第36話 依頼

 とりあえず『ハコニワ』に俺の要望を伝えた。

 あとは船の完成を待つのみだ。

 大規模な作製なので時間がどれぐらいかかるかは分からない。

 まあのんびり待つことにしよう。


「素朴な疑問なのだが俺に好意を寄せているならシーナに対して嫉妬はないのか?」

 

 ネネに少し意地悪な質問をしてみる。

 女性にこんな質問をする日がくるなんて人生分からないものだ。


「シーナ様でしたら問題ありません」

「随分はっきりと言い切るんだな」

「はい。そ、それにシーナ様とレンヤさんが結ばれれば、なし崩し的に私も受け入れていただけるかという打算もあります……」


 おいおい、ぶっちゃけたな。

 シーナもネネも女性はたくましすぎる。

 やはり死が身近にあるこの世界では自分の欲望には素直にならざるを得ないってことなのか。

 まあ顔がとても赤いので、恥ずかしがりながらも正直に胸の内を話してくれたのだろうとは思う。


 俺も二人のことは結構気に入っている。

 これからも守っていきたいし、いまさら誰かに渡したいとも思わない。

 二人との仲が進展するかは分からないけど、今のこの関係を楽しいとは思っている。

 

 すると頭の中に天の声が聞こえた。


<『ハコニワ』より《依頼書》が届きました> 


 依頼書? 初めての事だな。

 『ハコニワ』が言ってくるなんてよっぽどの事なのか?

 俺はインベントリを開けると《依頼書》を確認する。


(なになに? 依頼内容:同封した魔核に魔力を溜めること)


 魔力が必要ってことなのか。

 たぶん船の作製に必要なんだろう。


 いつも助けてもらっているから俺で出来ることなら何でもしたい。

 インベントリを開けて魔核を取り出す。

 たしかに形は魔核だけど中身は何も入っていない空っぽだ。

 これに魔力を溜めればいいのか。


 三個あるってことはシーナとネネにも協力してくれってことだろう。


「二人ともちょっといいか?」

「「はい」」

「どうかされたのですかレンヤさん?」

「これを見てもらいたいのだが」


 そう言って俺は二人に魔核を一つずつ渡した。


「魔核……ですわね」

「中身は空のようですけれど……」

「ああ。船を作るのに必要なので、これに魔力を溜めて欲しいんだ」


 そう言うことでしたらと二人は快く引き受けてくれた。


「でもどれぐらい溜めればよろしいのでしょうか?」

「そうだな。出来るだけ多く頼む」


 依頼内容には書いていなかったけど多いに越したことはないだろう。

 『ハコニワ』産の魔核だからどれだけ溜めても壊れはしないはずだ。


 二人はさっそく溜め始める。

 手に集めていた魔力が魔核に吸い込まれて中心付近で輝いている。


「これでいいのでしょうか?」

「そうだな。後は纏系のスキルを使うと効率がいいかもしれない」


 纏系は魔力を上げるから相性がいいだろう。

 俺は『光纏』を使い魔核に魔力を集める。

 少しずつ魔力を吸い取られる感じだ。

 もっと強力にしたものが『束縛』のスキルなのかもしれない。


 手で握らなくてもポケットにでも入れておけば大丈夫みたいだ。

 しっかりと魔力は魔核に吸い込まれている。

 ならばと以前作っておいた木剣をインベントリから取り出して二人にも渡す。


「これで訓練しながら魔力を溜めていこう」

 

 高めた魔力は次々に魔核に吸い取られていく。

 穴の開いたバケツに水を入れたみたいに魔力が抜けていく感じだ。


(結構いい訓練になるかもしれない)


 こんな状況があるかは分からないけど、魔力の調整や制御に効果的だ。

 

 木剣での打ち合いをしていると気づく。

 やはりネネの剣術は素晴らしい。

 俺もステータス差がなければ簡単にやられてしまうだろう。


 丁寧にネネの攻撃をさばきながらそんなことを考える。

 これはやはりセンスと努力の成果なのか。

 勉強になる。


「二人とも今度は魔法を使って攻撃してみてくれ」

「「はい!」」


 素直に二人は魔法を打ち込んでくる。

 複数放たれ向かってくる魔法を俺は何もせず待つ。


「!?」

「レンヤさん!」


 何もしないで立っている俺に焦るふたり。


 向かってきた魔法は『風』『炎』『光』の盾によりガードされる。

 それは『光盾』の時もあれば『風盾』の時もあり魔法を勝手に防いでいるように見える。


「い、今のは、盾のスキルですね? 急に盾が出現した感じでしたわ」

「レンヤさんは何もしてないように見えましたけど」

「ああそうだな。うまくいったみたいだ」

 

 じつは『自動』スキルで魔法防御のマクロを作ってみた。

 中身は相手の放った魔法に『看破』と『分析』を『並列』で起動させる。

 それにより魔法の内容を高速で分析。

 そしてそれを元に魔法に対する盾の属性を選び『受動』で反撃する。

 その時の属性は相性のいいものを選択するけど、ない場合は複数選択して防ぎきる設定だ。


「まあ簡単にいうと魔法の自動防御だ」

「また変な事をしているのですわねレンヤさん……」

「魔法を自動で防御できるなんて凄いことですね」


 ちなみに反撃内容を攻撃魔法に変えることも可能だ。

 それにより敵が放ってきた魔法を攻撃魔法で叩き落とすことも出来る。


 こうなると全ての属性の攻撃と防御の魔法を覚えたくなるな。

 そうすれば相性のいい魔法は必ずあるのでほぼ完ぺきに防御できるようになる。


 旅の目的としても悪くない。   

 今後とも覚えられるものはどんどん覚えていこう。

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