第2話

「雪斗?朝だよー!起きてー!」

「うわぁ!耳元で大声出すな……って夕方じゃないか!」

雪斗は飛び起き、状況を確認する。

「どこ?ここ?」

「異世界だって」

「は!?」

ほのりは雪斗に一連の流れを説明する。

「……信じらんないけど、ここは僕の知らない場所だし、そもそも死んだはずの僕自身が生きてるからな。信じるしかなさそうだ」

「信じてくれて良かったー。

それで、どうする?」

「なにが?」

「ほら、これからこの世界で生活していく訳だから、まずどこへ向かうか決めないと」

「……ちょっと待って。まだ気持ちが追いついていない」

雪斗は深呼吸をした。

ほのりは雪斗が目を覚ますまでに気持ちの整理が済んでいたが、雪斗は一気に頭に情報が入ったせいでひどく動揺していた。

自分を落ち着かせようと大きく息を吸って、吐く……前に雪斗は息を止める。

雪斗はほのりの袖を引っ張る。

「何?どうしたの?」

「しっ!」

雪斗は人差し指を口にあて、静かにしろと合図する。

ほのりが雪斗の指し示す方を向くと、そこには二足歩行の熊がいた。その頭には角がついている。巨大な足が地面を踏むと、地面の揺れが二人の場所まで伝わった。

ほのりはポツリと呟く。

「かわいい……」

「かわいくない!」

雪斗はほのりの手を引いて、急いでその場から離れた。


「ここ、まで、くれば……」

雪斗は息を切らしながら途切れ途切れに言った。

「にしてもなんだったんだ?さっきのは。

わけわかんない世界にわけわかんない生き物。

なんなんだよ一体……」

頭を抱える雪斗をよそに、ほのりは目を輝かせていた。

さっきの熊……間違いない。

私の好きなライトノベル小説に出てくるモンスター。そしてここは小説通りなら迷いの森。女神様の言っていた私の知っている世界って私が昔読んだラノベ小説の世界だったんだ!

……としたら。

「ステータスオープン」

呟くとレベルやらスキルやら異世界における自分の個人情報が色々と見えるようになった。

「ん?晴香。空を見つめてどうした?」

「雪斗、ステータスオープンって言ってみて」

「え?なんで?」

聞き返してもほのりは答えない。熱心に空を見ている。こんなことは珍しい。雪斗はほのりの言う通りにした。

「ステータス……オープン」

ヴゥンという音と同時に、目の前に長方形の画面が表示された。

「なんだ?レベル?」

上限が99に対して、雪斗のレベルは150。

スキルは『創造』

「おい……おい!ほのり、なんか壊れてる」

「ん?」

ほのりが振り向く。

「レベル何だったー?」

「なんか……150って。あとスキル?が、『創造』って出てる。

ほのりは見えないのか?」

「うん。私から雪斗のは見えないみたい。

150……!すごい!流石雪斗!」

色々と頭が追いついていかないが、誉められて悪い気はしない。

「そうか……?」

「ねえ、お布団出せる?」

「え?」

「お布団!」

ほのりは目を輝かせながら、ずいっと雪斗に体を近づけた。

雪斗は驚き、数歩後ずさる。

(ほのりは急に何を言い出したんだ?

ああ、『スキル』ってところに『創造』って書いてあるからか……。

………スキルって、なんだ?技能のことであってるのかな?

そもそもレベルっていうのもなんの指標になっているのか……

………考えたら頭痛くなってきた……)

「……ちょっと待って」

「ん?」

「ほのり順応能力高すぎないか?

正直、僕は今の状況に混乱している。

ほのりは女神の話を実際に聞いたとはいえ、よくそんなに行動できるな……」

ほのりは困ったように頭を掻いた。

「うーん。実は私もまだこの世界のことよく分かってないし、こう見えても動揺はしてるんだよ?

でもなんか、現実離れしすぎてて笑えてくるっていうか……いっそ楽しんじゃおうというか……」

ほのりはへらっと笑った。

フッと雪斗も笑う。

「やっぱり強いね、ほのりは。こんな状況でも、異世界に来たって、ほのりはほのりらしくて……。僕も元気出てきた気がするよ」

「えへへーそうかなー?

