第17話
「それでどこに向かってんだ?」
冷泉院に腕を組まれて、連れていかれているのだが、廊下で生徒にすれ違うたびに奇異な視線を向けられる。
それだけこの生徒会長がよく目立つ存在ってことだな。
その生徒会長がよくわからん生徒と腕を組んで歩いていたら、そりゃあ見てしまう。
「生徒会室です」
「またあそこか」
一月前ほどに連れていかれたが、ああいうかしこまった場所って苦手なんだよな。
冷泉院が扉を開く。
そこには8人の生徒がいた。全員がこちらを向いている。そのほぼ全員が胡乱な目で俺を見ていた。
前に来た時は誰もいなかったのに今回はこんなにもいるのかよ。
てっきり、俺について聞かれるだけだと思ってたのに。予想外だ。
これはさっさと帰った方が良さそうだな。
俺は回れ右をしてその場を立ち去ろうとするのだが、
「どこに行くんですか?」
冷泉院に引っ張られ、部屋から出ることができない。
無理やり振り解いて脱出しようとしたが、東雲が扉を閉めた。
「おい、これはどういうことだ?説明しろ」
「今日は生徒会執行部の集会があるので空に来てもらおうと」
「なんで俺が」
「私だけが空を知ろうとするのはフェアではない、そう思ったので私のことも知っていただこうかと」
「全くもっていらない気遣いだ」
この女について興味はあるのだが、梨奈からの進言であまり関わるなと言われた手前自分から深く切り込むことはしないと決めていた。
だから冷泉院について調べもしなかったし、その護衛の東雲についても調べなかった。
「とりあえず、こちらに座ってください」
冷泉院に案内された椅子は彼女が座る椅子の隣だった。
「どうしましたか?早く座ってください」
「はいはい」
少し座ることを躊躇っていたが、結局座ることに。
「あの会長?」
「何ですか?」
「その隣の人は一体誰ですか?」
「真嶋空さんです。今日は生徒会執行部の見学に」
「彼は転校生なので生徒会執行部について全く知らないので、知ってもらおうかと」
「転校生!まさか、彼が」
驚いた様子で俺を見てくる男子学生。
こっち見んな。男に見られても嬉しくない。
てか何その反応。俺ってもしかして噂になってんのか?
「この学校で初めてとなる転校生ですからね。それに梨奈さんのボディガードでもありますし」
「この学校で初めての転校生?」
なんだそれ聞いたことがないんだが。
「ええそうですよ。この学校は原則として転校を受け入れていないそうですよ。校則などには記載されていませんからほとんどの生徒は知りませんけど」
ならなんで俺の転校は認められてんだろう。
俺なんて何も誇るものもないただの一般学生なのに。
梨奈が権力を使って俺を入れてくれたのか?自分のボディガードにするために。
だとするとおかしな点がいくつかあるから、他に要因があるな。まぁ大凡の予想はついている。
「会長、それで彼はなぜこの場に?」
「この学校の生徒なら生徒会について知っておいてもらおうかと。以前から誘おうとは思っていたのですが、幾分会議と彼の予定が合わなかったもので」
そういえば、前に一度冷泉院から放課後に何か用事はないか聞かれたことがあった。
そのときは梨奈に予定があったので俺もそれに付き添うため、断った。
もしかしてそのときにこの会議に誘おうとしていたのか。
「この学校の生徒会執行部は会長一名、副会長一名、書記二名、会計二名の6人で形成されています。生徒会長と副会長は選挙で決まり、他の役員は会長の推薦で決まります。ちなみに執行部はボディガード学科の生徒ではなれません。今はまだですけど」
ここに8人いたのは執行部のやつらとその護衛ってわけか。
確かに椅子に座っているのは6人で東雲も冷泉院の後ろに控えている。他のボディガードも自分の主人の後ろに立っている。
「てかなら俺が生徒会を見学する意味ないだろ。ボディガード学科の俺は役員になれないんだろ」
「今はですよ。これから先どうなるかはわかりません」
冷泉院はいつもの不敵な笑顔で答える。
冷泉院は続けて言った。
「私はこの学校について常々思っていることがあるんですよ。ボディガード学科の子達が不遇な扱いを受けているのにもかかわらず、学校は何も改善しようとしないことです。この生徒会に入れないことや護衛という面から彼らを自分たちより下に見る子が多いこと、空も未遂とはいえ被害にあいましたよね。この生徒会役員はそういった意識を持っていない生徒を選んでいるのでご安心ください」
