第72話 概要

「ふう、私も最近事務仕事ばかりしているせいか焼きが回ったな」


 ギルドマスターはため息をつく。


「ギルド会員が君の力を目の当たりにして心を折られたのも納得したよ。私も鍛え直さないといけないな」


 俺を見ながらそんなことをギルドマスターはいう。


「しかしシーナとネネを見ると越境者の周りの者も強くなるというのは本当らしいね」

「そんな風に言われているのか?」

「ああ、昔の賢者のパーティーも強者がそろっていたらしい」


 強い者が鍛えれば周りの人間も必然的に強くなりやすいってことか。

 シーナとネネも才能があったとはいえ、あの島で俺と会わなければここまで伸びなかったはずだ。

 まあ。二人が強くなっていくのを見るのは楽しいし嬉しい。



「なあ、もう一度魔力値測定してもいいか?」

「? ああ、別に構わないが、これは潜在的な魔力を測る魔導具なのでレベルアップしない限り先程と変わらないぞ」

「魔力を纏って高めても意味はないと?」

「そういうことだな」


 たしかに普通ならそうなのだろう。

 俺は魔導具に手を置く。

 やられっぱなしも癪だからな。


 ギルドマスターは魔導具をみつめる。


「えっ! ま、魔力値が徐々に上がっていく! ど、どういうことだ?」


 俺は『偽装』のスキルを少しずつ解放させる。

 それにより真実の魔力値に近づいていく。

 

「8千……9千……ま、まだ上がっている。まさか!」


 すると、魔導具から出ていた光が点滅し消えた。


「!? まさか魔力値10000を越えたっていうのか!」


 測定中の魔導具からの反応が消えたことに、ひどく驚いているギルドマスター。

 

「レ、レンヤ、君はとんでもないな。……どうやら私は完全に君の実力を計り間違えていたようだ……」


 ギルドマスターは椅子の背もたれに寄りかかり天を仰ぐ。


「君を私のコントロール下におこうなんて虫が良すぎたようだ……。今までの非礼を詫びよう。すまなかった」


 そう言ってギルドマスターは頭を下げる。

 その時コンコンとドアをノックする音がした。

 ドアが開くと先程の受付女性とは別の女性がトレーを持って入ってくる。


「失礼いたします。お持ちいたしました。ギルドマスター」

「ああ、ありがとう」


 女性はカードと書類が入ったトレーを俺たちのテーブルにおく。


「これは?」

「ああレンヤ、君用のギルドカードで身分証明にも使える特別製だ。使うといい」


 仮のギルドカードと違ってしっかりとした作りのカードだ。

 初めから用意していたみたいだな。


「で、この書類は?」

「ああ、それは君に頼もうとしていた依頼だよ。まあまたお蔵入りだけどな」


 事前に用意しておくようにあの女性に言っておいたのか。


「別にやってもいいぞ」

「へっ?」

「さっきもいっただろ」

「だ、だってさっきすごく怒っていたし、なんか私にひどいことしそうな雰囲気だったじゃないか!」

「そうか? 男が女性にそんなことするわけないだろ?」


 俺がそう答えると、隣にいるシーナとネネのひそひそした声が聞こえてきた。


「嘘ですわ」

「ええ、怒気がもれてましたね」


 とかなんとか。


「そ、そうだよ。とても受けてくれる雰囲気じゃなかったと思うのだが?」

「ん? じゃあ、やらなくてもいいか?」

「い、いや。き、君は意地悪だな。ぜひお願いしたい!」


 そういうとギルドマスターは書類をみせてくる。


「これが未解決の依頼で手こずっている案件だ。まあ、何かのついででも構わないのでよろしくたのむ」

「倒せばいいのか?」

「そうだね。記録はギルドカードに保管されるからあとで確認させてもらうことになるけど」

「ああ、分かった」


「しかしレンヤ達なら『スピードキャノン』の予選も楽勝だろうな。やり過ぎるんじゃないのか不安だけど」

「のんびりやるさ。予選は魔力測定だけなのか?」

「いや例年だとスピードや持久力を試すものとか色々だな。ある程度人数が減るまでおこなわれる。本選は従魔を使ったレースって感じで結構盛り上がるよ」


 へぇー、従魔に乗っていくのか。

 うちにも優秀な従魔はいるからな。


「従魔は飛行するものは禁止されている。まあ自走しろってことだね」


 ということはリトルに乗っていくのはダメなのか。

 リトルの浮遊で行けたら快適だと思うんだけど。

 『ハコニワ』内の従魔で長距離自走タイプなのはいることはいる。

 足がいっぱいだったり、うねうねしたものだったりと、中々にグロイ感じのものたちだけど。


「普通は皆どんな従魔に乗っているんだ?」

「大体は馬系とか鳥系とか、あとはドラゴン系の従魔に乗っているね。全部飛ばないタイプだな」


 走りに特化した従魔がいるようだな。


「そうか探してみるか」

「ああ、そうしてみるといい。引き止めて悪かったね。依頼もよろしくたのむ」

「ああ、またな」


 俺たちはギルドをあとにした。

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