第10話

「君が真嶋君かね?」


書斎に入ると、本を漁っている男に声をかけられる。


「そうだけど、あんたが一ノ瀬の父親か」

「ああ、そうだ。一ノ瀬才華と言う」

「俺を探してるって聞いたけど何かようか?」

「娘が面白い男の子が転校してきたと聞いてね。少し話したくなったんだよ」

「そうか」

「娘はあまり男に興味を示すことがないからね。そんな彼女が楽しそうに君のことを話すんだ。私とも話してくれると助かるね」

「そう言われても特に話題を振るような話はないな」

「ではそうだな。堂本悟とはよくやっているかね?」

「誰だそれ?」

「まさか知らないのかい、堂本家の現当主だよ。堂本梨奈くんの父親だよ」


おっさんの名前そういえば聞いてなかった。


「いや、あのおっさん俺のこと気に入らないみたいだからな。食事の時もとくに話はしないな」

「彼とは学生時代からの付き合いだけど、堅いところがあるからね。君みたいな子とは話は合わないだろうね」

「その点あんたは物分かりがよさそうだな」

「彼よりはまぁ融通は聞く方ではあると思うけど。彼も気に入った相手には親しみがあるんだけどね」

「学生時代からの付き合いって言ってたけど、もしかして秀麗の卒業生か?」

「ああ、そうだよ。もう20年も前の話だけど。私たちのときにはボディガード学科はなかったけどね」

「そうなのか」

「ボディガード学科ができたのは確か5年ほど前だから」


割と最近できたんだな。


「5年と短いけれど実績はすごいからね。卒業生は首相のボディガードをしている人もいるそうだよ」


5年しか経ていないってことは、その卒業生はまだ若いだろう。それが日本のトップを護衛するとは驚きだ。


「君もボディガードになるために転校してきたんだろ。頑張れよ」

「・・・ああ」


転校したのもボディガードになるのも不本意だけどな。


「娘とも仲良くしてやってくれ」

「気が向いたらな」

「あの子は可愛いからね。間違っても手を出したりしないでくれよ」

「出さねぇよ」

「手を出さない程度の可愛さって言いたいのか!!!」


一ノ瀬父は唾を飛ばしながら吠えてくる。

娘のことになると熱くなるのか。この辺は堂本のおっさんと似てるな。

娘なんていないから親心ってのはわからないが、こいつらはそこらの親より娘を溺愛してるのはわかった。


「あんたの娘が可愛いってのはわかったから。話は終わりか」

「ああ、呼び出して悪かったね。君の歓迎会だ、早くパーティに戻りなさい」

「そうさせてもらう」


書斎を後に歓迎会へと戻る。


「あ、そうだ。言い忘れていた。もし気になる本があればいつでも読みに来ていいから。もちろん貸し出しもいいよ」

「いいのか。俺なんかに貸しても」

「本好きなんだろう。娘から聞いている。ならいいさ。本好きに悪い人はいないと言うからね」

「そう言うならいつか借りに来る」

「ああ、感想も聞かせてくれると嬉しいよ」


書斎を後にし、廊下を歩いているとメイドに声をかけられた。


「堂本様が玄関でお待ちになっております」

「梨奈が?」

「はい」


言われるがままに玄関へと向かう。


「あんた、どこ行ってたのよ」


玄関へ行くと腕を組んでご立腹の様子の梨奈が待っていた。


「なんか、一ノ瀬の父親に呼ばれてた」

「そうなのね。それより急用よ、家に帰るわ」

「突然だな。まだ俺食い足りてない」

「家に帰れば食べ物はあるから、早く帰るわよ。初羽にはもう伝えてるから」


一ノ瀬の家からそこまで遠くはないので歩いてかえることにした。


「それで理由はなんだ?」

「お父様の大切な壺が割れたそうよ」

「それが何で俺らが戻ることに繋がるんだよ」

「犯人探しでしょうね。壺がいつ割れたかはわからないそうだから、私たちも容疑者ってことかしら」


容疑者ねぇ・・・。疑ってるのは俺だけだろう。あのおっさんが梨奈を疑うとは思えない。梨奈なら壊しても堂々と壊したって言いそうだ。


「それでその壺の値段っていくらなんだ?」


あのおっさんが所有している壺だ。おそらく数百万円くらいするんだろうな。


「確か5億くらいだったかしら」


ご、5億・・・予想のはるか上をいってる。

俺が月に150万もらえるがこれを30年続けてようやく5億だぞ。

金持ちの金の使い方ってのはよくわからん。


「そんな値段の壺が割れればそりゃ一大事だな」

「そうね。でも数あるコレクションの一つだけど」

「一応聞くけど、そのコレクションいくつあるんだ?」

「二年前で150くらいあったから今は200くらいじゃない」


200って相当なコレクターだな。

値段はバラバラだろうが壺換算すれば1000億だろ。毎年10億使っても余裕で老後まで過ごせるな。

改めて堂本家の財力の大きさに気づいた。


俺このままこいつのボディガードしてれば大金持ち確定では?


「梨奈、これからもよろしくお願いします」

「何よ、いきなり気持ち悪い」


俺の将来設計のために真摯に頭を下げたが、梨奈には不評だった。


「ちなみにだけど、あんた割ってないでしょうね」

「割ってない」

「本当でしょうね?」

「ああ、壺は割ってないぞ」

「・・・その不穏な答えは何?」

「だから壺は割ってないって」

「まさか他に壊した物があるってこと!」

「何か壊したけど壺ではなかったはず」

「何を壊したの!」


梨奈は鬼の形相で問い詰めてくる。


「なんか廊下に飾ってあった皿」

「それもコレクションの1つよ・・・どうして壊したの!?」

「靴飛ばししてたら運良く当たって割れた」

「それは運悪くって言うのよ!それに何で家で靴飛ばしをしてんのよ!」

「あの長い廊下ならやるだろ」

「やらないわよ!!!」


脛を蹴るな。痛いだろ


梨奈は俺がやったことに呆れすぎたのか、ため息を漏らす。


「そのことは私からお父様に伝えておくわ。あんたは何も喋らないでよ。面倒になるから」


「あの皿の値段ってどれくらいなんだ?藍色の皿だったような気はする」

「それなら500万くらいだったはず。廊下とかに展示してるのは1000万以下よ」


億いかないならまだ安いか。

・・・金持ちに侵食されて俺の金銭感覚もバグってきたかもしれん。


「なら問題ないな」

「問題あるわよ!コレクションは値段で決めるものじゃないの!」

「そこまで力説するとか梨奈も何か集めてんのか?」

「私のことはいいでしょ。でももし私のコレクションを1つでも壊したらあんた死刑」

「刑が重すぎないか?」

「そんくらい大事ってことよ」


コレクターの血は受け継がれるんだな。

しかし、梨奈のコレクションか。女ならアクセサリーとかを集めてるんだろうが、梨奈だからやばいものとか集めてそうだな。

具体的には動物の頭蓋骨とか。


「あんた、失礼なこと考えてないでしょうね」

「ただお前が何を集めてるのか、俺なりに推察してただけだ」

「まぁいいわ」


少し早歩きになりながら、屋敷へと向かった。



















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