第13話
「雪斗とゆっくり話すのは本当に久しぶりだね!」
「そうだな」
雪斗はほのりの淹れた紅茶を一口すすった。
「スキルの特訓はどう?
順調?」
「順調!順調!
雪斗は?」
「僕もまあ、力はついてると思う」
「そっか!良かった!」
ほのりは雪斗との何気ない会話でここ数日の疲れがとれていく様に感じた。感情が収まらず、バタバタと動く足をテーブルの下に隠す。
「ルシーさんが丁寧に教えてくれるおかげで、早くスキルを使いこなせるようになれそうだ」
ピタリとほのりの動きが止まった。
「へえー。ルシーさん教えるの、上手なの?」
ほのりはなるべく怖い顔にならないように気をつけた。
「うん!ルシーさんは教え方が上手いうえに博識で、知識も豊富だから色んなことを教えてくれるんだ。
例えばこの前、魔力は感情によって左右されることもあるって教えてくれたぞ」
「へぇー……それは知らなかったなぁー」
ほのりはティースプーンで紅茶をクルクルとかき混ぜた。
「私を教えてくれてるルミエルさんも説明が分かりやすくてねー。教会の人はみんな頭いいんだね。顔もかっこいいし」
最後のセリフはわざと言ってみた。が、雪斗は顔色一つ変えない。
(嫉妬する素振りはなし……。まっ、分かってたけど!)
「………そうだな。ただ、あの二人は教会の中でも特別優れた人らしいんだ。
他の神官から聞いたんだが、ルシーさんはこの教会のトップらしい」
「トップ!」
(かなり上位の立場だろうとは思ってたけど、まさかのトップだとは……)
「そしてルミエルさんは最年少にも関わらず、教会の中で十本指に入る強さらしい」
「そーなんだ!」
ほのりはルミエルの顔を想起した。
「へぇ……ルミエルさんってそんなに強いんだ……」
(優しそうな顔してるのに、ギャップがすごいな)
とほのりが、思っていると雪斗が突然立ち上がった。
「そろそろ帰るよ。長いしてすまなかったな」
「え?あ、いやいや、こちらこそ来てくれてありがとう」
ほのりも立ち上がり、雪斗を見送る。
その時ドアが開き、ルミエルが入ってきた。
「おや、ほのり様に、雪斗様!
お邪魔してしまいましたか?申し訳ありませんでした。失礼します」
早口で言い、流れるように部屋を出ていこうとするルミエル。
「ちょっと待って!大丈夫です!
雪斗も今帰るところだったし!」
「そうですか。ではお言葉に甘えて失礼します」
部屋に入った後、ルミエルは部屋をうろうろししゃがんだ。
「どうしたんですか?」
「落とし物をしてしまいまして」
ルミエルはしゃがんで落としたものを拾った。
「すみません。この部屋にボールペンを落としてしまっていたみたいで」
ルミエルは胸元のポケットにボールペンを入れた。装飾がしてある高そうなボールペンだ。
「わぁー。素敵なボールペンですね。良ければ見せてもらってもいいですか?」
「ええいいですよ。どうぞ」
こころよくルミエルは雪斗にボールペンを貸した。
「おー……本当に綺麗なボールペンですね」
「ボールペンがお好きなのですか?」
「はい。使う機会がよくあったので。
文房具類は全部好きです」
一度満足げに頷き、ボールペンをルミエルのポケットに戻した。
「あ」
「どうしました?」
「コートのフードが裏返しになってますよ。
直しておきますね」
「すみません。ありがとうございます」
雪斗は後ろに回り、ルミエルのフードを直す。その様子をみてほのりは感心した。
(すごいなぁ、雪斗は。初対面の人とも自然な感じで話せるんだから)
「じゃ、僕は帰ります。ほのり、またね」
「うん!またね!」
ほのりは手を胸の近くで勢いよく振った。
「ほのり様は雪斗様が好きなのですか?」
「へっ!?いやっ!あのっどうしてっ」
「いえ、なんとなくですよ」
フフッとルミエルは笑みを見せた。
「好きっていうか…!気になってるというか……」
顔を真っ赤にしてほのりはちょっとずつ言葉を絞りだした。
顔見ないで下さいぃと両手で顔をおおう。
「そんなに恥ずかしいなら言わなくていいんですよ。本当に……ほのり様は素直なんですから」
ポソリとルミエルは呟く。
「へっ?なんて?」
「いえ、なんでもありません。ああ、そうです。これからのほのり様の特訓の予定をお伝えしましょう」
ルミエルは手帳を開いた。
「ほのり様はもうほぼ完璧です。
低級のモンスターになら余裕で勝てるでしょう。上級にも勝てるかもしれません。
これからは仕上げをしていきましょう。
スキルを使う感覚を忘れないように毎日スキルの練習をしてください。それから人の魔力を見極める訓練も忘れずに。相手の魔力量によって、自分が勝てる相手なのかどうか分かるようになりますから。また、それをやることで自分の魔力量も増えますしね」
ルミエルは手帳を閉じかけた時、ハッと思い出したように手を止めた。
「あ、そうです。ルーティンを決めてください」
「ルーティン?」
「はい、スキルを使う前にする動作を決めておいて下さい。切り替えが上手くいってスキルをイメージしやすくなります。
ちなみに私は人差し指を二回動かすことです」
「なるほど……」
ほのりは考え込んだ。
ルーティンというからには気軽にできるものがいい。そして隠れて使えるように音が出ないもの。
「私はこれにします」
ほのりは合掌のポーズをとった。しかしくっついているのは両手の指先だけだ。
「両手を使っていますが、大丈夫ですか?すぐにとれる姿勢でしょうか?」
「はい、大丈夫だと思います。それに一度スキルを使い始めれば、後はスキルが使いやすくなるので、ルーティンを使う回数も少なくなると思います」
「そうですか。自分に合う姿勢を作ることが一番重要です。これからはスキルを使う前にその姿勢をとってみて下さい」
「はい!」
ほのりが返事をすると、ルミエルは一礼して部屋を出ていった。
扉が閉まる直前にルミエルが振り返り
「頑張って下さいね」
と言った。
その一言でほのりはまた修行を頑張ろうと思えた。
(誰かの応援が力になるのは、地球もここも変わらないんだな)
ほのりは優しい響きを持ったその声が、しばらく耳から離れなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます