第12話

「ルミエルと申します。

勇者様方に会えて光栄でございます!」

ルミエルがフードをとると、きれいな金色の髪が現れた。

目の色はルビー色で、肌は白い。爽やかな雰囲気で、年は20代後半くらいだろうか。

「本日から、ルシーと共に指南役を担当することになりました。よろしくお願いします!」

「こちらこそよろしくお願いします!」

雪斗とほのりはペコリと頭を下げた。

「それで、私はどちらにつけば?」

「ルミエルはほのり様についてください。

貴方のスキルはほのり様と使い方が似ているので」

「え!?」

「ほのり様?なにか問題でも?」

「いえ、なにも!

すみません。えーと、こんなにかっこいい方に教えてもらえるなんてびっくりしてしまって」

「はは、かっこいいだなんて。恐縮です」

ほのりは焦った。なぜなら、順当にいけば雪斗の指南役は……。

「雪斗様には私、ルシーが教えます」

(やっぱりだ)

ほのりは肩をガックリと落とした。

魔力を調節できるようになり、ルシーと雪斗との距離が開くと思いきや、さらに親しい関係になってしまった。

しかし決まってしまったものを覆すことはできない。教えてもらっている立場である以上、異議を申し立てるなんて言語道断だ。

「では、明日からそれぞれ特訓を開始します」

ルシーのその声を聞いた後、ほのりと雪斗は、マギーサ戦の後に用意されたそれぞれの自室に戻った。


次の日、ほのりは中庭に呼ばれた。

まだ日が上りきっておらず、辺りはひんやりと寒かった。

「おはようございます、ほのり様。

今朝は良い天気ですね」

ルミエルはほのりに微笑みかけた。ほのりは会釈で応える。

「では早速スキルについて教えても?」

「はい。よろしくお願いします」

ルミエルは軽い咳払いをして喉の調子を整えた後、特訓の指導を始めた。

「まずスキルとは、魔力と人の想像力を必要とすることはルシーから聞きましたね?」

「はい」

「見たところ現在ほのり様から魔力の漏れは見受けられませんね。時間が経っても魔力のコントロールは完璧とは素晴らしいです。

それでは、これから想像力の方を鍛えます」

ルミエルは下に置いてあったランタンを持ち上げた。

「これは私が自分の部屋から持ってきた、なんの変哲もないランタンです」

ランタンを凝視した後、ほのりはウンウンと頷いた。

ルミエルがランタンを指差すと、ポッと橙色の明かりがついた。

「私のスキルは『光源操こうげんそう』。光を操ります。

目に見える光ならばなんでも」

ルミエルが指を動かすとランタンの中から光が飛び出し、空中で縦横無尽に動いた。

「ほのり様のスキルは『スキル錬成』でしたよね。そのスキルはどんなものか把握していますか?」

「えっと……スキルを作ることができるものだと……」

「そうですね。私もスキル名からそう判断します。しかしそれだけではないはずです。

どんな万能なスキルにも必ず縛りがあります。思い当たるものはありませんか?」

「……あっ!」

熊のモンスターと戦ったときのことを思い出す。スキルで生み出すものも、スキル自体も使えるのは一つだけだった。

「自分で分かっているのなら大丈夫です。

自分のスキルの利点しか把握していないと、戦いにおいて予想外のことが起こりますから」

ルミエルはほのりの手をとった。

「ほのり様は既にスキルを使うことができていると聞きました!

素晴らしき才能です!訓練すれば、勇者様をもしのぐかもしれません。

そうすれば魔王を倒せる可能性も高まります!

一緒に頑張りましょう!」

励ますようにルミエルは言った。

(近くで見るとかなりイケメンだよな、ルミエルさん。爽やか系イケメンていうのかな。素直そうな性格だし。クラスメイトからも先生からも好かれる性格だな)

「はい!よろしくお願いします!」

元気よくほのりは答えた。それを聞いてルミエルは優しく笑った。


修行は順調に進んだ。いや、順調すぎた。

ほのりは既に数回スキルを使っており、コツは掴んでいたので練習はほとんど必要なかった。

ルミエルはほのりの進捗をみながら、訓練の計画を見直すくらいだった。

ほのりは様々なスキルを開発した。

いざというときに思いつくスキルを増やすためだ。


「進捗はどうですか?」

ある日、自室で修行をしているときにルミエルが話しかけた。

「いい感じだと思います。防御、攻撃、サポート、どれもバランスよく作れているはずですから。

でもスキルの種類によって消費する魔力量が違うのが大変です。気をつけて使わないとまた寝込むことになっちゃう」

ルミエルは同意した。

「魔力量はステータスで見ることができませんからね。自分で残りの量を感じとるしかありません。

何回もスキルを繰り返せば、段々と魔力を知覚できるようになりますよ」

ルミエルはポンポンとほのりの頭を撫でるように叩いた。

(なんだろう……胸が温かくなる感じ)

ほのりは口角をゆるく上げた。

雪斗への気持ちは変わらないが、ルミエルに対する好感度がこの数日で上がっているのは事実だ。そのおかげで修行も楽しい。

ルミエルが部屋を出て間もなく、ドアがノックされた。

ほのりはドアに駆け寄った。

「ルミエルさん?忘れ物ですか?」

そう言いながらドアを開けると、そこには雪斗が立っていた。

「雪斗!」

ほのりはパァッと表情を輝かせる。

「どうしたの?

あ、部屋に入って!今お茶を淹れるね!」

「いや、元気な様子を見れただけで十分だ。

最近顔を見てなかったから、顔色を見ておこうと思って」

「あー、最近はお互い訓練で忙しいもんね。

……ってもしかして、心配してわざわざ来てくれたの!?」

「うん、もちろん!だってほのりは僕の大事な幼なじみだからね」

(あくまで幼なじみとして、か。ちぇっ。)

帰ろうとしている雪斗にほのりは慌てて声をかけた。

「お茶くらい飲んでってよ。

時間があるなら久しぶりに話そ?

近況報告もかねてさ」

ほのりが手招きすると、雪斗は素直に部屋に入った。



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