第73話 差異
宿に戻って来ると受付の女性が声をかけてくる。
たしかセレスさんだったか。
「おかえりなさいませ、レンヤ様。先程マルティーロより連絡がありまして査定の方が終わりましたとのことでございます」
マルティーロさんに預けた素材が鑑定できたみたいだ。
明日の朝にでも商会に顔を出してみるか。
「ありがとう。あと夕食を頼みたいのだが」
「承知致しました。席をお取りします。20分ほど致しましたら食堂までお越し下さい」
「よろしくたのむ」
セレスさんから鍵をもらい自分達の部屋に向かう。
「着替えて少しのんびりできますわね」
「そうだな」
あちらの準備もあると思うけど、こちらも帰ってきて落ち着けるような絶妙な時間設定なのだろう。
俺達は『浄化』をかけて体を綺麗にする。
荷物を持たないでいいというのは身軽だ。
重さによって体力を奪われることもない。
この世界のインベントリやマジックバッグの有用性は素晴らしいと思う。
荷馬車などは走っていたので全員がマジックバッグを持っている訳ではないらしい。
シーナ曰く。
「高いのですわ」
という事らしい。
容量の割に高級すぎるようだ。
だったら普通に運んだ方がいいということなのだろう。
冒険者はパーティーで一つマジックバッグを買っているようだ。
それほどに庶民には高級なのだろう。
『ハコニワ』で作って安く売り出せば、かなり儲けられるような気がする。
まあ、やらないけど。
着替えてリビングに行くと二人もやってくる。
「レンヤさんわたくし達の格好は変ではありませんか?」
くるりと一周回り全体を見せるシーナ。
『ハコニワ』が用意した洋服だろう。
二人は戦っている時の服とは違いラフで甘い感じの格好をしている。
容姿が整っているというのはいいものだ。
どんな服でも着こなしてしまう。
なんだかずるい気がする。
「ああ、二人とも、とても似合っているよ」
「まあ! レンヤさんがとても素直ですわ」
「本当です。怖いですね」
おいおい、二人には俺はどんな人間に見えているんだ?
俺はいつも素直なんだけど。
「レンヤさんもお似合いですわ」
「はい。カッコいいです」
男の俺でも褒められると、なんだかくすぐったい気持ちというか、まあ嬉しい。
女性が意識的に変えた部分は、積極的に褒めていかないといけないのが分かる気がした。
「ありがとう。じゃあ食堂に行こうか」
「そうですね。お腹空きましたわ」
「はい。行きましょう」
これでちょうど20分ぐらいなのだろう。
食堂に行くと朝のビュフェスタイルとは違いコースメニューのようだ。
俺達は通されたテーブルで向かい合って座る。
俺の前にシーナとネネがいる感じだ。
出される料理は美味しい。
想像していた異世界の食堂とは違いホテルのディナーって感じだ。
マルティーロさんもいいところを紹介してくれたみたいだな。
まあ、俺としては庶民的な食堂も好きなので今度探してみたいと思う。
「おい、コカトリスを倒したパーティーがでたらしいぞ」
「マジか! あの未解決依頼だろ?」
隣からそんな声が聞こえてくる。
「なんでも男と女二人のパーティーってはなしだ」
「はあ? 冗談だろ、三人だけで倒したっていうのか?」
「ああ、そうらしい!」
興奮気味に二人の男は話している。
倒してからそんなに時間は経っていないはずなのに噂になっているようだ。
この街は噂が広がるのが早いみたいだな。
まあギルドには人がたくさんいたし、人伝に広がりやすいのだろう。
「サーシャさんからいただいた書類には、なんと書かれていたのですか?」
シーナは聞いてくる。
サーシャ? ああ、ギルドマスターのことか。
一瞬誰のことか分からなかった。
「ああ、未解決依頼の詳細だな。発生している魔獣の種類、場所とかだな」
俺は左腕のマジックバッグから依頼書類を取り出し二人に見せる。
「色々とあるのですわね」
「そうですね、シーナ様」
「あっ、昨日のコカトリスありますわ!」
「ああ、あいつも未解決案件だったからな」
なぜ他の冒険者が依頼を避けていたのか分からない。
手こずる案件なのか?
だとしたら俺が思っている以上にギルドの冒険者の質が悪いのかもしれない。
「結局サーシャさんの依頼を受けることにしたのですね?」
「まあな。片手間でいいと言ってたし、期限もなかったからな」
全ての依頼をやる気はないけど、できる範囲でやればいいだろう程度にしか考えていない。
「二人も書類に目を通しておいてくれ」
誰かが覚えていれば達成の確率も上がるだろう。
「明日はマルティーロさんのところに行くからアヤメに会うだろ?」
「そうですわね」
「とりあえずアヤメの依頼を優先するよ」
「まあ!」
口に手を当て上品に驚くシーナ。
アヤメ案件は先に頼まれていたからな。
そりゃあ、優先するだろ。
「やっぱりレンヤさんはアヤメさんには甘々ですわ」
「そうか?」
「はい。間違いありません!」
「……明日素材がいくらになるか楽しみだな!」
「「!?」」
俺はスルースキルを取得した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます