第6話 越境者

 サンドワームが消えた後ドロップアイテムが大量にばら撒かれた。


 それを嬉しそうに回収するスララ。


 結構広範囲にばら撒かれたので俺もウイングボードに乗って拾う。


 波や勾配が無くても魔力で空中を進めるのは便利だ。


 魔力調整と体重移動で、横回転はもちろん縦の回転の技もできるのが楽しい。


 光のエフェクトも綺麗で色合いも調整可能。


 滑空やターン時に出る光の演出は癖になる。


 移動用だけでなく娯楽としてもいい。


 大きさを変えたり、魔力でボードに足を固定する事も可能だ。


 細部に『ハコニワ』職人のこだわりを感じる。


(これで最後かな?)


 回収した物の結果はこうだ。


 サンドワームの魔核1個、外皮30個、肉20個。


(肉か。食べられるのか?) 

 

 美味そうには見えなかったけどまあ『ハコニワ』なら何とかしてくれそうだ。


 収穫物は全部『ハコニワ』吸収させた。


 基本的にドロップアイテムは全部与えてしまった方がいい気がする。 


<『ハコニワ』が進化しました>    


<『ハコニワ』が人口1600人になりました>


<『ハコニワ』サンドワーム本体及び装備が作製可能になりました>  


<『ハコニワ』スララは600までレベルアップが可能になりました>


 じゃあ400までレベルアップさせるか。

   

 スララの全身が光る。鑑定してみた。


 **************************

 名前:スララ(神の従魔)

 種族:スライムラッシュ


 LⅤ :400

 HP :8000/8000

 MP :8000/8000

 攻撃力:8000

 防御力:4000

 魔力 :4000

 俊敏 :2800

 

 ―スキル―

 『突進』『発光』『風牙』『音弾』『回復』


 **************************

 

「おお、凄いな」


 随分と強くなった。


「君のその光るボード面白いね」


 ――瞬間、俺とスララは後方に飛び声の主から距離を取る。


 見ると突然声を掛けてきたその男は、笑みを浮かべ後ろで腕を組み砂の上に立っている。


 初めからその場にいたかの様な佇まいだ。


「何者だあんた?」


 俺とスララは警戒を強める。


 初めの頃ならまだしも今のステータスで俺達の探知を潜り抜けるなど普通じゃない。


「僕? 僕の名前はエヴァンさ。君と同じ越境者だよ」


 エヴァンと名乗ったその男は小柄で細身な男だ。


 少年の様な見た目だけれど、纏う気配は外見のそれとは異なり不気味さを感じる。


「……越境者?」


「あれ? 君もあの女に飛ばされて来たんでしょ?」


 女神に異世界へ飛ばされた者同士って事か?


 俺はいつでも戦える様に身構え、黙って対峙する。 

  

「だんまりかい。まあ慎重なのはいいことだよ」


 エヴァンは気にする素振りも無く続ける。


「あの女から言われなかったかい? 戻る方法について」


 いや戻ってこいとは言っていたけれど戻る方法など言ってなかった。


 特にヒントらしい情報は与えられなかったはずなのだが……。 

   

「それはね……」


 少し笑みを浮かべ、勿体振る様に言葉を溜める。 


「越境者同士で殺し合うって事さ。上条錬夜!」


「なっ!」


 エヴァンの膨れ上がった殺気にあてられたのかスララは飛び出す。


 『突進』スキルも使っているようで全力の一撃だ。


 本能的に相手の危険度を察知したのだろう。


 初手に全てを掛け攻撃している。


 俺もインベントリから剣を出し後を追う。


 対峙するエヴァンは軽く左手を振るった。


 いや、実際には見えてはいない。


 ただ振り終えた手がその位置にあったのを視認できただけだ。


 スララの身体に光の線が入る。


 あの速度のスララの一撃にカウンターを合わせる力量。


 HPを根こそぎ刈り取る攻撃力。


 明らかに格上の相手。 


 スララは光の粒子となり消えた。


「スララあああっーーー! うおおおおおっ!」


 エヴァンに剣で連撃をあたえるも、ことごとく左手一本でいなされる。


「あれ? 君剣術を習った事ないんだね」


 現代の日本人で剣術習っている奴なんてそんなにはいないだろう。


「動きが全くの素人だね」


 ステータス頼みで剣を振っているだけだからな。

 

 それでもサンドワームを吸収した事による『ハコニワ』効果で相当な剣速だと思う。


 剣自体もかなり強化されている。


 それを左手だけで捌けるとはやっぱり普通じゃない。


 しかもエヴァンはその場から一歩も動ごかず捌いている。


 一旦攻撃を止めて距離を取り鑑定するもエラーになってしまう。


(くそっ! あの女神級の強さってことか)


 するとエヴァンはこちらに向かって右手を伸ばし、手のひらをこちらに見せる。 


「君、邪魔だね」


 光ったと思った瞬間、背後で爆発音が響いた。


 爆炎が上がる。


 振り返りみると中心地にいたのはサンドワーム。


 全身を焼かれHPが尽きたのか光の粒子となり消える。


(サンドワームも一撃かよ……)


 俺とスララで何とか倒した相手をあっさりと。


「あいつらここに結構いるからね」


 するとまたエヴァンは後ろで腕を組む。


「君の力量は分かったよ。話をしようじゃないか上条錬夜」


 事前にこちらの名前を知っていたのか、鑑定を使われたのかは分からない。


 だが情報が知られていることは気分のいいものではない。


「剣をしまって僕の話を聞いたらどうだい?」 


「どういう話だ?」


 その言葉に警戒しつつ剣を構えなおす。


 剣があろうがなかろうが今の俺ではエヴァンには勝てないだろう。


 だが素直に剣を引くには、ためらいがある。


「まず僕は越境者じゃないよ」


「お前が言い出した事だろ?」


「まあ便宜上そういう事にしておいたのさ」


 話が見えないな。


「あの女の場所に戻る方法の云々も嘘だよ」 


 おい! なんなんだ!


「じゃあ俺の力量が見たかっただけか?」


「それもあるけどね。あの女に頼まれててね」


「あの女って女神の事だよな」


「そうそう。面白味のない奴だったでしょ」


 確かに事務的で理不尽な女で、ぶん殴りたい奴だった。


「あとこれあげるよ」

 

 エヴァンは小瓶を砂の上に投げる。中には光の球体が浮かんでいる。


「何だこれ?」


「まあ記念品かな」


「記念品?」


 エヴァンは「ああー」とかいいながら喉の調子を整えている。


「?」


 すると……。


「上条錬夜! ダンジョンクリアおめでとう!」


「はあああああっ?」


 砂漠に俺の声が響いた。

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