第60話 妖精猫
しゃべる猫は獣人って奴なのかな。
大きな瞳と耳。
全身にふわふわの毛があり、しっぽも付いている。
「猫か……」
「違うにゃ! ケット・シーにゃ!」
「ケット・シー?」
「お兄さん知らにゃいの?」
「ああ、初めて見た」
洋服を着て剣を装備している猫なんて普通見たことないだろう。
この世界では常識なのか?
ぬいぐるみがしゃべっているみたいだ。
「そのケット・シーさんが俺の船で何をしてたんだ?」
「ケット・シーは名前じゃないにゃ。僕の名前はアルルにゃ」
「アルルニャ?」
「アルル! にゃ」
「で、そのアルルは何してるんだ?」
「えっ! そこはお兄さんも名乗るところじゃにゃいの?」
自分が名乗ったからといって、相手も名乗ってくれるなんて思うなよ。
「俺の船に勝手に乗っている奴に普通は名乗らないだろ?」
「にゃあああ! たしかに! ごめんにゃ、勝手に乗ったのは謝るにゃ。でもでも船を傷つけるつもりなんてなかったにゃ」
ぺこぺこするアルル。
何だかそんな愛らしい顔で謝られると罪悪感が半端ないんだけど。
俺がいじめているみたいじゃないか。
「傷つけようとしていなかったのは分かった。じゃあ何してたんだ?」
「えっと、この船に強い力を感じたにゃ。それが気になって見にきたにゃ」
この船の材料は普通じゃ使わない魔獣の物を使っているし、何か感じるものがあるのだろう。
『鑑定』とは違って感覚的なものなのかもしれない。
「そんなことが分かるんだな?」
「ケット・シーはそういう感覚が鋭い種族にゃ。お兄さんからもとても強い力を感じるにゃ」
『隠蔽』と『偽装』のスキルで本当のステータスは、分からないようにしているはずなんだけど。
本当に鋭いんだな。
「レンヤだ」
「にゃっ?」
「俺の名前」
悪い奴でも無さそうだし名乗ってみた。
見た目の可愛さに、ほだされた部分はおおいにあるけど。
「ああ、レンヤって名前なんにゃ。よろしくにゃ!」
そういうとアルルは背伸びして手を伸ばす。
握手を求めているようだ。
俺は少しかがんでアルルの小さい手を握る。
「よろしく!」
指短いな。
肉球がとても気持ちいい。
でもこんな手で剣を握れるのか不思議だったので聞いてみた。
「けっこう上手くできるにゃ」
そういうとアルルは剣をシャっと抜く。
にゃあにゃあと空中を斬ってみせる。
剣も身体に合わせて小さい。
「へえ、器用なもんだな」
「ふふん。アルルは剣士だからにゃ。剣の扱いには慣れてるにゃ」
たしかにしっかりと握れているみたいだ。
肉球でグリップがいいのかもしれない。
「レンヤはこの街の人じゃないにゃ?」
アルルは剣を鞘に納めるとそんなことを聞いてきた。
「ああ、違うけど、どうしてそう思ったんだ?」
「ん、格好も街の人達と違うし、とても強そうにゃ。大会の参加者かと思ったんにゃ」
「大会?」
「あれ? 違ったかにゃ? 強者はこの街に集まってきてるから、そうだと思ったんにゃけど」
何か勘違いしているみたいだ。
俺は何の大会かも知らないしな。
「いやこの街には観光で来たんだよ」
シーナとネネの国の情報収集という目的も忘れてはいない。
しかし二人にはそれほど急がなくてもいいと言われている。
だから観光がメインで間違いないだろう。
「そうなんだ、観光なんにゃ……」
納得いってない感じだな。
その時二人の男が俺たちに近づいてくる。
「何か問題か? アルル!」
そのうちの一人がアルルに話しかける。
ガタイのいい少し強面の男。
どうやらアルルの連れみたいだ。
服にアルルと同じ円形のマークが見える。
冒険の仲間かチームの証みたいな物なのだろう。
どうやら俺がアルルに絡んでいるようにでも見えたのか。
俺を警戒して二人の男は睨んでいる。
下手なことをすれば飛びかかって来そうだ。
「この人は悪い人じゃないにゃ。ちょっと話してただけにゃ」
アルルは二人をなだめるようにいう。
「そうなのか。すまない兄さん脅かしてしまったな」
男の一人が俺に話しかけてくる。
「ああ、問題ない。これだけ可愛いなら心配にもなるだろう」
「にゃにゃにゃ!」
うちのスララとリトルとまた違う癒し力。
チームのマスコット的存在なんだろう。
「なかなか話が分かるな、兄さん」
「まあな」
可愛いは共通したようだ。
自然と笑顔になる俺たち。
「む、迎えも来たしそろそろ行くにゃ、レンヤ。会えて良かったにゃ」
「ああ、俺もだ」
「でもレンヤとはまた会えそうな気がするにゃ」
「そうか? まあしばらくはこの街にいるからまた会えるかもな」
「じゃあにゃ!」
「ああ」
そういうとアルルは二人の男に連れられて去っていった。
(この世界には人間だけでなく色々な獣人がいるんだな)
魔人もいたしな。様々な人種がいるのだろう。
そういえばアルルは大会がどうとか言ってたな。
男たちがきたから聞きそびれた。
戻ったらマルティーロさんに聞いてみるか。
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