異世界に飛ばされたけど『ハコニワ』スキルで無双しながら帰還を目指す

第52話 契機

「お前は驚くことばかりだな、レンヤ」

　コモンズは少し楽しげにそう言ってくる。

　スキルを使った変わった戦い方が可笑しかったのか、ただ驚いただけではなかったみたいだ。

　こちらもスキルの複数応用で一定の成果をあげられたのは良かった。

「ここからが本番だろ？」

　コモンズは戦い足りないようすで、俺に言ってくる。

　俺としてもスキルの実験に付き合って貰ったので、戦いを続けたいとはおもっている。

　いい加減まともに戦ってくれと言われそうだけど、もう少しやりたいこともあるしな。

　コモンズとしては純粋な力勝負みたいなものを望んでいるのだろう。

「ああ、続きをやろうか」

　魔力を練り注ぎ込む。。

「『風纏』！」

　緑色の魔力が身体の周りに集まる。

　濃密な魔力は船を振動させガタガタとした音があちこちから響く。

「風がっ！」

「あれ『風纏』か！」

「なんて魔力だ！」

　辺りから驚きの声が上がる。

　俺を中心に風がまわり、触れれば切れてしまいそうな勢いだ。

　それはあたかも台風のようで、渦が形成されている。

「ちっ！　バケモンが！　どんな魔力してんだよ」

　コモンズが纏っている魔力よりも遥かに強い魔力を俺は放つ。

　それは相性の面でも土より風の魔力の方が有利であるとシーナは言っていた。

　全く同じ魔力量でも相性の差で風に軍配が上がるとのことだ。

　ある理由により風を選択したけど結果的に良かったと言える。

「『風盾』！」

　さらに風の盾を俺の周りに複数発現させる。

　その一枚一枚が強力で濃密な魔力で形成されているので剣戟で突破するのは、ほぼ不可能だろう。

「くっ、厄介な盾だな」

　コモンズもじりじりと間合いをはかるけど、攻めあぐねているようだ。

「『風弾』！！」

　俺は狙いをつけて放つ。

　魔力を込めた風の弾丸がコモンズを襲う。

「！？」

　向かっていた風弾はコモンズを避けるように左右へ逃げていく。

「『風刃』！！」

　続けて俺は唱える。

　無数の刃がコモンズを襲うけど当たるものはない。

「！？」

　俺はさらに続ける。

「『風矢』！！」

「『風槍』！！」

　そのどれもが相手を死に至らしめるには十分な威力を持った攻撃だ。

　だがそれらもコモンズに当たらない、いや当てていない。

　コモンズの脇を通り後方に抜けていく。

「！？　どういうつもりだ！」

　コモンズの叫びを無視する。

「『風牙』！！」

　スララの得意な『風牙』を上に向けて放つ。

　放たれた『風牙』の三本の斬撃は空に消える。

「たしかどちらかが参ったと言えば終わるルールだったなコモンズ」

　俺は唱える。

「『光纏』！！」

「「「！？」」」

「バカな！　異種属性の同時詠唱だと！」

　今まで纏っていた魔力がさらに一段階上の力へと変化する。

　それは船を大きく揺らし軋ませる。

「いくぞ！」

「！？　待て！　分かった俺の負けでいい。降参だ！」

　コモンズは武器を収める。

「なんだ、もう終わりでいいのか？」

「ああ、これ以上やると船を壊されそうだしな……。まったくなんて魔力してやがる」

　俺は纏っていた魔力を霧散させる。

　すると船の揺れと軋みはなくなり静かになった。

「いったい何をすればそんなに強くなれるんだ？　バカみたいな威力のスキル放ちやがって……。まあいい、約束通り識別旗をやろう」

　コモンズは俺の勝利を認めたようだ。

「レンヤさんお疲れ様です」

「やっぱり凄いんやね。うちの『風纏』とは全然ちゃう。でたらめな強さやった」

「さすがですわ。でもレンヤさんあれはアヤメさんのためにやっていたのですわね？」

「？　どういうことや？」

　アヤメは意味が分からないようすで首を傾げる。

　シーナは俺があえて風系統のスキルを使っていた理由を察したみたいだ。

　そこに気がつくとはシーナはよく考えながら周りを見ているのだなとおもう。

　『風寵』で風の神の加護を受けているアヤメなら風のスキルを使えば何かしら、いい影響があるかと思いやってみた。

　もしかしたらスキルを習得できるきっかけになるかもしれない。

「アヤメ、風のスキルを見て何か感じるものはあったか？」

「せやね。……なんだか魔力がざわつくいうか、うちも使ってみたい気持ちになったね」

「そうか」

　直接的にはスキル習得したわけではないけれど、アヤメの中に何かを残せたようでよかった。

　今後何か覚えることができるかもしれない。

　風系統を使用した意味はあったのだろう。

「なんだかレンヤさんはアヤメさんに甘くないでしょうか？」

「甘々ですね」

　じとっとした目でシーナとネネはそんなことを言ってくる。

　だから俺は答える。

「いや。そんなことはない」

「いえ、そんなことありますわ」

「そんなことあります」

　シーナとネネは間髪を入れず答える。

　アヤメのために風系統を使ったのは認めるけどそこに大きな意味はない。

　純粋にきっかけになってくれればいいぐらいにしか考えてなかった。

　それが甘いと言われればそれまでだけど。

「おい、お前らイチャついているところ悪いが、ほら識別旗だ。持ってけ！」

　別にイチャついているわけではない。

　まあ貰える物は貰っていくるけどな。

　こうして俺たちは海の許可証である識別旗を得た。

　しかも国のお墨付きである海軍の物を。