第13話


「とりあえず話を聞きに行きたいんだが、湊の部屋ってどこ?」

「この階の廊下の突き当たりの部屋よ」

「了解」

「最初に話を聞くのは湊なのね」

「だって、この屋敷で俺と関わりあるのって湊くらいだろ」

「あんたあんまり湊以外の使用人に関わろうとしないものね。何か理由でもあるの?」

「別に関わる必要がないからな」


強いて理由をあげるならこの屋敷で俺のことを良く思っていないやつは割といる。

おっさんの影響なのかはわからないがあんまり近づいてもいい顔はされない。

どこの馬の骨ともわからない男がいきなり大切なお嬢様のボディガードをするとなると、確かに快くは思わないだろうが。


だから俺の犯人探しに協力してくれない場合もある。そうならないために梨奈を連れておけば、邪険にはしないはず。


「湊、入るぞ」

「ノックくらいしなさい」



「どうかしましたか?梨奈お嬢様。それに空様」


見るからに手入れが行き届いている部屋だな。

メイドだからなのか、湊の性なのかはわからないが綺麗に片付いている部屋だ。



「壺を割った犯人探しに付き合ってくれ。それで湊のアリバイについてだ」

「それはかまいませんが、昨日から今日にかけてのことは旦那様に聞かれた時にすべてお話ししましたよ」

「まぁそう言うな。もしかしたら何か気づくこともあるかもしれん」

「そうかもしれませんね」


そう言うと、湊は昨日から今日にかけての行いを話し始めた。


「昨日の夜は仕事を終えてすぐに就寝しました。朝からは屋敷の中を掃除していました」

「掃除のときにコレクション部屋には行かなかったのか?」

「コレクション部屋は旦那様が自ら手入れされているので」


大事なものは自分で掃除したくなるよな。そこは共感できる。


「何か他にないか?壺のこととか?」

「それなら少し気になる点があったのですが」

「話しなさい」

「壺が粉々に割れていたことです。倒して割れたと考えたら原型を留めないくらいに割れないと思います」

「確かにそのとおりね」


実物を見ていないのでなんとも言えないが、粉々に割れるのはおかしい。

割れた後にさらに割るなんてことをしなければ、粉々にはならないだろう。


「壺を粉砕する意味って何かしら?」

「壊したからもうとことん壊しちまえって思っただけだろ」

「そんなことすれば大きな音が出て気づかれるでしょ」

「それもそうか」

「・・・待って、壺が割れた音って誰も聞いていないの?」

「そんなこと誰も言っていなかったな。だからいつ割れたかもわからなかったんだ

ろ」

「いくらなんでも聞こえないなんてことはないはずよ。あの部屋は防音されていないし、隣にはお父様の自室があるのよ。お父様が自室にいれば、寝ていても気づくはずよ」

「確かにそうですね。この屋敷は広いですが、壺が割れればだれかに割れた音は聞こえるはずです」

「となると考えられるのは・・・」


女二人で盛り上がっている。

犯人を見つけてくれるなら俺としてはありがたいから口出しはしないでおこう。

多分真相にはたどり着くだろう。


「壺が割れたのはありえないことで、でも割れてる。ならあの壺は元々割れていたってこと?」

「それはおかしくありませんか?昨日旦那様が確認した時には割れていなかったんですよ」

「だとしたらお父様が嘘をついているか、もしくはどこからか割れた壺を持ってきてあの場に置いたってことじゃない」

「割れた壺を?」

「あの不自然にも粉々に割れていたのは壺を偽物だと悟らせないため。割れた壺のかけらから偽物だとばれてしまうのを恐れたんでしょ」

「確かにそれなら筋は通っていますね」

「つまりコレクション部屋にあった壺は割れたのではなく、盗まれたんでしょうね。それを隠すために割れた壺を置いていった。盗まれては捜索がはいるんでしょうけど割れたのなら壺を探そうなんて思わないもの。だってその場に壺があるから」

「湊様すごいです!」

「ただ、盗まれたことがわかっただけで誰が盗んだかはわからないわ。十中八九内部に関係者はいるんでしょうけど」

「そうですね。そうでないとコレクション部屋の場所や鍵の在りかをわかるはずがありません」

「今すぐ、使用人たちに借金があるかどうか調べなさい。おそらく多額の借金を返すために犯行しているわ」

「わかりました。調べてきます」


湊は部屋を後にした。

俺と梨奈が取り残された。


「これで一件落着か?」

「おそらくね。借金が誰にもなければ犯人を捜すのは難しいだろうけど」

「なんで借金をしているやつが犯人?別に借金なんてしていなくとも5億得られるならだれがやってもおかしくねぇけどな」

「使用人には十分な額の給料を支払っているわよ。それで足りないなんてほとんどないわよ」


そこまでメイドとかって給料いいのか。うらやましい限りだ。


「よっぽどお金に困っていない限り、盗みなんてする必要ないのよ」

「だから借金の有無になるのか」

「そういうこと。結局私が解決したわね」

「そうだな」

「感謝の言葉は」

「どうも」

「もっと感謝をこめなさい」

「ありがと」

「まぁいいわ」


これで解決すればいいんだがな。

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