倒していく。

亡くなった方の無念を想いつつ、合掌をするようにスキルを発動した。

―――――スキル錬成『虚刃うつろやいば

ほのりの視線にあわせて見えない刃が魔物を切り刻んだ。

(森で遭ったさそりよりも硬い。

……でも関係ない)

虚刃うつろやいばは実体がない分、性質を変えやすい。強い相手ならば、強い強度に変更できる。しかし相手にあわせて強度を上げすぎると、自分の魔力消費も激しくなるので注意が必要だ。

「着いた」

地図を取り出し、点滅地点が神官の言っていた場所に着いていることを確認する。

「なるほど……ここが」

魔物を生み出している諸悪の根元、魔族がいる可能性が最も高い場所。

「魔族!いるんだったら出てこい!

町の人たちをあんな目に遭わせて……許さない!」

ほのりが叫ぶと近くにいた魔物が一斉にほのりに向かってきた。牛の魔物、さそりの魔物、豚の魔物。

あらゆる種類の魔物がほのりを引き裂こうと殺到する。

「ここら辺はもう避難できてる場所だよね……」

ほのりは胸の前で指を合わせる。

迫りくる魔物に構わず、ほのりは冷静にスキルを発動した。

―――――スキル錬成『炎火えんか

発生した炎が魔物達を飲み込む。

魔物は悶え苦しみ、暴れた。その影響で炎が少なかった魔物にも火が広がる。

グオオオオオオオオオ!アアアアアアア!

魔物達は悲鳴を上げるが、ほのりは冷淡な目でそれを眺めていた。

「苦しみなさい。天国まで届くように。あなたたちに殺された人達ははもっと苦しかったはずだから」


パチパチパチパチ


木の上から拍手の音が聞こえた。

木の枝に金色の天パを持つ、少年が座っている。

「すごいねー。この魔物2体くらいで、並みの神官なら殺せるのに。

ボク、20体使ったんだよ?」

「あなたは……!」

「んー?」

少年は木から降りてほのりの顔をジーッと見つめた。

「あっ思い出した!

森で会った女の子だね!

君、強かったんだねぇ」

満面の笑みで少年はぴょんと木から飛び降りた。フワリと着地するのと同時に、少年は場にそぐわない優雅な礼をした。

「自己紹介がまだだったね。ボクはメルト。君達が血眼になって探してた、魔族だよ!」

「あなたが、あんな酷いことを……!」

「ええー、全部ボクのせいにされちゃ困るなー。ボクは魔物達に道案内をしてあげただけだよー。ボクは弱いやつはボクが相手をして上げる価値もない」

「よくもそんなことを……!

殺せされた人はみんな、これからの未来があったのに!」

「ふーん、そーなんだー」

テキトウに返事をするメルト。ほのりは青筋をたて、ギロリとメルトを睨み付ける。

「そんなに怒らないでよ。ボクの目的は一つだけなんだ」

「なに?」

「ボクと……あそんでよ」

そう言って、メルトはにぃーと嗤った。


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