第51話 実験

「俺達が海賊団に手を焼いているって言ったけど、あれはあいつらに勝てないからじゃないぜ」


 ニヤリと不適に笑うコモンズ。


「奴らは俺らに勝てないから、こそこそ逃げ回っていたからな」


 つまり逃げ回るのに手を焼いていただけで、戦えばいつでも倒せると言いたかったのだろう。

 それほど強さに自信があるのか。

 これはいい相手かもしれない。


「得物はこれでいかせてもらう」


 少し長めの肉厚な剣だ。

 手慣れた扱い方を見ると長年愛用しているのが分かる。


「そっちの得物はどうするんだ?」

「そうだな俺の武器はこれを使わせてもらう」


 左手で握った木剣を見せる。

 それを見たコモンズは一瞬怪訝そうな表情をみせるも、冷静に問いただしてくる。


「木剣とは俺も舐められたものだな」

「そうでもないさ。こう見えても特製だからな」


 まあ実際は『ハコニワ』が作った普通の木剣なんだけど、何となく特別感を出してみた。

 しかし込める魔力で木剣でも、もの凄い武器になることを証明したい。


「そうか。お前が言うならそうなんだろう」


 そう言うとコモンズの魔力が高まっていく、


「『土纏』!!」


 おっ! 土属性の纏か。はじめて見た。

 土のイメージ通りに茶色っぽい魔力だ。

 ビリビリとした圧力がこちらに伝わってくる。


「準備できたぜ。そっちはどうだ?」

「ああ、こっちも準備できたぞ」


 木剣を構え静かに待つ。


「じゃあいくぜ! はっ!!」


 甲板を蹴り踏み込むコモンズ。

 魔力を纏った剣を上段から俺に叩きつける。


 ブオッっとした音が剣速の凄まじさをあらわす。

 俺はそれを木剣で弾き返す。


「ふん! 木剣ごと叩き斬るつもりだったんだけどな!」


 そういうとコモンズは連続で斬りかかってくる。

 両手から繰り出される剣戟は重く速い。

 それを俺は丁寧に捌いていく。

 魔力で木剣をコーティングしてやれば意外と受けられるものだ。


「チッ!」


 一旦距離をとるコモンズ。

 それを追いかけるように俺は間合いを詰める。


「はっ!」

 

 左手に持っていた木剣で斬りかかる。

 さらに剣を持っていない右手を叩きつけた。


「うおっ!」


 すると俺の見えない右手の先をコモンズは自分の剣で受け止める。


「なんだそれは? 剣があるのか?」   

 

 さすがに勘が鋭い。

 俺の両手には木剣が握られている。


 『暗器』で右の木剣だけを透明化していたので相手からは見えなかった。

 それを解除したので今は両方が見える。


 両手での剣術は『双術』スキルがあるので問題なくこなせる。


「変なスキル持ってんだな」

 

 コモンズは剣を構えなおす。

 俺は左右の木剣を交互に透明化しながら斬りつける。


「く、くそっ! やりにくいじゃねえか」


 見えたり見えなかったりする木剣がコモンズの間合いの感覚を狂わせる。

 さらに『隠蔽』スキルで剣に込められた魔力を隠す。

 これにより剣の軌道を読みずらくさせている。


 もしかしたら剣に精通した達人と呼ばれる人ほどやりにくいかもしれない。


「変なスキル使いやがるな!」


 これだけ相手がやりづらいなら実験は成功だ。

 次の実験に移るか。


 コモンズは魔力を高め剣先を俺に向け突進してくる。

 今までの斬撃とは違う刺突系の攻撃だ。


(よし! これに合わせるか)


 俺は木剣をクロスさせ魔力の乗った突きを受けよう構える。

 しかし突きはガードをすり抜け魔力障壁を貫き俺の身体に届く。

 そしてそれは腹から背中に抜け俺は串刺しとなる。


「「「!?」」」

「きゃあああ」

「なっ!」

「えええ!」


 ギャラリーたちはその光景に驚きの反応を示す。

 俺のこうべは垂れ左手に持っていた木剣が落ちる。

 カランとした音があたりに響く。


「ああ、レ、レンヤさん!!」


 貫かれた剣はどう見ても致命傷だろう。

 しかし俺は左手で剣を掴み右手の木剣でコモンズに斬りかかる。


「な、なにっ!」


 相手の剣はしっかりと左手でつかんでいるので動かす事はできない。

 コモンズは仕方がなく剣から両手を離し、なんとか剣戟を躱す。


 すると俺は腹から剣を抜く。

 それをコモンズに放り投げてやる。

 今まで剣が刺さっていた身体は、穴が塞がり服も綺麗になおっていく。


「「「はっあああ?」」」

「「「なっ!?」」」


 ギャラリーとコモンズは訳が分からないといったようすだ。

 剣が身体を貫通したのにそれを自ら抜いてピンピンしている。

 さらに腹に空いた穴が塞がっていく。

 そんな状況に頭がついていかないみたいだ。


「あの状況で剣を離すとは凄いな」

 

 俺はギャラリーの外から声をかけた。

 いっせいにコモンズとギャラリーは俺をみる。


「「「えっ?」」」

 

 剣戟を躱すためとはいえ持っている剣を離すのは簡単なことではないはず。

 ましてや愛着のある剣ならなおさらのこと。

 何とか引き抜いてガードしたくなるのが心情だ。

 それを一瞬で剣を離す判断をするは凄い事だとおもう。


 コモンズとギャラリーは二人いる俺を不思議そうに見比べる。


「ど、どうなってんだお前は……」


 ギャラリーの外にいた俺はコモンズに向かい歩きだす。

 するとギャラリーは割れ、真ん中に道ができる。


 いままでコモンズと戦っていたのは『変化』と『強化』で作った俺だ。

 魔力で作った俺は本物と大差ない。

 以前に作った《魔手》の応用で全身を作ってみた。

 皆、本物と思っていたみたいだから成功だろう。


「すまない、こっちが本体だ。ここからは俺が相手をさせてもらう」


 だましたみたいで申し訳ないので、もう一戦やらせてもらおうとおもう。

 

 俺は再戦を提案した。

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