第15話
翌朝、雪斗とほのりはお城の門を出た。
「地図は持ちましたね?」
ほのりは手渡された地図に目を落とした。
今いる場所が点滅している。
「その地図が点滅している場所は現在地図の所持者がいる場所です。アルタイカの場所にマークをつけておいたので、そこに向かって下さい。食料は忘れていませんか?」
「はい。この大きいリュックのほとんどは食べ物ですよ。こんなにありがとうございます」
「足りないものがあったらなんでも言ってください。雪斗様は近くの市場で旅に必要なものを買いたそうとしていたらしいですね。ほのり様から聞きましたよ。そんな必要はないのですよ。足りないものは、全て教会が準備します。
旅の途中でなにかありましたら、すぐに手紙を書いて近くの鳥に渡してください。
私のところに届けてくれますから。
私はこの教会から離れることはできません。ですから、手紙をもらった際には、他の人を送ります」
ルシーが教会から離れられないことを聞き、ほのりはホッと胸を撫で下ろした。一緒に旅をするとなれば、ルシーと雪斗が付き合う可能性がグンと上がるからだ。
「はい、分かりました。
ありがとうございます」
雪斗とほのりはお礼を言って教会を後にした。
雪斗とほのりは地図を見ながら森のなかを進んだ。
「なんか思い出すな。初めてこの世界に来た時のこと」
雪斗は手を頭の後ろに組み、そう呟いた。
「あーそうだねー。
二人で慌てて……特に雪斗がっ!」
からかうようにほのりが言う。
「しょ、しょうがないだろ!
死んだと思ったら森のなかにいて、それも異世界に来たっていうんだから。
それに比べてほのりは元気だったよな。
……いや、なんかゾウリムシがなんたらって言ってたよな。今思うとほのりも疲れてたんだな」
「あはははは」
ゾウリムシのことは真っ赤な嘘である。ほのりは誤魔化すように森の風景を眺めた。
「あっ!そうだ。
その時初めて雪斗はスキル使ったんだよね。
すごいなぁ。
スキルを詳しく習った後だと、雪斗の凄さがもっと分かったよ!」
「そんなことないよ。ほのりのアドバイスのおかげだし……。それに俺がもっとしっかりしていれば、ほのりを危険な目にあわせずに済んだのに」
落ち込む雪斗をほのりは必死に励ました。
「そんなことないよ!
あの熊はきっと魔物だったんだよ。
まだこの世界に来たばっかだったんだし、勝てっていう方が無理あるよ!」
「そうか。ありがと……っておい!」
いつかと同じように二人は伏せた。
大きな足音と共に地面が揺れる。
巨大の熊がいた。頭には角が生えている。
しかし昔見た個体よりもずっと大きかった。
二人はその魔力量を観察する。
「ほのり……あれは」
「うん…………勝てるね!」
雪斗とほのりは茂みから飛び出す。
二人は熊の魔物に向かって駆けた。しかしほのりは足に急ブレーキをかける。
しばらく沈黙し、雪斗に叫んだ。
「私は反対から来てるやつを相手してくる!」
走りながら雪斗も叫ぶ。
「任せた!無理はするなよ!」
ほのりは魔力で気配を感じ取った場所へ向かう。魔力は操れるようになれば気配を感じとれたり、防御することだってできるのだ。
「なるほど、こいつらか……!」
ほのりの目の前にはさそりがいた。だが熊ほどではないが、体の大きさが大きい。ほのりの顎くらいに頭の位置がある。魔物だ。
「早く殺して雪斗のところに戻らないと!」
ほのりは胸元で指を合わせた。
ガサガサと葉の揺れる音がし、さらに三体のさそりが現れる。
「複数……!
……いいね!いい力試しになりそう!」
ほのりはスキルを展開した。
ほのりの背中を見送った後、雪斗は手首を二度と回した。
―――――創造『斧』
雪斗の手の中に巨大な斧が現れる。
魔物は大きな手で雪斗を潰そうとした。
それを避け、雪斗は魔物の足元に滑り込む。
そのまま斧を一閃した。スパッと魔物の足は切れる。バランスを崩し、片ひざをついた魔物の喉を雪斗は素早く切った。
ズゥゥンと音を立てて熊の魔物は地面に倒れた。
「よし!勝てた!」
雪斗は初期に比べ飛躍的な成長を見せていた。
師であるルシーは言葉を具現化するスキルである。想像した物質を具現化する雪斗と戦い方が似ているためアドバイスが的確だった。
雪斗は修行途中のルシーの言葉を思い出す。
『具現化したものに頼りすぎるのは危険です。ですからこれからは体術の訓練をしますよ!
あとは、自信をつけることです。雪斗様の創造する武器には雪斗様の思い込みが反映されます。普通はそれほど切れ味のない武器でも雪斗様がとても良く切れる武器だと思って具現化すれば、切れ味の良い武器が生まれるようです。覚えておいて下さいね』
ルシーの笑顔が脳裏にうかぶ。
雪斗はルシーが教えてくれたおかげで勝てたことを、改めて心のなかでお礼を言った。
雪斗は熊の魔物に手をかざす。紫色の小さな球が魔物から発生し、雪斗に吸収されていった。
紫色の球は魔力である。死ぬ、もしくは動けないほど衰弱している相手からは魔力を吸い取ることができる。ただし死んでいる相手の場合、すぐに吸収し始めないと魔力そのものが消えてしまう。
「……よし、吸収し終わったな」
雪斗が一息ついたとき
「きゃあーーー!」
突然どこかから悲鳴が聞こえた。雪斗は声のした方にダッシュした。
声がしたと思われる場所に到着するとそこにはほのりが立っていた。
足元には赤毛の少女が震えていた。頭には猫耳がついている。
「雪斗!無事だったんだね、良かったー!
