第16話

「あの、大丈夫ですか?」

ほのりは木に寄りかかっている少年におずおずと声をかけた。

「平気です!すみません、スキルを使ったら制御できなくなっちゃって。一瞬だったんですけどね!びっくりしちゃったんです」

照れたように少年は頭をかいた。

思っていたより明るい声だったのでほのりは安心した。

「おねーさんはどうしてこんなとこに?」

少年が首をかしげると、金色の天パがふわりと揺れた。

「いや、大きな音がしたから来てみただけ!

君が無事で良かったよ」

「ふーん。心配してくれてありがと。

じゃあね、優しいおねーさん」

バイバーイと手を振り少年は離れていった。

「不思議な子だったな……。体格はめっちゃいいけど、どこか幼い感じだし……」

ほのりが少年の去った方を眺めていると、雪斗が上から降ってきた。

「え!?どうしたの?」

「あまりに敵が多いから木の上を通って撒きながらここまで来た。

一匹ずつ相手にしてたらきりがない。

……逃げよう」

口早に雪斗は言った。

「おっけー!こっちが潰される前に逃げちゃおっか!」

二人は一度魔物の群れと距離をとってから、再び目的地に向かい始めた。


「着いたー!」

アラカルトの入り口にたって、二人は達成間をひしひしと感じていた。

(道中大変だったけど、無事について良かったー)

ほのりはアラカルトに着くまでに起こった出来事を思い出す。

魔物に遭遇するのは日常茶飯事。

それに加え、途中で遭遇する女の子の数が異様に多いのだ。

偶然魔物に襲われてた旅人の少女、未だに奴隷制度が残っている村から逃げ出してきた女の子、複雑な事情を抱えた村娘、身分を隠した高貴な女性…………etc。

何か悲鳴や争う声が聞こえる度にほのりは雪斗より先回りし、責任を持って解決してきた。

そういうわけで、ほのりは雪斗以上にヘトヘトである。空元気でなんとか乗りきっているが、そろそろどこかに座りたい。


ぽっぽっぽーくーるっぽー


「なんだ?」

雪斗が眉をひそめる。


ぽっぽっぽーくーるっぽー


バサバサと羽音をたてて、雪斗の肩に鳩が止まった。首もとには手紙がくくりつけられている。

手紙にはアラカルトの地図が手書きで記されていた。どうやら宿屋までの道だ。おそらく、アラカルトにつく時間を想定して、鳥を送っていたのだろう。

手紙を受けとると鳩はどこかへ飛んでいった。


「ここか……」

地図で指示された場所は小さいがきれいな宿だった。

主人のおじさんに話しかけると、教会の関係者ならただで泊まってもいいとのこと。

「昔、魔物に襲われているところを教会の人たちに助けてもらったんですよ」

と、嬉しそうに当時の様子を語っていた。

二人は早速町の人に聞き込みを始めた。

魔物はこの町の具体的にどこら辺に出現しているのか。最近変わったことはないか。怪しい人物を見かけたことはないか。

多くの人に聞いたが、雪斗もほのりもこれといった収穫はなかった。

「駄目だー魔族見つからないー」

二人は案内された一室のベッドに寝転んだ。


その様子を離れた場所で覗いているものがいた。

一人は金髪の少年。もう一人は黒いロングヘアーの美しい女性だ。

「うわー勇者とは思えないだらけぶりだよー。

っていうか、僕が証拠なんて残してると思ってんのかな。失礼しちゃう」

プリプリと怒っているのは、以前ほのりが森で会った少年だ。

「ふふっ、そんなに怒るな、メルト。

どうやら今回の勇者は一味ひとあじ違うようだぞ」

ワインを味わいつつ、マギーサはメルトを慰めた。

「へえ……。強いの?」

「さぁ?

ただ以前遊んでやった時に、可能性は感じたけどねぇ。昔よりは強くなっているようだから殺しがいはありそうじゃないか?」

「マギーサ様がそう言うんだったら間違いないや!なんてったって、マギーサ様は今まで魔王軍を攻めてきた勇者を全員葬っているんだから!」

「こらこら誇張するんじゃないよ。

私の精鋭の子にやられた勇者もたくさんいたじゃないか。そういえば、お前も何人か殺してたね」

「いたっけ?そんなの。

……まぁいいや。ボクは強い人と戦えればそれでいいの!

あーあー、退屈ってやだな。死にたくなるもの!」

ピョンとメルトは座っていた椅子から飛び降りた。

「行くの?」

「うん!勇者たちとたっくさん殺し合ってあそんでくる!」 

「そう。次からは無断で私の部屋に入ってくるなよ」

「はいはーい」

メルトはマギーサの部屋を出て勇者の元へ駆け出した。

退屈を紛らわし、自分と遊んでくれるものを求めて。

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