第70話 ギルドマスター
奥の部屋に行くと机に座る一人の女性がいた。
書類と格闘しているらしく山積みになっている。
「ギルドマスターお連れしました」
あの女性がギルドマスターのようだ。
「ああ、ありがとう。皆さんそこに座って貰えるかな」
俺達はうながされソファーに腰かける。
凛とした声の女性のギルドマスターだ。
シーナとネネより少し年齢は上のようだが若いな。
ある程度年齢のいった強面の男性を想像していたから意外だった。
「ふふ、女性のギルドマスターは珍しいかい?」
どうやら顔に出ていたようだ。
「まあな。男かと思い込んでいたからな」
「ギルドマスターはSランクの冒険者なんですよ」
案内してくれた受付嬢が教えてくれる。
Sランクってたしか一握りしかいない凄腕の冒険者だったか。
「案内ご苦労様。下がっていいよ」
そう言うとギルドマスターは受付の女性を退出させる。
「はじめまして、私はサーシャ=ウェストン。ここのギルドマスターを務めている。名前を聞いてもいいかな?」
「ああ、俺はレンヤという。二人はシーナとネネだ」
シーナとネネはお辞儀をする。
「よろしく。突然呼び出して悪かったね」
そう言うとギルドマスターは俺達の前の椅子に腰かける。
「いやそれは構わないけど、何の用事なんだ?」
「ああ。二、三質問させてもらいたいことがあってね」
「そうか」
「まずはコカトリス討伐の懸賞金だ。受け取りたまえ」
トレイに並べられ金貨が、俺達の前のテーブルに置かれる。
「これ多くないか?」
金貨10枚が二組と2枚。
つまり22枚置いてある。
コカトリス二匹分としても多い。
「いや合っているよ。少し色を付けておいた」
「そうなのか。ではありがたくもらっておく」
間違いでないのなら貰っておこう。
俺は金貨の上を左手でなぞる。
金貨は手品のようにスッと消えた。
腕輪型マジックバッグ内の共有スペースに収納する。
「ほう。なかなか面白い技をもっているね」
目を細めるもあまり驚かなかったようだ。
ギルドマスターともなると、少しのことには動じないのか。
「ではあらためて一つ目の質問をさせてもらう。……コカトリスは三人で倒したということでいいのかな?」
「ああ、そうだ」
「そうか。そんなに簡単に倒せる魔獣ではないのだがな。ましてや二匹となると……」
「そうなのか。それほど大した相手ではなかったけどな」
「なるほど……まあいいだろう。では二つ目の質問だ。朝の強力な魔力はレンヤ、君のものか?」
朝といえば『ハコニワ』を発現させた時のことだろう。
「ああ、そうだな」
「なるほど。君は凄まじい力の持ち主のようだな……」
少し考えた素振りを見せると彼女はいう。
「実は君のせいで何人かギルドを辞めたいと言い出した者がいてね。困っているんだ」
「俺のせい? どういうことだ」
「ああ。君の魔力に当てられて自信喪失したとか、そんなところだろう」
「それって俺のせいなのか?」
それぐらいで自信を無くしていたら魔獣とは戦えない気もするけど。
冒険者ならギリギリの戦いも多いはずだ。
「さあ、どうだろうな。でも少しは責任を感じないか?」
ギルドマスターは少し嫌な言い方をしてきた。
たしかに恐怖は心と体を委縮させる。
考えさせられるところもあり、俺は少し言いあぐねた。
「すまぬ。冗談だ。これぐらいで尻込みしている輩は、一から鍛え直さなければならない。絶望に打ち勝ってこその冒険者だからな」
悪戯っぽい笑みでギルトマスターはいう。
たしかに得体の知れない魔獣を相手にするんだから、それぐらいの覚悟は必要だろう。
「では本題に入ろうか。単刀直入に言おう、レンヤうちのギルドに入らないか?」
そんな気はしていたけど、やはりそれが呼ばれた理由か。
「それはギルド会員になれってことか?」
「そうだ。シーナとネネだったな、二人にも会員になって貰いたい」
俺達全員の勧誘か。
だけど、ここは素直に言っておこう。
「俺達は旅をしているので、この街に定住する気はないんだ」
「なるほど。それで未登録で依頼を受けたのか。引っかかるのは有事の際って条項かな?」
「まあ、そういうことだ」
有事の際に強制的に招集されていたら旅にも行けないしな。
そういうのはこの街を根城にしている人間の方が適任だろう。
俺達みたいな旅人には向いていない。
「ではその条項を君たちだけ外すというのはどうだ?」
「ん! そんなことをしたらギルド側にメリットがないだろう」
ギルドにとってはおいしい所だけを持っていかれてしまう。
「いや、そうでもない。コカトリスをあっさりと倒す戦力は魅力的だ。うちとしてもメリットはある」
「そうなのか」
「まあ、無理強いはしない。では、たまに指名依頼をやってもらうぐらいならどうだ?」
「あー、まあそれぐらいだったらな。でもやっかいな依頼なんだろう?」
「正直にいえばそうだ。主に魔獣討伐になるけどな」
「この街にいる間なら構わない」
「ああそれで結構だ。そうしてもらえると助かるよ」
まだしばらく滞在しているからな。
その間に出来るならやってもいい。
「そういえばギルドマスターは『スピードキャノン』って知っているのか?」
「ああもちろん。この街で知らない奴はいない。なんだレンヤたちも参加するのか?」
「少し興味があってな。内容が知りたかったんだ」
「そうか。じゃあ少し説明してやろう」
そういうとギルドマスターは話し始めた。
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