第61話 近似

「スララまた船の警備頼むな。何かあったら連絡よろしく!」


(はーい)


 スララが警備してくれるなら安心だ。

 《魔獣のおやつ》をお礼にあげておこう。

 凄く喜んでいるみたいだから良かった。


 食べっぷりがいいので美味しいのだろう。

 『ハコニワ』がどんどん改良してくれているからな。

 味も良くなっているはずだ。


 俺はスララと別れ、歩きで商会をめざす。

 薄暗くなってきた街並みに光が灯った。

 魔導具の光なのか意外に明るい。


 この世界では火で灯りをとるような、そんな想像をしていた。

 でもこの街は思っていたより技術が進んでいるようだ。

 動力は魔力みたいなので『ハコニワ』が作った《発光トーチ》のような物だろう。


 俺の知らない技術かもしれないので『分析』で『ハコニワ』に情報を送っておこう。

 実は『分析』は常時発動させているんだけど、分析する対象が多すぎるのか、いまいち機能していない感じだ。

 だから絶対に情報が欲しいものは自分で発動させた方がいいことに気が付いた。

 イメージしやすいし得られる情報も多い気がする。


 

(しかしアルルか……)


 不思議な生き物がいるものだな。

 ケット・シーと言っていた。

 完全に猫のぬいぐるみが喋っているようにみえた。

 握手をしたとき温かみがあったので生きているのは間違いない。

 あんな生物がいると異世界に来たんだなと実感する。


 周りを見ると人間以外の獣人が結構いる。


(あれは犬、狼、虎もいるな。あれは獅子か?)


 鳥系や爬虫類みたいなのもいる。

 まだまだ色々な種類がいそうだ。

 しばらく人間観察ではなく人外観察をしていたら、あっという間にマルティーロさんの商会に戻ってきた。


 入口から入って行くと店番の男が不思議そうな顔をする。

 

「お客様、アヤメお嬢様のお連れ様ですよね? いつの間に外に出られたのですか?」

「ああ。ここは通らずに外に出たからな」


 『転移』で移動したからここは通ってはいない。

 本当のことは言っていないけど、嘘も言っていないよな。


「……そうですか」


 何だか納得していない様子の店番の男。


「マルティーロさんの部屋に行かせてもらっていいか?」

「あっ、すみません。お通り下さい」

「ありがとう」


 ショーケースの前を通り部屋へ向かう。

 たしかこの部屋だったな。

 一応ノックをして反応を待つ。

 「はーい」という声が聞こえたのでドアを開ける。


 全員いるので俺がいなくなった後も、そのまま話していたみたいだ。


「ただいま!」 


 それぞれが皆お帰りといってくれる。


「レ、レ、レンヤさん先程はどうやって消えたのですかあああ!」

「レンヤはん凄い技もっとるな!!」


 マルティーロ親子は興奮気味だ。

 あれ? アヤメにも『転移』を見せていなかったか。


「ああ、あれは『転移』のスキルだよ。『探知』出来る範囲なら移動できるんだ」

「はああ、素晴らしいスキルをお持ちですなああ!」

「めちゃめちゃな能力やね!!」


 たしかにこのスキルは驚くだろう。

 目の前で人が消えるんだから。


 そういえば海軍のコモンズも自重しろよとか言ってたな。

 あまり『転移』を多用するのは良くないかもしれない。

 いざという時は使うけど、それ以外は控えめにしておくか。


「船の方は大丈夫でしたかレンヤさん?」


 シーナには俺が出て行った理由を言っていた。


「ああ、大丈夫だった。今はスララに見張りをしてもらっている」

「そうですか。それは良かったですわ」

「あーそういえば、ケット・シーに会ってな初めて見たよ。この世界には結構いるのか?」

「ケット・シーですか。珍しいですわね。スカーレット王国では、ほとんどおりませんでしたわ」

「トレイルには結構いるのかアヤメ?」

「いや、そんなにはおらんよ。少数やね」

「そうか」


 意外に少ないんだな。

 会えたのは結構貴重な体験だったのかもしれない。


「獣人だけど妖精に近い存在やから希少かも知れへんなぁ」

「へぇ、妖精か。結構可愛かったからな」


 女性陣がピクっと反応する。


「レンヤさんそのケット・シーは女性なのですか?」

「ん?」


 女性? そうだな『鑑定』では女性と表示されていた。

 でもほとんど猫だから、雌って言った方がしっくりくるような。


「まあ、女性といえば女性だったぞ」


 アルルは自分のことを僕とか言ってたけど『鑑定』は女性なので、ボクっ娘ってやつか。

 あれだけ猫の顔をしていたらどっちでもいい気がする。


「レンヤさんは女性に甘いですからね」


 ネネがそんなことを言い出す。


「そうですわね……」

「せやね。そうかもしれへんね……」


 何だか二人もおかしな反応だ。

 女性の前で他の女性を褒めるのはあまり良くないのかもしれない。

 まあペット的な可愛さだし皆も会えばメロメロになるだろう。


「そういえばアルルが言っていたけど、この街で大会があるって聞いたんだけど何かあるのか?」

「アルルちゃんですか……」


 シーナがジトっとした目で見てくる。

 ここはスルーしてマルティーロさんに目配せした。

 するとマルティーロさんはいう。


「それでしたら『スピードキャノン』のことですな」


 『スピードキャノン』? どんな大会だ……?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る