第35話 脱出準備

 黒雲に光の皺が入るとそれはゆっくりと広がっていく。

 稲光のように無数に広がって進む。

 ビシビシと軋むような音が大きくなっていく。


 皺が黒雲全体に行き渡るとパァァァンと音が鳴り響き、黒い雲が粉々になり消えた。

 やはり黒雲は作られたものだったようだ。

 荒れた海も静かになり遠くまで見渡すことができるようになった。


「うまくいったな」


 フレイムドラゴンのとき俺が放った一撃が黒雲を破壊したようだ。

 黒雲は呪いではないけど解呪を使ったのもよかったのかもしれない。


 誰かが作ったものなら破壊できると思いやってみてよかった。

 時間が少しかかったけど壊せたみたいだ。

 これで島の外にもいけるはず。


 ウイングボードは壊れてしまったので移動手段はこれから考えよう。


「な、何ですかいまのは? 凄い音でしたわ」

「く、雲が晴れましたね……」


 凄い音だったし二人も驚いたようだ。


「島を覆っていた封印みたいなものが解除されたんだろう」

「たしかに今まで見えなかった遠くまで見渡せますわ」

「どうして急に雲が晴れたのでしょう……まさか! レンヤさんのあの一撃ですか?」


 ネネは気付いたみたいだ。

 寝具の中からでも外の状況は見えるので、フレイムドラゴンを貫通した一撃が黒雲を破壊した可能性に気付いたのだろう。


「ああ、そうだ。ドラゴンを倒すついでにやってみた」


 本当は逆だったんだけど、まあ結果的に同じだからいいだろう。


「レンヤさんは本当にでたらめですわね」

「本当です。異常な力をお持ちなんですね」


 たしかに前の世界では考えられないことが、この世界では出来てしまう。

 少し怖ろしさもあるけど、折角ある力だから有効に使っていきたい。


「でしたら島の外に出られるのでしょうか?」

「そうだな。たぶんこれで脱出できるはずだ」

「まさか、流刑島から脱出できるなんて……今まで聞いた事がありませんわ」

「はい。この島が出来てから初めてのことかもしれませんね」


 まあこの島は流刑の地として今まで機能していたからそうなんだと思う。


「シーナとネネは国に帰りたいか?」

「そうですね。一度戻って確認したいことはありますわ」

 

 というシーナ。


「それでもレンヤさんのやりたいこと、行きたいところを優先していただいて構いませんわ」

「そうなのか?」

「この島から出てしまえば、追手からも見つかる可能性も低くなりそうですし」


 追手もこの島から脱出できるとは思っていないだろう。


「どうせわたくしは死刑宣告されてしまった身ですので、最悪帰らなくても問題ありませんわ」

「私もシーナ様と共にレンヤさんに付いていきたいです」


 精一杯の強がりなのか、自分達の故郷なのだから帰りたい気持ちはあるだろう。

 それでも俺の意思を尊重して付いてきてくれるといってくれる。

 ずいぶんと好かれたものだ。


 だがそれでも狙ってくるやつもいるかもしれない。


 四星魔といわれる魔人もいるしな。

 まだまだ手ごわい相手がいるはずだ。


 さっさと島の外に出てしまうのが得策だろう。

 とりあえず『転移』でいって転送魔法陣は破壊しておいた。

 修理をされない限り使えないだろう。


 ウイングボードは壊れてしまったので趣を変えて船を作ろうと思う。

 海を船で旅するのも楽しいかもしれない。


「こちらの世界の船ってどんな感じなんだ?」

「ええっと、主に帆船がメインになりますわ」

「風が動力ってことか」

「はい。まれに魔道具を使った船もあるみたいですけど、あまり燃費が良くないらしくて、帆に風を受けて推進力としている船が多いですわ」

「そうか。どうせならこちらにない船をつくりたいな……」


 豪華客船みたいのもいいけどクルーザータイプもいいな。

 この世界には魔力があるから出来そうな気がする。


「……レンヤさんの能力なら船を作ることも可能なのですわね」

「……まあな」

「もう驚くのにも慣れてきましたわ」

「そうですね。シーナ様……」


 道具やスキルを作ったり従魔をテイムしたりと変な能力だからな。

 なんだか呆れられている感じもするけど、俺としてはいい能力だと思うし気に入っている。


「まあとりあえず作れるということで、なにか二人とも要望はあるか?」

「要望ですか。えーと船の良し悪しとかは、わたくしは分かりませんわ」


 だよな。俺もよく知らない。


「ですけどレンヤさんと同じ部屋なら問題ありませんわ」

「いやいや問題あるだろ。部屋は一人一部屋ずつ作るつもりだ」


「でしたらベッドはレンヤさんと同じで構いませんわ」

「いやいや構うだろう。部屋に一台ずつ設置する」


「でしたらレンヤさんの部屋の鍵は開けておいてください。夜にうかがいますわ」

「いやいやしっかり施錠しておく」


「……」

 

 俺の淡白な返しに信じられないといった表情で首を振るシーナ。


「ねぇネネ。わたくしの魅力が足りないのかしら?」

「そんなことありません。シーナ様はとても魅力的で素敵な女性です」


 誰かにシーナのことを聞けば、誰もが間違いなく美少女だと答える程の優れた容姿だ。

 性格も悪くない。

 そんな彼女と同じベッドで理性を保てる男はそうはいないだろう。

 俺も自分を抑えられる自信はない。

 

「あら、もうひと押しでいけそうなのでしょうか?」

「シーナ様がんばってください!」


 勝手に人の心を読まないで欲しい。

 ネネも応援しない!


 とかなんとかやっていたけど、きりがないので船のイメージを『ハコニワ』へ伝えることに集中したいと思う。

 『並列』で考えていたイメージを『ハコニワ』に伝えていく。

 どうせなら外観もよくて機能的な船を作りたいからな。


 俺は出来る限りのアイデアを『ハコニワ』に伝えた。

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