第55話 入港

 俺たちの船は進み、ついに大陸が見えた。

 魔境島から脱出してアヤメたちの船が海賊に襲われていたところに遭遇。

 そして海賊を討伐。

 それを助けたことでトレイル王国への手掛かりができた。

 

「……やっとまともなところに行けるな」


 ぽつりと俺は独り言を漏らした。

 ダンジョンやら魔獣の島やらまともな人里はこの世界に来てから初めてだ。

 まあ、おかげで俺も『ハコニワ』も色々とできるようになったし成長した。

 

 そして従魔や一緒に旅する仲間ができたのは良かったと思う。

 実際にも精神的にも助けられた。

 一人だったら違う結果になっていたかもしれない。

 

 大陸を眺めてみると大きな湾がある。

 アルファベットのCみたいな形で、開いている部分に関所のような場所が見える。


「あそこで船の入国審査をしてるんよ」


 たしかに狭くなっている部分で多数の船を停めさせている。

 海門とでも言ったところか。

 あそこで入国審査をしているようだ。

 基準をクリアした者は入国できるのだろう。


「ダメだったらどうするんだ?」

「ん、それは追い返されるやろね」


 不適格なら入国もできないのか。

 

「まあ海賊とか犯罪者でもなければ入国できるんやけどね」


 よほど悪い事をしていなければ大丈夫ってことか。

 

「しかし結構、船が並んでいるな……」


 何隻、何艘も船がいるので審査に時間が、かかるのかもしれない。

 するとアヤメがマストの上を指差していう。


「うちらにはあれがあるやん!」


 コモンズたち海軍に貰った識別旗か。

 まああっちが勝手に勝負の景品にしてきたんだけどな。

 結構使えるのかこの旗は……。


「あれがあれば行列に並ばんでも入国できるんよ」

「もしかしてあっちの空いているところから入れるのか?」

「ふふ、その通りやレンヤはん」


 行列は出来ていないみたいだし、ひょっとしたらあそこから通れるのではないか。

 そんなことを考えた。

 とりあえず、もう少し近づいてみることにしよう。


 近づくと兵士のような男が赤い旗を振っている。


「すみません! 停船お願いします」


 こちらの門でも一応停められるようだ。

 俺は船を停止させる。


「ありがとうございます。こちらには商売か何かでしょうか?」


 男はちらりと識別旗を見た。

 確認しているようだ。


「いや、ええっと、旅行で来たんだけど」


 うん、嘘は言っていない。


「そうですか。分かりました問題ありません。お通り下さい」


 マジか! こんなにあっさり通していいのか?

 荷物の確認とか怪しい人物が乗っていないかとか、確認することがあるだろ。

 犯罪者だったらどうする。

 あっ、シーナとネネは魔境島に送られたので罪人か?

 でも二つの国はかなり離れているみたいだし、交流がないみたいなので大丈夫なはずだ。


「しかし凄いなコモンズに貰った旗は」

「そうですわね。こんなにあっさりと入国できるなんて、よっぽど信頼のある証なのでしょうね」

「そんな物を勝負の景品にしていいのかと思うけどな」

「はい。普通はやりませんよね」

「まあまあ、貰えるもんは貰っとこ」


 あっさりと門を通った俺達は港町の停泊場所をめざす。

 船を停めておかないといけないからな。


「ふふ、それもええところに停められるんよ」


 アヤメは嬉しそうにいう。

 なんでも信頼ある船のみ停められる港があるらしく、俺たちの船もそこに停めていいということらしい。


「これはコモンズに感謝だな!」


 景品にされた時はどうかと思ったけど、とても良い物をもらったかもしれない。

 ここまでのVIP待遇を受けれるとは思わなかった。

 今度会えたらお礼でもしよう。


 俺は港に船を停泊させた。

 

「ようこそトレイル王国へ!」

 

 アヤメは両手を広げて誇らしげにいう。

 大きくて賑やかな街並みは美しい。

 船での入出港が多いこの街は貿易で栄えているのだろう。

 アヤメが誇るのもうなずける。


「素晴らしいところだな」

「喜んでもろうて良かったわ」

「わたくしたちの国は内陸なので、海があるのが羨ましいですわ」

「はい。港がある街もいいものですね」


 俺たちが絶賛しているとアヤメは嬉しそうに微笑む。


「そういえばレンヤさん、船は持っていかれるのでしょうか?」

「ああ、そうだな……」


 インベントリに入れていけば持っていくことは可能だ。

 しかしこのサイズの船がいきなり消えるのはどうかとおもう。

 多分インベントリはこちらの世界では希少な能力なはず。

 でなければアヤメやコモンズたちがあそこまで驚かないだろう。


 だから今回は船はそのまま停泊させておく。

 その代わりに《魔導船》能力を発揮させよう。

 とは言っても大したことではない。


 帆はマストに自動収納して入口は全て魔法的なロックをかける。

 シュッ、ガコッみたいな音がした。

 その音に周りがビクッと反応するけど、まあ船が突然消えるよりはいいだろう。


 これで操縦席に入ることも船を動かすこともできない。

 ちなみにフレイムドラゴンの外殻をベースに色々と強い部品を使ってある。

 普通にやったらとても壊せる物ではない。

 

 改良版発光トーチも装備しているので侵入者がいれば俺に知らせがくる。

 セキュリティーも万全だ。


「じゃあ、アヤメの商会に行こうか。案内頼む」

「了解や」


 俺たちはアヤメの店に向かうことにした。

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