第20話
今日は梨奈は出かけることがないそうで、一日好きにしていいと休日をもらえた。
おれの休日は一般人と違い、梨奈が出かけない日かつ梨奈が休みと言った日のことで、休みはそこまで多くない。
そのかわりに学生には似つかわしくない程の賃金をもらっているので文句はない。
とりあえず、適当にぶらつくか。
屋敷を出て、繁華街へ向かう。
街につくといつもより賑わいが感じられる。
歩くと人だかりが多くなってくる。学生など若い女性が多いな。
一段と人混みができている方を見ると撮影をしているようで、周囲の子たちがキャーと歓声をあげていた。
「あれ?空くん?」
急に名前を呼ばれて振り返る。
「あ、やっぱりそうだ。おーーーい」
人だかりの中心あたりから一ノ瀬が手を振っている。
「すいません、ちょっと通りますね」
一ノ瀬は周囲の人をかき分けて俺に近づいてきた。
その格好は茶色を基調としたワンピースでいつもより大人っぽく感じる。
「よく俺だってわかったな」
「ほら空くん結構背高いし、ここにいる人たち女の子ばっかりだから見つけやすいよ」
「なるほどな」
「どうしたの?急に飛び出しちゃって」
「乾さん、友達見つけたからつい」
「休憩中とはいえ急にどっか行くからびっくりしちゃったじゃない♡」
身長は俺より高く190cmはある。全身に筋肉という天然の鎧を纏い、劇画かと思うほど濃ゆい顔。短髪でサイドを刈り上げている。そして格好は少し肌寒い中でチャイナ服。バケモノだ
「あら、男友達なのね」
「うん!空くん、かっこいいでしょ」
「そうねぇ〜〜」
そんなバケモノ相手に平然と会話をしている一ノ瀬。
会話を聞く感じ、知り合いなんだろうが、それでもこのバケモノと普通に話せるってすごいことだぞ。
不意に視線が俺に向けられる。
このバケモノの舐め回すような視線に背筋に冷たいものが走る。
「君、モデルやってみない?」
「は?」
突然の言葉に俺は呆気にとられる。
「実は今時のカップルのモデル撮影をしたいと思ってたのよ。あ、顔が映るのが嫌なら切るから大丈夫よ。服は私が今から用意するから。大丈夫緊張していても私がほぐしてあげるから」
「おい何勝手に話してんだよ。てかなんで、俺なんだ?わざわざ一般人とか使わず、専業のやつを使えばいいだろ」
「初羽ちゃんと友達なんでしょ。友達同士ってことなら自然にできるでしょ。モデル同士ってなるとどうしてもぎこちなさが出たりするのよ。もちろんそこは仕事だからわからないようにはしているんだろうけど、わかる人にはねぇ〜」
「だとしても俺である必要ないだろ。ほらいのりとかいるだろ。そういえば姿が見えないな」
護衛しているなら近くにいるはずだが。
「いのりは飲み物買ってきてくれてる。もう少ししたら帰ってくると思うけど」
護衛をパシリに使うとかもうそれは護衛じゃないだろ。
ただの召使じゃねぇか。
「いのりくんは使えないわよ。身長は低いし女の子っぽくて男性モデルとしては却下」
確かにそのとおりだ。
「だからお願い♡」
バケモノがあひる口をして手を合わせてくる。
気持ち悪いっ。
「いやだ。それに俺はこれから用事あんだよ」
適当に嘘をついて、この場から逃げようと画策する。
「そこをなんとか♡初羽ちゃんからもお願いしてよ」
バケモノは縋るように一ノ瀬に頼る。
「普段、男の子との撮影ってできないからやってみたいな。それに空くんと一緒だったらすごく嬉しい」
「なんで男との撮影できないんだよ?」
「お父さんがダメだって、でも空くんならお父さんも知ってるし、大丈夫だよ」
確かに一ノ瀬の親父とはもう3度くらい会っている。
一ノ瀬と遊びに行く時に迎えに行くといて話したし、本を借りに行った時もあった。
あの人も堂本のおっさんと同じで親バカだから、娘に男との関わりを出来るだけ持って欲しくないんだろうな。
「だからって嫌なもんは嫌だ」
「なら最終手段を使うよ」
一ノ瀬はスマホを取り出すと、どこかに連絡を取り始めた。
「ああ、私、ちょっとお願いがあるの。〜〜〜〜〜で〜〜〜〜でどう?」
会話の内容はよく聞き取れない。
ただ、嫌な予感がする。
「空くん、はい、これに出て」
初羽が俺にスマホを渡してくる。
理由はわからないが、携帯を受け取り、耳に当てる。
「空、そのモデル引き受けなさい。命令よ」
「おい、待て。なんで梨奈が知ってる。それになんだその命令は」
「いいから受けなさい。受けなかったらあんたのこれからの晩御飯おかずなしにするわよ」
いくらなんでもそれは横暴だろ。
「俺の数少ない楽しみを奪うのか」
「奪われたくなかったら引き受けなさい」
理不尽すぎる!
「てかなんで梨奈から、電話かかってくんだよ」
梨奈と通話しながら一ノ瀬を睨む。
「梨奈と取引したの、空くんにモデル頼んでってそのかわりに貸し1ってね」
俺をそんな取引に巻き込むなよ。
「てか梨奈、貸し1つで俺を売るな」
「初羽から貸しが出来るならあんたなんか売るに決まってんでしょ」
いくらなんでもひどくないか?
飯は俺の給料があればどうにでもなる・・・・・・はずなんだが、現状俺の手元にはほぼ残っていない。
おかず抜きならそれ以外は食えるんだろうが、周りが豪勢な中で俺だけ白米と副食しか食べらればないのは苦行だ。
詰んでるなこれ。
「とにかく、やりなさい。いいわね」
「・・・はい」
がっくりと肩を落とす。
俺が折れた様子を見て一ノ瀬とバケモノがハイタッチしてる。
梨奈からの通話が切れたので、一ノ瀬にスマホを返す。
「やってくれたな」
「まぁまぁ、モデルとかなかなかできることではないんだから。いい経験になるかもよ」
「はぁぁぁ」
「さぁ準備するわよ!!!!!」
俺のため息はバケモノの咆哮にかき消された。
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