第10話

ルシーが杖を振ると、今度はホワイトボードに『スキル』と浮かび上がった。ルシーの説明につれて、文字が追加されていく。

「まず、スキルの種類は無限にあります。

5歳頃までに、それぞれ個人的にスキルが出現します。

私のスキルは『言葉遣い《ことばつかい》』と呼ばれるもので、その名の通り神に遣える者として言葉を使って戦うことができます。」

雪斗とほのりは首をかしげた。

ルシーはふふっと柔らかく笑った。

「分かりませんよね。みんな最初は同じ反応をします。

実際にお見せしましょう」

ルシーは杖をスッと前に出した。

「このように発した言葉を私は操ることができます」

ルシーは言葉を発すると、『このように発した言葉を私は操ることができます』という光る文字が空中に出現し、杖の根本から先端へと向かった。杖の先頭付近では集まった文字が集合して球体の形をとっていた。球体は金の光を発している。

ルシーは杖を一振りする。球体は発射され、壁に風穴をあけた。

二人は口をぽかんと開け、穴の空いた壁を見つめた。

「これが私の『言葉遣い』です。私のスキルは神職者、神に仕えるものしか使うことができません。

さて、スキルを教えるには、それぞれのスキルを知らなければなりませんね。

お二人のスキルを拝見してもよろしいでしょうか?

以前お二人の情報を読み取らせていただいたときは、レベルの方を見ただけでしたので」

雪斗は自分のスキルを教えた。

「なるほど……。『創造』ですか。面白い……!」

ルシーは満面の笑みをみせた。

「いいですね!流石勇者様です!

『創造』……!漠然としているからこそ可能性が広がるスキルですね!」

興奮してルシーは話した。

「ほのり様は?」

ほのりは少しの間言うのをためらった。

(ここで隠しても仕方ないかな。

レベルを聞かれてるわけでもないし)

「私のスキルは『スキル錬成』です」

「スキル……錬成?」

ルシーは二人に背を向け、口元をおさえた。

「ラッキー!たたでさえ勇者様達のスキルを見れるというのに、そのスキルが今まで見たことのないのものだなんて……!

ああ、一生分の運を使い果たした気がします……!」

とルシーは小声で叫んだ。

ルシーは聖女であると共にスキルの研究者だ。今まで見たスキルのどの系統にも属さないスキルに目を輝かせずにはいられなかった。

ウキウキしたようすで、ルシーは話し始めた。

「まずスキルに必要なのは、イメージ力です!」

「イメージ力?」

「はい、イメージ力です。それさえあれば、自分のスキルの可能性はグッと広がります!

私が杖を使っているのはスキルのイメージをしやすくするためです。

実は杖が無くてもスキルは使えるんですよ」

「じゃああのとき俺がベッドを作り出せたのは……」

「マギーサと戦っているときのことですね?

遠目で見ていました……。すぐに駆けつけられなくて申し訳ありませんでした。

……日常で目にしているものはイメージしやすいため、その影響でしょう。

以前にベッドを出された経験はありますか?」

「はい、一度」

「ではその経験が助けになったのでしょう。

具現化のスキルを持っている人はいますが、複数の物質を出現させられる人はいませんでした。そして時間がたっても具現化させた物質が残ったままの人もいなかった。他の方の物質は数分で消えていました。雪斗様は素晴らしいですね」

雪斗は照れるように頭をかいた。

「ほのり様は以前にスキルを使った経験は?」

「えーっと……。あ、あります。一回だけ」

熊の化物を倒す時に、空をとんだ。その後巨大なハンマーを創った。あ、二回だ。

「雪斗様もほのり様も習うよりも前にスキルを使いこなせているなんて……。

小さい頃からスキルを見てきた訳ではないのに……!

