第76話 先客

 俺達は街を出てキラービーの討伐に向かう。

 キラービーの生息地までは距離がありそうなので『ハコニワ』内の従魔を召喚したい。

 久しぶりだ。

 『スピードキャノン』の練習になるし俺達を乗せて走れる従魔がいいな。

 あの島の走行用魔獣はグロイやつが多かった。

 普通な感じの魔獣だと、たしかグラスウルフがいたな。

 とりあえずレベルを100にして召喚してみるか。


 <召喚しますか?>


(はい)


 地面に魔法陣が浮かびグラスウルフが召喚される。

 なんだか久々に召喚したけど上手くいってよかった。


 出てきたのは俺が知っている狼よりかなり大きい。

 レベルが100だからか、これぐらいになるのだろう。

 

「大きな狼ですわ。これなら三人一緒に乗れますわね」


 詰めれば乗れそうだけど、さすがに三人は狭そうだ。


「もう二匹召喚するから待っててくれ」

「レンヤさん! 大丈夫です。このまま三人で乗っていきましょう!」

「ん? でも狭いだろ?」

「いえ、これぐらいでしたら問題ありませんわ」

「そうですね。いいと思います」

「そうか?」


 まあ二人がいいと言うならそれでも構わないけど。

 三人なら、なんとか乗れるか。


「で、どういう配置で乗るんだ?」

「そうですね。わたくし、レンヤさん、ネネという感じでどうでしょうか?」

「分かった。やってみるか」


 俺達はグラスウルフに乗り込む。

 グラスウルフは嫌がる素振りも見せず、大人しくしている。

 野生の生き物なら嫌がりそうだけど、従魔契約していると文句も言わず乗せてくれるみたいだ。


「レンヤさん落ちると危ないので、わたくしの前のグラスウルフの毛をつかんでください。ネネはレンヤさんの腰に手を回して落ちないように!」


 シーナは小柄なので俺の手の中に体がすっぽりと収まっている。

 まるで後ろから抱きしめているみたいだ。

 するとシーナは少し頭をずらし俺に持たれかかってきた。

 ネネは俺の腰に手をやり後ろからギュッと抱きついてくる。


 二人の柔らかさと体温、そして女性特有のいい匂いが分かるぐらい密着している。


「おい、なんだこの体勢は!」

「ふふ、レンヤさんみんなが幸せになれる乗り方ですわ」


 きっぱりと言い切るシーナ。


「さ、さすがです。シーナ様!」


 ネネも満足しているみたいだ。

 まあたしかに俺的にも損は……ない。

 むしろ役得と言った方がいいか。


「……じゃあこのまま行くか」

「「はい!」」


 二人の元気な声が返ってきた。

 俺達は進む。

 

 グラスウルフは俺達三人を乗せているとは思えないほどスムーズに走る。

 脚も太いし身体も大きいのでパワーはあるようだ。

 振動も少ないしスピードもかなり出るのでレースでも使えそうだな。


「風が気持ちいいですわ」

「ああ、そうだな」


 安定感のある走りだ。


 あっという間にアミール高原に入った。

 リトルに乗ったスララも並走する。

 たまにいる魔獣はスララとリトルで倒しているので問題ない。

 『ハコニワ』内にドロップアイテムが納品されていく。

 さらに強くなるな。


 しばらく行くと街道が見えてきた。


「ん? 誰かいるな」

「兵士みたいですわ」


 鎧を装備して槍を持った三人組の男たちが街道にいる。


「止まれ!」


 そのうちの一人が俺達を制止する。

 俺達は少し手前で止まり声を掛ける。


「なにかあったのか?」

「ここから先は強力な魔獣が出るので立入り禁止だ!」

「ああ、キラービーだろ? 俺達は討伐に来た」

「そうか。今さっきそう言って入って行った冒険者がいたぞ」


 そう言って俺達を警戒する兵士たち。


「そうなのか。同じ依頼をやるなんてことがあるのか?」

「まあ、今は『スピードキャノン』前なので強い冒険者がこの街に入ってきているから、そんなこともあるかもしれないな」

「依頼が被ることがあるのか?」

「ああ、未解決案件だと早い者勝ちみたいなところがあるからな」


 なるほど、そういうものなのかもしれないな。

 ましてや俺達は手が空いた時にやればいいと言われていたので、先にやる者が出てきてもおかしくはない。

 

「君たちは三人でキラービーを討伐するつもりなのか?」

「ああ、そのつもりだけど。普通は6人組が主流なんだっけ?」

「そうだな。基本は6人以上が望ましい。だけどそんな強力な魔獣を従えているなら君たちは強い冒険者なんだろ?」


 いや、冒険者ではないんだけどな。


「ギルドカードを見せてもらっていいか?」

「あー、これでいいか?」

 

 俺はグラスウルフから降りてギルドマスターから貰ったカードを見せる。


「なんだこれ? 似ているけど本物か?」


 若い兵士は不思議がっている。

 ん? ギルドマスターから直接貰ったから間違いないはずなんだが。


「ちょっと待てそれは……」


 後ろにいた少し年配の兵士が、若い兵士からカードを受け取り確認している。


「こ、これはギルドマスター直轄のカードじゃないか! 俺も初めて見たぞ」

「直轄のカード!」

「ああ、通常の冒険者の枠にとらわれない強者に渡されるらしい。その強さはSランクの冒険者を超えるといわれている……」

「まさか……」


 なんか凄い驚いているぞ。

 身分証になるとはいっていたけど、ここまでとは。

 ただの記録用カードじゃなかったんだな。


「ギルドマスターの推薦なら間違いないでしょう。お通りください」

「いいのか?」

「はい。ですが先ほども言いましたが先客が戦闘中と思われます」

「問題あるのか?」

「ええ、後から参戦した場合には報酬面で、もめることがあります」


 なるほど。たしかに取り分をどうするかとか面倒そうだ。

 下手に手を出さない方がいいかもしれない。


「分かった。様子を見ながらやってみる」

「ご武運を!」


 俺達はキラービーの元に向かう。

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