第71話 思惑

「『スピードキャノン』は冒険者たちのレースっていうのは知っているかな」

「ああ、それは知人から聞いている」


 商人であるマルティーロさんが言っていたな。 


「そうか。一か月後から始まる第一予選では魔力測定がおこなわれる。ここでふるいに掛けられ人数が絞られる」

「ずいぶん単純な予選なんだな」

「まあ、毎回参加人数が増えているからね。分かりやすい基準で強さを測っているのだろう」


 運営側も数値で分かれば判断しやすいのだろう。

 なんだかギルドマスターはノリノリで説明してくれる。

 この街の人達にとって切ってもきれないイベントっていうのが分かるな。


「なんなら試しに測定してみるかい?」

「ん? ここで測れるのか?」

「ああ、ギルドでも正規の新人や希望者は測定するからね。測定器はあるよ」

「そうなのか。じゃあ測定をたのむ」


***

 

「予選通過ラインは魔力値6000ってところかな」


 ギルドマスターはそういうと機械のような物をテーブルにおく。


「これが測定器なのか?」

「ああ魔力測定用の魔導具だ。昔いた賢者の技術が使われているらしい。国の研究機関からの支給品だ」

「昔の賢者は凄かったんだな」

「そのようだね。色々な魔導具を開発していたようだ。今の研究機関の前身もその賢者がつくったと言われている」

「そうか」


 それだけ凄い人物なら会ってみたいものだ。


「まあ今は行方不明で居場所は誰にも分からない。不老不死と言われているけど生きているかさえあやしいな」


 どこかにいる可能性はあるってことか。


「では先ずは黒髪の君からかな。ネネだったね?」

「はい。どうすればいいのですか?」

「ああこの上に片手を置いてくれ」


 ネネは言われた通り魔導具の上に手をおく。

 すると光がネネの手を包み込む。

 しばらくすると光は消えた。


「終了だ。ネネ、君の魔力数値は6100だ」

「はい」

「そうか。じゃあネネは基準値クリアしたな」

「ああ。問題ない」


 実はネネの今の魔力値は6000を遥かに超えている。

 でも魔導具に表示された数値は6100。

 これは『偽装』スキルでそう見せている。

 ネネはそれを使った。


 『偽装』スキルは『譲渡』スキルでシーナとネネにコピー済みだ。

 回数制限はあったけど二人には持っていて欲しいスキルだったので使用した。 

 測定される機会もあるとおもい、やっておいて正解だったな。


「じゃあ、次はシーナ、たのむ」

「はい。分かりましたわ」


 シーナも同じように魔導具の上に手をおき測定する。


「おおっ! 若いのに凄いな! 魔力値7000だ」


 ギルドマスターは感嘆する。

 もちろんシーナも『偽装』を使っているので実際の魔力値よりかなり低い。 


「シーナは魔法使いだから魔力値は高いのさ」


 と言っておく。


「では最後にレンヤ、君だな」

「ああ」


 どれぐらいの数値にした方がいいのか悩んだけどシーナより少し多い7300にしておいた。

 これで皆、基準をクリアだろう。


「これなら予選を通過できるなギルドマスター?」

「ふふっ、そうだな……」


 なんだか意味深な態度だ。


「うん、よく分かったよ。君たちがバケモノ級の強さってことがね!」

「!? 突然どうした?」


 確信を得たという態度をするギルドマスター。


「先程予選通過ラインは魔力値6000といったけど、あれは嘘だよ」

「嘘?」


 なぜそんな嘘を?


「本当は半分の3000さ」

「3000! ずいぶん少ないな」


 いや、暗殺者だったザギルは800しかなかった。

 それを考えると多いのか。


「しかもパーティー6人の合計でだ」

「6人合計!?」


 一人平均500ってことか。


「つまり君たち一人一人が単純に魔力値だけでいうと6人の倍以上の強さってことになるね」

「!?」


 まんまとやられたってことか。

 たしかに魔人であったグエンは魔力1万を越えていたので勘違いしていた。

 普通の人間で魔力1000を越える者はそれほど多くない。

 はじめてあった時から越えていたシーナは才能があったのだろう。


「ちなみに私はSランクの冒険者だけど魔力値は3500だ。この魔力値はかなりの高位といわれていて私の上は数人しかいない。それを君たちは全員、遥かに越えているってことになるな」


 なるほど。それ故のバケモノ級あつかいってことか。

 まあバレたらバレたで、どうでもいいけど。

 それでいて不都合があるなら、こちらも考えがある。

 

 俺は取得したスキルを探っていく。


(束縛、毒矢、暗器……そういえば分析した呪いの類もあったな……)


「ひぃ、待て待て! 待ってくれ! 何をするつもりだ! 別に取って食おうって訳じゃないさ! そんな怖い顔をしないでくれ!」


 ギルドマスターは慌てふためいている。


「ん? なんだやるんじゃないのか?」

「な、なにをやるんだ! わたしに勝ち目なんてあるわけないだろ? レンヤ、君は越境者じゃないのか?」


(……やっぱり喉ぐらい潰しておいた方がいいか?)


「だ、だからそんな怖い顔をしないでくれ! それだけの力を持っているのは昔の賢者と同じで越境者じゃないかと思っただけだ」

「なるほど。まあ、そうだな。正解だ」


 特に知られても問題ないのでいっておく。


「やはりそうか。そんな伝説の人間と同じ越境者に会えるなんて光栄だよ」


 そう言いながらギルドマスターは額の汗をぬぐう。

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