第50話 対戦

「もちろんただでとは言わん。そちらにもメリットはある。識別旗をやろう。それでどうだ?」

「識別旗?」

「ええっ! 軍のお墨付きの旗を貰えるん!」


 アヤメは驚いているようだけど、そんなに凄い物なのか?


「ああ、そうだ。悪くない条件だろ?」

「レンヤはん、軍の識別旗を貰えるんて凄いことなんよ!」


 なんでも軍の識別旗を掲げておけば信用度がかなり上がるようだ。

 国のお墨付きを貰っている船という事で色々と優遇されるとか。

 絶対に貰った方がいいとアヤメは力説する。


 そんな貴重な物を賭けてでもやりたいとは、どんだけ戦いたいんだって気もする。

 まあ条件としては悪くはないのだろう。

 こちらもやるからには負ける気はない。


「勝利条件はなんだ?」


 まさかどちらかが死ぬまでとかでもあるまい。


「おっ、やる気になったか。そうだな、どちらかが参ったというまでか戦闘不能になったらでどうだ?」

「ああ、分かった。一対一でいいのか?」

「とりあえずはそうだな。あとは俺の気分しだいだ」


 なんだか変なルールが追加されていくけど……。

 仕方がない納得するまでやってやる。


「まずは黒髪のお嬢さんからかな。剣を扱うんだろ?」

「そうだな。ネネいけるか?」

「はい。レンヤさん大丈夫です」


 ネネは魔力刀に手を当て、うなずく。


「よし。じゃ相手は俺の部下から選ぶとしよう」


 コモンズが指をさすと恰幅のいい男が前に出る。


「艦長、女性相手に本気でやっていいんですか?」 

「ああ、問題ない全力で行け。油断するなよ!」


 艦長のコモンズは『鑑定』はないみたいだけど、ネネの強さが何となく分かるようだ。

 部下に全力を出せといっているあたり、勘がいいのかもしれない。

 だてに艦長まで上り詰めていないということか。


 これだけの体格差で負けるとは微塵にも思っていない部下の船員。

 プライドが刺激されるのも無理はない。


 俺はネネに耳打ちする。


「えっ! そんなこと言うんですか?」

「ああ、頼む」

「……分かりました」


 ネネは微妙な顔をしながらも了承してくれる。


「準備はいいか二人とも。中央まで来てくれ」


 ネネと相手の船員は船の中央で対峙する。

 少し離れて周りをギャラリーたちが囲う。

 娯楽が少なかったであろう環境からか、周囲は異様に盛り上がる。


「よーし。始めええ!」


 お互い構えるも静かな立ち上がり。

 船員は剣を構え迎え撃つ態勢だ。


 ネネは力みのない姿勢で間合いをはかり構える。

 そしてあのセリフをいう。


「ネネ=ライリーン参ります!」


 少し恥ずかしそうに頬を染めるネネ。

 これは俺が先程お願いしていたセリフだ。

 何となくネネに似合いそうだから言って貰った。


 俺的には悪くないとおもう。


「シッ!!」


 ネネは一足で相手の懐に飛び込むと横なぎに胴を斬りつける。


「ぐああっ!」


 まったく反応出来ない船員は吹っ飛んでいく。


 もちろんネネは刀を寸止めしている。

 そのまま斬り抜ければ、胴体が真っ二つになってしまうだろう。

 それでも衝撃は伝わり相手を無力化する。


 船員はギャラリーに突っ込みなんとか止まる。


「よし。そこまでだ!」

「「「おおぉぉぉぉ!!」」」


 ギャラリーたちが騒ぐ。

 何だ今のは! とか速すぎて分からん! とか賛辞が絶えない。


「だから油断するなといっただろう。次行け!」


 代わる代わる部下たちは挑戦するも結果は同じだった。

 ネネのスピードとパワーに対抗できる者はいない。

 すべて寸止めで秒殺される。


「そこまでだな。まったく歯が立たねぇな……。ネネといったか、凄まじい強さだな」

 

 コモンズはネネの強さと部下たちの不甲斐なさに頭を抱えているようだ。

 ネネはぺこりと会釈するとこちらに戻ってきた。


 少し誇らしい感じで、褒めて欲しそうな目で見てきたので俺はいった。


「いいセリフだったぞ」

「あら、そこですか?」


 ふふっと笑うネネを見て何だか温かい気持ちになった。

 

「次は栗色の髪のお嬢さんか。彼女も強いんだろ?」

「まあな。シーナが得意なのは魔法だ」

「そうか。よし、お前ら次こそ一矢報いろよ!」


 ゴクリと喉を鳴らす船員たち。

 全体に緊張感が漂う。


「シーナ。いけるか?」

「はい、大丈夫ですわ。あっ、レンヤさんネネに言わせたセリフみたいなものは、わたくしにはないのでしょうか?」

「うーん。特に考えてなかったな」

「では、今度考えておいてください」


 言いたかったのかシーナ。


「よし、二人とも中央へ!」


 シーナも結構リラックスしているようだ。

 あの島で鍛えられたからか自信があるのだろう。


「始めええ!」


 構える二人。

 そしてシーナは言った。


「シーナ=スカーレット参りますわ!」 

 

 決めていなかったからってそれを言うか。

 いちおう追われている身なのだから本名は避けた方がいい気がするのだが。

 まあこれはこれで悪くない。

 むしろしっくりくるセリフに聞こえる。


 戦いの結果は言わずもがな。

 『光弾』の魔法構築スピードもパワーも圧倒的で相手に何もさせない。

 放たれた魔法は相手の障壁を難なく貫通し倒していく。


「『鑑定』で分かっとたけど、シーナはんもネネはんもこんなに強いんやね……」

「ああ」


 屈強な海の男たちを苦にしない二人の強さにアヤメは驚異を感じているみたいだ。

 あの島での修行に耐えた二人は相当な強さになった。


「よし、そこまでだ! シーナといったか、彼女も強えな……。さすがはあの島から脱出してきたメンバーだ」

「ああ、次は俺がやるのか?」

「そうだな。今度は俺もやらせてもらう。レンヤは彼女たちより強いんだろ?」

「どうかな。コモンズも強いんだろ?」

「さあな」


 俺も楽しみたいのでコモンズに『鑑定』は使っていない。

 強そうな相手だしちょうどいい、試してみたいことも有る。


 俺とコモンズは対戦の準備に取り掛かった。

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