第74話 すり替え

 今日は朝からマルティーロさんの商会に向かう。

 魔獣の素材がいくらで売れるのか楽しみだ。


 そういえばコカトリスの素材とドロップアイテムもインベントリに入れっぱなしだ。

 スララが回収してくれたからな。


 本来ならギルドで買い取りなんだろうけど、非会員はそこら辺自由みたいだ。

 ギルドマスターのサーシャもなにも言ってなかった。

 引き取ってもらえるかマルティーロさんに聞いてみるか。


 店内に入ると結構な人数の客がいる。

 朝から道具をそろえて冒険にいく者たちなのかもしれない。


 奥にマルティーロさんが見える。


「おお、レンヤさん! ようこそいらっしゃいました」


 マルティーロさんは快く迎えてくれる。


「セレスさんから連絡を貰ってね」

「そうですか、お待ちしておりました。こちらの部屋にどうぞ」


 そういうと店の奥の部屋に通される。


「こちらで座ってお待ちください。準備して参ります」


 そういうとマルティーロさんは部屋から出ていく。

 通された部屋は前回と同じで大きく綺麗な内装だ。


「店には色々と置いてありましたね」

「そうだな」


 武器、防具、各種道具など多岐にわたる品物がおいてあった。

 ここだけで冒険に必要な物は揃ってしまうのかもしれない。


 するとドアをノックする音が聞こえ、アヤメが入ってくる。


「いらっしゃい。レンヤはん。シーナはんもネネはんも」


 そういうと俺たちの前に飲み物をおいてくれる。


「ああ、ありがとう」

「レンヤはんたちコカトリス倒したんやって?」

「なんだ、もう知っているんだな」


 やっぱりこの街は噂が広がるのが早い。


「男一人女二人の三人組が倒したって色々なお客さんたちが噂しとんよ。そりゃもう、レンヤはんたちだとピンときたね!」


 この店は人の出入りが激しそうだから噂も耳に入りやすいのだろう。

 

「コカトリスの素材はこちらで引き取り可能なのか?」

「もちろんや。喜んで引き取らせて貰います」


 それを聞いて安心した。

 困ったらアヤメのところに持ってくれば何とかしてくれそうだ。

 まあ『ハコニワ』内に入れておけば、お金以外は問題ないのだけどな。

 もしかしたら『ハコニワ』で金貨とか作れるかもしれないけど……。


「レンヤさん、お待たせしました」


 マルティーロさんが台車と共に部屋に入ってくる。


「それはなんだ?」


 台車の上には布が掛けられている。

 するとマルティーロさんは布をとりいう。


「こちらがお預かりした素材の引取り額になります」


 台車の上には金貨が山積みになっている。

 キラキラと金色に光る光景は圧巻だ。


「まあ!」

「す、凄い枚数ですね、レンヤさん!」

「ああ、一体何枚あるんだ?」


 俺はマルティーロさんにたずねる。


「はい。2000枚になります!」


 たしか金貨一枚10万円だったか。

 ということは金貨2000枚で二億円!


 強くなってからはそんなに苦労することもなく魔獣を討伐していた。

 それでこの金額を貰えるんだから凄いことだ。

 まあ、あの島の魔獣が特別だったのだろう。


「ずいぶんと高めに査定してくれたんじゃないか?」

「いえいえ、適性な価格でございます。うちの方で引き取らせていただいてよろしいでしょうか?」

「ああ、全部売らせてもらうよ」


 まだまだ素材はあるからな。

 換金出来てよかった。


「ところで引き取った素材は幾らで売るつもりなんだ?」


 俺は興味本位で聞いてみる。 


「ふふ、レンヤはん、それは秘密に決まっとるやん。いくらレンヤはんだって教えられへんよ」

「まあ、それはそうか」

「ええ、申し訳ありません」


 マルティーロさんは頭を下げる。

 アヤメもマルティーロさんもムフフといった笑みがこぼれているので、俺が思っている以上に儲けがあるのだろう。

 

 しかし2000枚の金貨か。

 はっきり言えば今のところ使い道がない。

 この街で生活するのにこんなにはいらないようだし。

 必要な物は『ハコニワ』で作ることもできる。

 ならば。


「アヤメ! この金貨500枚を運用してみないか?」

「運用?」

「ああ、アヤメに金貨500枚を預けるので、この資金を元手に増やしてもらいたいんだ」

「ふーん、うちの商人としての資質を確かめているんやね……」


 アヤメは考える素振りをみせる。


「レンヤはんの取り分はどれぐらいや?」

「儲けの三割でどうだ?」


 俺は少し吹っ掛けてみる。


「いやいや、ぼったくりやん! せいぜい5%ってところやね」


 アヤメは無理無理といった態度。

 商人モードに入ったようだ。


「じゃあこれを付けるといったらどうだ?」


 インベントリから腕輪を取り出しみせる。


「腕輪……やね?」

「これはマジックバッグだ。以前アヤメが海賊に襲われたとき、運搬していた荷物以上の容量が入る。これをやるといったら?」

「そ、そんなに! そんなら話は別やね……」


 容量があれば一度の取引量が多くなるから効率がいいはず。

 どうやらアヤメは頭の中で計算が始まったようだ。 

 

「そんなら、儲けの10%……いや15%でどうや?」

「……いいだろう。元金が半分になったら契約解除でどうだ?」

「ええ、問題あらへん。必ずプラスにします、オーナーはん」


 俺達は契約の握手をした。

 マルティーロさんも満足そうだ。

 アヤメの契約自体は商人として正しかったみたいだな。

 俺も金額の四分の一の投資だから妥当なところだろう。


「レンヤさん」

「ん? なんだシーナ?」

「難しいことを言っていましたけれど、結局はアヤメさんにマジックバッグをあげることが目的だったのではありませんか?」

「そうですね、シーナ様。独占欲とかマーキングみたいな感じでしょうね」


 とネネも続く。


「……」


 シーナさんネネさん、そういうことは思っても口にしてはいけないんじゃないかな。

 そんなことを思う俺だった。

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