まったくー。雪斗は私がいないと駄目だなー!」

ほのりはニマニマしながら、雪斗に近づく。

ほのりが雪斗の肩をポンッと叩こうした瞬間、タイミング悪く雪斗はくるりと横を向き、一歩前へ出た。

スカッとほのりの手は空を切る。そのままほのりは前方へずっこけそうになった。

雪斗はうーんと唸る。

「布団だっけ?

どうやったら出せるんだ……?」

雪斗は一人はもんもんと考えていた。ほのりが転びそうになったことには気づいていないようだ。ほのりは体のバランスを取り戻した。

「それはね……」

ほのりが胸を張って話す。

雪斗はほのりに向き直った。

(晴香はやけにこの世界に詳しい。昔、友達からステータスとかスキルとかはゲームとか、ラノベ小説とかで出てくるワードだと聞いたことがある……。

もしかしたら晴香はそういったものに詳しいのかもしれない)

と、雪斗は少し期待を胸に抱いた。

「分かんない!」

満面の笑みで答えるほのり。

雪斗の期待は淡く散った。

「とりあえず念じてみればいいんじゃない?」

「あ、ああ……」

雪斗はほのりから少し離れた場所で、言われたとおりに念じてみた。


ほのりは改めて自分のステータスを見る。

「ご褒美くれるとは言ってたけど……

レベルは300……!

おまけに『スキル錬成』……?

話にこんなスキルあったっけ?」

ほのりはこの小説、つまり『成り上がり勇者』が好きだとは言っても、読んだのは一度きり、それも数年前の話だ。それにスキルを使う感覚なんて、読者にはよく分からない。

「おーい。なんか布団出たぞー」

ほのりは雪斗の方を見る。

「おぉ!」

ふわふわのお布団が二つ!ほんとに出た!

「やったー!もう寝よ!」

「ええ……。寝てる間に襲われたらどうするんだ?」

「それは大丈夫!」

ほのりは早速スキルを使ってみる。

――――――スキル錬成『守護壁しゅごへき

目の前に薄く青がかった膜がでてくる。

思ってたより簡単にスキルが使えた。

これで自分達を囲えば安全だろう。たぶん。

「なんだ?この青みがかったナニカは……。

ほのりがやったのか?

そういえば、ほのりのレベルは?」

「え!えーと……雪斗と同じかな?」

裕人より強かったら、引かれちゃうかな……。

男の人は自分より弱いものを守りたくなるらしいし……。

「そっか。で、何が大丈夫なんだ?」

「私が作ったこの青いやつは、私達を守ってくれるの。

あと……この森で、夜は襲われないとかなんか、女神様が言ってた気がする!」

「……その女神って人も完全には信用できないけど……寝るのは必要だからね。寝ようか」

二人は布団に入る。

「雪斗、おやすみ!

一緒に寝るとか、なんだか夫婦みたいだねー」

「馬鹿なこと言ってないで寝ろよ。明日になったら、ほのりのスキルとこの膜みたいなやつについてちゃんと教えてもらうからな」

ほのりは目を閉じる。

(とにかく明日は町に行かなきゃ。

たしか「成り上がり勇者」のエピソードでは……。

…………ん?ちょっと待って?

ほのりは成り上がり勇者のエンディングを思い出す。

【勇者は、魔王を倒して英雄となり、】)

ほのりは目をパチリと開ける。

嫌だあーーー!

お嫁は私だけがいいー!

私が一番長く雪斗のことを想ってるんだからーーーー!

叫び出すのを必死にこらえる。

このままじゃ、雪斗はたくさんの女と付き合うことに……。それどころか、もしかしたら私のことに興味がなくなっちゃうかも……。

幼なじみだったせいで、「ずっと友達」みたいな関係になっちゃってるけど、私は本当に雪斗のことが大好きなのに……。

…………決めた。このチートスキルを使って、雪斗のハーレム展開を全力で阻止させてもらいます!




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