女の子が魔物に襲われてたから助けたところです!」
「そうか。ありがとう。ほのりも無事で良かった。
僕のところからは距離があったから、間に合うか心配だったんだ」
雪斗は少女に近づき頭を撫でた。
「怖かったな。どうしてこんな森のなかに?」
雪斗が優しい口調で尋ねると、少女は泣きながら話し始めた。
「あのね、お兄ちゃんと、探検してたの。
綺麗な石があったから、見てたらお兄ちゃんいなくなっちゃって……。
そしたら帰り道も分かんなくなっちゃってぇ……」
「そうかそうか。怖かったな……」
同情しながら頭を優しく撫で続ける雪斗。
そんな中ほのりは一人考え込んでいた。
(うーん……。できれば雪斗が合流する前にすべて解決したかったな……。まぁ、雪斗のお兄ちゃんみが溢れる姿見れたから良しとするか……。
今しなきゃいけないのはこの子のお兄ちゃんを探すこと……)
ほのりは隠れてスキルを使った。
――――――スキル錬成『探知』
ほのりがお兄ちゃんを探している間、雪斗は少女の耳に興味を示した。
「なんで猫の耳が?ハロウィンにするみたいな仮装じゃなさそうだし」
「はろいん……?」
「えーと、確か獣人だよ。動物と人間のハーフ。
この世界の動物には魔力を生まれながらに持ち人間のように生活するものと、魔力を持たず日本と同じように生活する動物がいるの。
知恵のある前者は獲物を襲う場合、後者のふりをしてわざと弱く見せる可能性があるから注意が必要なんだよ」
キョトンとしている少女に代わり、ほのりが小声で答えた。
「なるほど……。でもこの子は僕達に危害を加えるような子ではなさそうだね。
そうだ!一緒にお兄ちゃんを探してあげ……」
「グリスー!グリスー!」
雪斗の言葉は少年の声に遮られた。その声に少女はすぐに反応した。
「おにーちゃん!」
少女は兄に駆け寄った。兄は少女をぎゅっと抱きしめる。
「ここから北にずーっと進むと森を出られるよ。この森は迷いやすいから気をつけて。行き止まりに見えても、道が続いているはずだから」
ほのりがそう教えると、兄の方が一生懸命に頷いた。
兄弟は雪斗とほのりにお礼を言って森を出ていった。
「良かったな……運良くお兄さんが見つかって」
「うん、そうだね」
実は少女の兄があの場に現れたのは偶然ではなく、『探知』で見つけたほのりが、スキル『転送』を使って少女を探していた兄を近くまで連れてきたのだ。
そんなことは露知らず、雪斗は良かったと息をついた。
二人は再びアルタイカに向かって足を進めた。
しばらく歩いた後、雪斗がおもむろに言った。
「なあ、ほのりってスキル作れるんだよね?」
「ん?まあ、だいたいは」
「じゃあさ、目的地に瞬間移動できるスキルとか作れないの?」
雪斗は歩き疲れてきたようだった。ほのりは教会からもらった腕時計を見る。もう四時間経っていた。かなり早いペースで歩いたため、ほのりも息が軽く切れていた。
「うーん、多分無理かな。目的地がイメージできないもん」
「そっかぁ」
「はあ……。そろそろ休まない?疲れてきちゃったよ」
雪斗はすぐに賛成した。
木陰で二人が休んでいると、男の驚く声とドオンという大きな音が聞こえた。
(休む暇もない……)
内心で不満を言いながら、それでも困っている人を見過ごすわけにもいかない、と音がした方へ急いだ。
「雪斗は休んでて!疲れてるでしょ?」
「ほのりだけ行かせられるかよ!」
雪斗は強がるが、息がみだれている。
(雪斗に無理をさせたくない。でもそう言っても聞かないだろうな……。
あれ?)
ほのりは雪斗をちらりと見る。
同じく異変を感じ取っているようだった。
「雪斗」
「ああ分かってる。これは……」
魔物の気配が、雪斗とほのりがいる方に集まってきている。
「大きな声を出しすぎたか」
雪斗は足を止める。
「ほのりは先に行け。俺はここで魔物を止める」
「あの……盛大なフラグをたてているのですが」
「フラグ?大丈夫大丈夫」
「やばいもっと心配になった」
うーんとほのりは悩んだ。
安心させるように雪斗は親指を立てた。
「逃げる体力すら失くすような戦いはしない。俺は大丈夫だ。約束する」
「いい?ぜったいだからね!」
ほのりは音の発信源まで急いだ。
その場所は見ればすぐに分かった。
地面にぽっかりと大きな穴があいていたからだ。
(なにか爆発でもしたの……?)
その穴の奥に視線を移すと木に寄りかかって体育座りをしている少年がいた。
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