第58話 駆け引き
「どうぞレンヤさん」
椅子を引いて少し微笑んでいるネネは俺をうながす。
「おっ、ありがとうネネ」
進めてくれた椅子に俺は腰掛けた。
次にネネはシーナの座る椅子を引こうとするとアヤメがいう。
「ネネはん、うちの給仕の仕事とらんといてなぁ」
後ろに控えている人達がオロオロして困っている。
「あっ! ご、ごめんなさいアヤメさん」
無意識だとは思うけど、やってしまったことをネネは詫びる。
「そういえばネネはシーナの侍女もやってんだよな」
「はい。シーナ様の専属として仕えています」
だからなのかネネは自然な感じで俺たちに席を進めてくれた。
アヤメが止めるってことは、本来はその家の給仕さんやら仕えている人が、俺たちをもてなすものなのだろう。
しかしネネはシーナに仕えている癖なのか、ついやってしまうみたいだ。
剣客な印象が強い彼女だけど、この様な所作も様になっている。
まあ主人でもない俺にまで気を使ってくれるのは気恥ずかしいけど、嬉しくもおもう。
「ネネはんも今はお客様やからね。うちらにもてなさせてなぁ」
「はい。よろしくお願いします」
***
「ほう、ではレンヤさん達はあの島から来たということですか?」
食事が始まるとマルティーロさんはそんなことを聞いてきた。
やはり俺達の出身は気になるみたいだ。
「ええ、でも罪人ではないですよ」
大体この手の話をすると言われるので先にいってみた。
魔境島は罪人流刑の地だからな。
「はい。それはそうでしょう。長年私も商人をやっておりますので話をすればその人がどんな人かは大体分かります。レンヤさんもシーナさん、ネネさんも悪い人ではありませんな」
商人として色々な人物を見て来たのだろう。
人を見抜く力には自信があるようだ。
「ましてや、アヤメの命の恩人ですから多少の事には目を瞑ります」
多少かどうかは微妙なところだけど信頼してくれるというなら良かった。
こちらの世界の警察のようなところに突き出されてもかなわない。
「ああ、それは助かる」
「それで、レンヤさん達はあの島で船を作って嵐を越えてここまで来た、ということですな?」
「まあ、簡単にいうとそう言うことになるな」
途中で海賊やら海軍とかと色々あったけど。
「まさか! あの嵐を越えられるなんてえ! 船も特別性なのでしょうか?」
「そうだな。一般の船とは違うかな……」
特別といえば特別で間違いない。
「嵐を越えれたのは船ではなくレンヤさんのお力ですわ」
「ど、どういうことなのでしょうかシーナさん?」
シーナは嵐を破壊したのは俺であって、それにより島を脱出できたことを話す。
特に知られても問題なさそうなので俺はシーナの話を止めなかった。
「嵐を破壊ですか……にわかには信じがたい話ではありますけど……」
たしかに気象を破壊するとか言われても普通はピンとこないだろう。
まあ、実際にできてしまったし信じるか信じないかはマルティーロさん次第だな。
「こ、この街へ来たのは何か目的がおありですかな?」
「アヤメを送る目的もあったけど、大陸の街を見たいというのがあって、まあ観光かな」
「そうだったんですね。でしたらうちが経営している宿屋がありますのでしばらく
仮拠点にされてはいかがでしょう? もちろんお代はいただきません」
「ほう」
街を探索するなら拠点はあった方がいいかもしれない。
しばらくはこの辺りを観光しようと思っているし、遠くへ行くなら引き払えばいいだろう。
仮の拠点だし、お代を無料にしてくれるのも魅力だ。
あまり長くいるようなら、その時は料金を払えばいいだろう。
「では、お言葉に甘えさせてもらいたい」
「それはよかった。お部屋は一部屋でよろしいですかな?」
「はい。結構ですわ」
「はい。問題ありません」
おいおい、お前ら何勝手に答えている。
シーナもネネもそこら辺、強引になってきているな。
嫁入り前の娘がどうとか言っている自分が馬鹿らしくなってきた。
しかし一応年長者として言わなければならない。
「お前らな」
「どうかしましたレンヤさん?」
「問題ありましたか?」
「なんやレンヤはん、もてもてやね。うちも一緒に泊まろうかなぁ」
おい! アヤメお前も参戦か。
まったくこの娘たちは、自分達の魅力が分かっていないようだな。
「でしたらレンヤさん、一部屋ですがツーベッドルームタイプのお部屋でどうでしょう?」
見かねたマルティーロさんが助け船をだしてくれる。
さすがです。
「じゃあそれでお願いします……」
俺はうなずく。
「まあ、仕方がないですわね」
「そうですねシーナ様」
「三人ともおもろいな」
そんな感じで食事は進んだ。
もちろん食べ物や飲み物もとても美味しかった。
そして食事が終わりお茶をしているとマルティーロさんがいう。
「では後ほどあちらで売っていただける物をみせていただけますか?」
マルティーロさんとアヤメの目が金色に光ったように見えたのは気のせいだろう。
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