第59話 遭遇

「では、レンヤさんよろしくお願いします」

「ああ、分かった」


 食事の後、俺達はマルティーロさんに魔境島で取れた物を見せることになった。

 絶対に見てみたいです、みたいな執念に押された訳ではないけど断りにくい雰囲気だ。

 まあこちらとしてもこの世界の相場が分かるし、良い値段が付くなら売ってもいい。

 街を見て歩くならお金も必要になるはずだ。


 俺はインベントリから一つ一つドロップアイテムを出していく。


「こ、これは! まさか! いや、素晴らしい!」

「お父様、こんな物まで!」


 出すたびに二人が驚いてくれるので面白くなってくる。


「フ、フ、フレイムドラゴンの爪じゃないですか!! これだけで、もの凄い金額になりますなああ!」


 興奮が冷めたいようだ。


「これらはあの島で取れるのですね?」

「ああ、そうだな取れるぞ」


 魔獣から獲れるドロップアイテムの他に島に自生している草なども、上級の回復薬に出来るようで価値があるみたいだ。

 鉱物も武器や防具、魔導具を作る時に使えるので高値で売れるらしい。


 俺は入れていなかったのでスララが採ってインベントリに入れておいてくれたのだろう。

 さすがだな。


「ぜひ、調査隊を組んで島に行ってみたいですな」

「いや、それはたぶん無理だな」

「どうしてでしょう? 島の周りの嵐は去ったのではないのですか?」


 たしかに嵐を破壊して俺たちは島を脱出できた。

 しかしその後、伝道者であるエヴァンが現れて嵐を修復している。

 今はまたあの島に近づけないはずだ。


「俺達が嵐を抜けた後、また嵐が発生したみたいなんだ。近づくのは厳しいとおもう」

「そうなのですか!」


 元に戻ってしまったのだから今まで通り、この世界の人々には入ることはできないはずだ。

 

「あの嵐を越えて島にたどりつくのは無理だとおもう」

「そうですか。それは残念ですな……」 


 仮に嵐を突破できたとしても中にいる魔獣を相手にしなくてはいけない。

 相当な戦力を集めなければならないし犠牲も出るだろう。

 最悪全滅も考えられるので、お勧めはできない。


「分かりました。あまり欲をかいてもいけませんね。こちらの品々ですが鑑定に数日いただきたいのですがよろしいでしょうか?」

「ああ、量もあるしそれで構わない」

「ありがとうございます」


「実はこれとは別に調べてもらいたいことはあるのだけど」

「ほう、なんでしょう? 私で出来る範囲でしたらお調いたしますが」


 マルティーロさんの商会は大きいので情報網があるはずだ。

 この世界のことは詳しいかもしれない。

 

「スカーレットという王国を調べて欲しい」

「スカーレットですか」

「シーナはんとネネはんの故郷みたいなんよ」

「そうですか。たしかこの大陸の反対側にそんな国があったはずです」


 やはり結構距離があるみたいだ。


「分かる範囲で構わないので調べて欲しい。もちろん依頼料は払う」

「いえいえ、お代は結構でございます。少しお時間をいただきますがお調いたしましょう」

「助かります。お願いします」

「承知しました」


 これでシーナとネネの国について少しは分かるかもしれない。

  

 するとスララがひょこっと姿を現していう。


(ふねにだれかいるよー)


 スララとリトルは外をぶらついているみたいだ。

 分裂ができるので船に残っている分体もいるのだろう。

 そいつが知らせてくれたようだ。


「船に誰か来たみたいだ」

「そうなのですか。誰なのでしょう?」


 シーナは不思議そうにいう。


「詳しくは分からないけど今から行ってみる。二人は残って待っていてくれ」

「分かりましたわ。気を付けて行ってきて下さい」

「ああ、ありがとう行ってくる」


 俺は『探知』で船を探り『転移』で船まで飛ぶ。


「「!?」」


 マルティーロさんとアヤメは驚いただろう。

 あの二人なら能力を少し見せてもいいような気がする。

 特に言いふらすこともしないはずだ。


 一瞬で船の目の前に来た。

 やはり『転移』は便利だ。


 人影がみえる。


「誰だ! 俺の船に用か!」

「にゃああ! びっくりしたにゃ!」


 そう言った人物は突然現れた俺にかなり驚いた様子だ。

 

「おかしいにゃ。『探知』出来なかったにゃ。きゅ、急に目の前に人があらわれたにゃ!」


 その人物はあたふたしている。

 まあ『転移』してきたからな。

 『探知』の外から飛んできたから察知するのは無理だろう。

 

「あ、あやしいものではないにゃ。ちょ、ちょっと船に興味があって見てただけにゃ」


 そう言った人物は小柄な体形で、控えめに言って凄く可愛い。

 

 服を着て二足歩行する、しゃべる猫だった。

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