本当にお二人の才能には驚かされます」

「あ、あの……」

雪斗が言いにくそうに切り出した。

「僕達のことは様付けしなくていいですよ。

気楽に呼んで下さい」

フルフルとルシーは首を横に振った。

「すみません、それはできないんです。

勇者様とそれに関わりのある人物には敬意を持って対応する。これは長い間教会で語り継がれて来たことで、この話し方の方が私も楽なんです」

「そうだったんですか。それなら今まで通り呼んで下さい。話を止めてしまってすみませんでした」

「いえいえ。謝る必要はありません。

大丈夫ですよ。気になることがあったら、また気楽に言ってください」

「あ、すみません。私も一つ質問が!」

「?なんですか?」

「さっき説明の時に『このスキルは神職者しか使うことができない』って言ってたじゃないですか」

「あー、はい!言いましたね」

「それって、他のスキルは神職者以外にも使える人がいるってことですか?

つまり……おんなじスキルを持っている人が何人もいることがあるんですか?」

「良い質問ですね!

ええ、その通りです!同じスキルを持っている人は複数人います。というかそういった人が多いです。家のお隣同士でスキルがかぶったと言う話も聞きますし。

これは質問される前に教えるべきでしたね、すみません」

ルシーが申し訳なさそうにそう言ったとき、ドアがノックされた。

「どうぞ入って」

ルシーがそう声をかけると、扉が開き、白い箱をもった男性が入ってきた。

箱は神職者の服と同じように金色で装飾がされている。教会のほとんどは白と金で彩られているのだ。白と金の組み合わせは、聖なる色だと認識されているためである。

男性からルシーが箱を受け取り、開けると透明なガラス玉が二つ入っていた。

「どうぞ」

ルシーに渡されて、ほのりが手に取るとそれは両手で包み込めるくらいの大きさで、触れた場所がじんわりと温かくなった。

「これは何ですか?」

ほのりが尋ねると、ルシーは微笑んで答えた。

魔感球まかんきゅう。スキルを使用するには魔力を介する必要があります。

魔力はスキル使用のエネルギーなのです」

(車を動かすためのガソリンみたいなものかな?)

とほのりは解釈した。

「魔力は生まれつき備わり、何かしらの行動をする度に消費されます。つまり歩くだけでも魔力がその場で消費されてしまうのです。

魔力を使い果たすと私たちは活動限界を迎えます。お二人が眠っていたのは、魔力を使いすぎたことの反動ですね」

「じゃあ俺はこれからスキルを使う度に眠ってしまうのでしょうか?」

不安そうに雪斗が尋ねた。

「そんなことはありません。魔力は自分で調節できます。

魔力を調節できれば、魔力を使いすぎることもありませんよ。

……それに意図せず魔力が漏れている場合、他の人に気取られる可能性もあります」

(だからマギーサに逃げ道がバレたのか。

足跡にでも魔力の漏れがあったんだろう)

ほのりはマギーサと戦ったときを思い返した。あの時は不思議だったことが、今説明されるにつれてだんだんと分かってくる。何も知らなかった状態で、よく死ななかったものだと、ほのりは我ながら感心した。

「魔力をコントロールできるように、この魔感球をお渡しします。

この水晶は魔力を通した量に応じて色が変わります。

魔力が全く通っていない状態では透明。微量の魔力では青。水晶へ流す魔力量が大きくなるにつれ、水晶のは赤に近づきます」

ほのりは自分の魔感球に目を向けた。

よく見ると透明がかった淡い青色をしている。

「雪斗様、ほのり様は元々の魔力量が多いので特に意識しなくても青色には変えられていますね。普通の人だと、部屋を暗くしないと薄く青色に光っていることが分かりません」

「誰でも青色に光るんですか?」

ルシーは軽く頷いた。

「もちろんです、雪斗様。魔力というのは常時人から漏れ出るものです。誇張して言えば、呼吸する際に出る二酸化炭素のようなものです」

「なるほど……」

「ですから完璧に魔力を止めるというのもなかなり難しいのです。しかしそれができる者とできない者では圧倒的に強さが違います。

と、いうことで!」

ルシーが杖を二度降ると、ルシーの言葉と共に大きな文字が宙に浮かんだ。

「この魔感球を青色と赤色に変えること。

そして無色と青と赤の中間、紫色に変えられるようになること。

以上二点がお二人の目標になります」

ルシーは杖をしまう。宙の文字列が霧散して消えた。

「どんなに優秀な者でも、できるようになるまで半年はかかります。

焦らずゆっくりやることが成功への近道ですよ」

ルシーは笑顔で優しくそう二人を励ました。






                   





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