「そこは別に気にしてない」
「てか生徒会って何すんだ?」
「主な業務は学校行事の協力や申し立てです。具体的には文化祭などの運営やボランティア活動ですね」
そこらへんは俺の想像どおりの業務だ。
てっきりこの学園だけの特別なものもあると思ってた。
「では今日は予定通り来月にある林間合宿について話しましょうか。空はその場で聞いているだけでかまいません」
はなから口出しする気はない。
まず部外者だしな。
そんなことを思う間に冷泉院を中心に話し合いが始められた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「どうでしたか?生徒会は?」
「生徒会については別に他とあまり変わらないと思ったが、お前はすごいな」
「あら、褒めてくれるのですか。それは嬉しいですね」
一時間弱会議は続いた。俺は普段ならこういうのは退屈しちまうんだが、今回は違った。
こいつの着眼点や会議の進行には目を見張るものがあった。
こういうやつがトップにいるのはやりやすい。
「それでなんで俺を生徒会に呼んだ?」
「それは私を知ってもらいたいからと」
「それは嘘ではないが他に何かあるな」
「私はあなたを生徒会に入れようと思っています」
「生徒会は原則ボディガード学科のやつは入れないって言ってたろ」
「そこは規則を変えれば問題ありません」
なんかとんでもない発言を聞いた。
「おいおい、それはさすがに無理だろ」
学生の身分で校則を変えれるのか?普通無理だ。
「たとえできたとしても役員足りてるなら俺はいらないだろ」
「空だけの役職を作りますから」
こいつやっぱりやばいやつだ。
生徒会長の権限でこの学校を好き勝手に変える気か。
「そこまで俺を生徒会に入れたい理由があるのかよ」
「はい」
冷泉院ははっきりと俺の目を見て答える。
「この学校を変えるにはあなたのような外部から来た生徒の力が必要だと」
「そのために俺は使われろと」
「そのとおりです」
「いやだ」
俺は人にこき使われるのはもういっぱいいっぱいだ。
使われるより使う方が断然好き。
ただ使われる方が考えなくていいってのはあるが、自由に動ける方が性にあっている。
「てか俺が生徒会に入ったら梨奈はどうなるんだよ。あいつを一人にするわけにもいかないだろ」
「そこは梨奈さんも生徒会に所属してもらいます。新しい役職を増やすのに1つも2つも変わりません」
独裁者すぎないか。
「何を言われても入る気はねぇよ」
「そうですか、残念です」
冷泉院は肩を落として言う。
しかしすぐに顔を上げ、ケロッとした表情に。
「今日はだめでしたが、またいつか勧誘しますね」
「勘弁してくれ」
「ふふふっ」
冷泉院の微笑に俺は先が思いやられる。
「それじゃあ帰るわ」
「はい、また明日」
そのまま逃げるように俺は生徒会室をあとにした。
「ただいまーー」
俺は堂本の家に帰ったんだが、なにやら屋敷は慌しい様子で俺に反応してくれない。
まぁいつものことだけど。
「空様!!!帰られたのですね!梨奈様はご一緒ではないのですか?」
帰った俺を見つけた湊が勢いよく俺に迫って来た。
その額には汗が流れ、その表情から動揺が見て取れる。
「あいつは用事があるとかで別行動してたけど。どうした?そんな慌てて、他の奴らもせわしない様子だけど」
「梨奈様がまだ帰られていません!」
湊の一言に俺は言葉を失った。
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(作者から)
もう少しで一章を終えますが、一章の文量、内容ともに物足りないので何話か増える場合がございます。その場合話数の隣に増話と記すのでよければ呼んでください。
たぶん一ノ瀬との休日デートの話とか増えます・・・たぶん
大きい変更等はないようにしようと思いますが、何卒ご容赦いただけると幸いです。
それと「いいね」もらえると更新速度が1.5倍になりますw
よろしくお願いします。
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