第7話
「大丈夫ですか?」
ルシーは雪斗とほのりに駆け寄る。
雪斗はへたりと地面に座り込んでおり、ほのりは立ち尽くしていた。
「あの……とりあえず休めるところへ……。
壁が壊されていない部屋を新しく用意しますので……」
「あ……ありがとうございます」
かすれた声で雪斗は言った。
「でも……疲れ過ぎて動けません」
「しかし、いつ魔王軍がやってくるか分かりませんし……」
「分かりました」
雪斗は地をはって移動した。
「申し訳ありません。私がいながら……。
担架があれば良いのですが破壊されてしまって。
魔法を使うにしても、スキルをまだ慣れていない状態で使った後に、他の人から魔力干渉を与えると危険ですし……」
ルシーは申し訳なさそうに頭を下げる。
頭を上げる時、未だに立ったままでいるほのりを発見した。
「あの、ほのり様もこちらの部屋に……」
「動かないの」
「はい?」
「ぜんっぜん足動かないです。
ほんとに棒みたいに動かないんです!
不思議なくらい!」
アドレナリンが出ているのか、ほのりのテンションは高い。
「お、落ち着いて下さい!
操作系のスキルは神経を疲労するのです。
足が動かないのはそのせいかもしれません。
ではとりあえず……」
ルシーが指示を出すとほのりは兵士の肩に担がれて運ばれた。
ゆさゆさと揺られながら運ばれているうちに、ほのりは眠ってしまった。
「……のりさん、ほのりさん」
誰かに呼ばれて目を覚ますと、ほのりは白い部屋にいた。床も壁も白で覆われている。
慌てて体を起こすと、目の前にほのり達を異世界へ転送した女神が立っていた。
「あなたは……!」
「おはようございます、ほのりさん。
お久しぶりですね」
「………私、また死んだんですか?」
「いいえ、あなたの魂に干渉しているだけです。寝ている間、魂は無防備ですから」
女神は安心させるように微笑んだ。
「あの……聞きたいことがあるんですけど……」
「答えられることならなんでも」
「なんで幹部クラスの敵が出てくるんですか!?こんな早く!」
女神は気まずそうに目を泳がせた。
「それは、あなた方二人を異世界に転送したことの影響でしょうね……」
「やっぱり……私のせい?」
不安そうに目を伏せるほのりに、女神は慌てていった。
「いえ、そんなことはありません。
まずあなた方を転送したことから、ズレが生じたのでしょう。あなたの読んだ小説では主人公は転生していましたから。
二人転送させた影響も少なからずあるとは思いますが、それは転送させた私の責任です」
女神は目を伏せた。
「ほのりさん、あなたに頼みたいことがあります」
「なんですか?」
「この世界は既にあなたが知っている世界とは別のものになってしまいました。
つまり魔王を倒して世界が平和になるという未来は確約されなくなってしまったのです。
出会う仲間、戦う方法もそれぞれ違ってくるでしょう。
しかし、これは女神の恩恵を与えたあなた方にしか頼めないことです」
女神は静かに頭を下げた。
「女神として、直接依頼します。
この世界を救って下さい」
「……分かりました。っていうか、何もしなくても私たちは狙われるんですよね?
それなら答えは一つしかありませんよ。
その頼み、叶えられるように頑張ります」
「ありがとうございます」
女神は頭を上げ、安心したように穏やかな表情を作った。
「あの、最後に一つ重要な質問をしていいですか?」
「どうぞ」
女神は少し警戒をした。先程の質問よりも、ほのりの気迫が増しているからだ。
それに重要とわざわざ付け加えている。女神にとって答えにくいこと、世界の核心に触れる質問をするかもしれない。
ほのりは大きく息を吸った。
「どうして主人公がハーレムになる世界に飛ばしちゃったんですか!」
それは今までで一番大きく、切実な声だった。
女神は警戒していた内容と全然違かったことに、唖然とし、反応するのに時間がかかった。
「えっとそれは……知らない世界に飛ばす方がつらいと思って……」
「確かに知ってる方がいいですけど、雪斗がハーレム展開になる世界より知らない世界の方が……」
ほのりはしょんぼりとした。
「あ、そうでしたか……」
戸惑いながら、女神は今までの転生者、転送者のことを思い出す。
(だいだいどの子も自分の知ってる世界だと喜んで順応していたのだけれど……。
この子も自分のアドバンテージを生かして橋田雪斗以外の男を付き合うことを考えてもいいのに。それほどまでに橋田雪斗のことを愛しているのかしら……?)
ほのりを見ると、なにやらソワソワしている。
「どうしました?」
「すみません、最後にと言った手前言い出しにくのですが、あと一つちょっと気になることがあって……」
「ええ、なんですか?」
「どうして女神様は、私が今いる世界が『成り上がり勇者』の世界だと知っているのですか?」
「!」
それは世界の核心に迫る質問だ。一つ前の質問との落差から、女神は非常に動揺した。
が、それを悟られないよう極めて冷静に振る舞いつつ、女神はほのりの魂を体へ戻す準備を始めた。
「その質問に答える前にあなたの意識を戻さなければなりません。これ以上は命の危険を伴います」
「え!?
あの最後の質問は……」
「もし、あなたが世界についてもっと理解を深めた時、お答えしましょう」
「それってどういう……きゃ!」
ほのりの真下の地盤がゆるくなり、シュンという音と共にほのりの体は消えた。
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