第9話


「でけえな」


一ノ瀬邸についたんだが、堂本にも勝るにも劣らない立派な屋敷が待っていた。


「遠慮しないでいいから、さぁ上がって」


食堂のような所に通される。


「ちょっと待っててね」


一ノ瀬が一言いい去って行く。

すぐ戻ってきたのだが、とんでもないものを持って帰って来た。


「じゃじゃーん!特大ケーキだよ」


明らかにここにいる全員で食べきれないほどの大きさのケーキ。

歓迎会でここまでするか。


「初羽、この歓迎会を今日するって前から決めてたでしょ。でないとこのケーキを用意できない」

「ばれた?サプライズ感を強めるために必要なことだったの」


例え、ケーキが出ると知っててもこの大きさは驚くぞ。


「さっき、スーパーで買ったお菓子もあるし、みんなでじゃんじゃん食べて盛り上がろうね!じゃあ、空くん何か一言どうぞ」

「なんで俺なんだよ」

「あんたの歓迎会だからでしょ」


「・・・・・・・・・・」

「なんでもいいから言いなさいよ!思いついたのでいいから」


なら思うがままに言うか。


「梨奈の胸が大きくなることを願って、乾杯!」

「「「「乾杯!」」」」

「なんでそうなるのよ!」


梨奈の強烈なツッコミも乾杯の声にかき消された。

ノリがわかるやつらで助かる。


「やっぱり空くんって面白いよね」


一ノ瀬が話しかけてくる。


「存在自体がおもしろい、花田には負ける」

「僕の悪口はやめてください!」

「悪口ではないぞ。褒めてるんだ」

「余計質が悪いですよ」

「あははは!」


一ノ瀬は腹かかえて爆笑してる。


「そんなにおもしろかったか?」

「うん。最高だよ。あの学校はたいくつだから空くんが転校して来てくれて嬉しいんだ」

「たいくつ?」

「だって、大抵の人は小さい時から知ってるし、それにクラスの会話なんて上辺だけで、腹の探り合いしてる子ばっかり。ほらあの学校ってお金持ちがステータスに感じてる子多いから」


放課後にちょっかいかけて来た奴らもそんな感じだったな。あの学校でも有数の資産家の娘ってことで梨奈への玉の輿を狙ってたぽかったし。


「そんなわけでたいくつを紛らわしてくれそうな空くんには感謝してるんだよ。だから歓迎会開いたの!それに空くんのこと知りたかったし」

「そうか」


俺はあんまりこのパーティに乗り気ではなかったが、一ノ瀬がここまで喜んでいるなら来たかいはあったのかもな。

それにたいくつってのは俺も嫌いだから。


「空くん、自己紹介のときにツーリングが趣味って言ってたよね。私バイク興味あるんだよね」

「そうなのか!」

「うん!だってかっこいいじゃん」

「どんなバイクに興味あるんだ?俺のおすすめはやっぱりCBRだな。あのモーター音は最高だし、なによりスピードだな。走ってる時の爽快感が最高」

「どんな種類があるかはわかんないけど、もしよかったら空くんのバイク乗らせて?」

「それならいいぞ」

「やったー!なら今週末でどう?」

「梨奈次第だな、あいつに聞いてくれ」

「梨奈ー!!!」


一ノ瀬は大声で梨奈を呼びに行く。声でけぇ。


「初羽お嬢様がごめんね?騒がしい人だから」


花田が近づいて来た。


「うるさいやつには慣れてる」

「そうなんだ」

「花田は何で一ノ瀬のボディガードをしてるんだ?」


ふと疑問に思ったので質問する。

花田は遠くにいる一ノ瀬を思ってか、慈しむような表情になる。


「初羽お嬢様の心の強さに惹かれたんだ。この人はどんなことがあっても前を向き、みんなを引っ張てくれる。僕はそんな初羽様を守りたいと思ったんだ。だから、必死に訓練した。初羽様のボディガードになるには学年で一位を取るくらいにならないといけないって言われてたから。学年で一位ではなかったけど、好成績は残せた。それで初羽様にボディガードをさせてくださいってお願いしたら、可愛いからいいよって、少し不本意だったけどね」


花田は嬉しそうに話す。よっぽど一ノ瀬のことを気に入っているんだろうな。


「空くん」

「なんだ?」


半田は明るい表情から一転して険しい表情になる。


「不躾だけど僕は初羽様に恋愛感情にも似たものを持っている。だけど、それは本来護衛にはあってはならないもの。それでも・・・・もし、初羽様を傷つけたりしたら許さないから。」

「そうか」

「適当な返事だね」

「別に傷つけたりすることはねぇよ。それになにかあってもお前が守ればいい話だろ」

「それはそうなんだけどね。なんとなく空くんには敵わないと思ったから、こんな話しちゃった」

「俺ごときお前なら余裕だろ。お前は一年以上鍛錬してきたんだ。こっちは素人だ」

「確かにそうなんだけど」

「それに前教師に思いっきりぶん殴られたの見てただろ。お前なら対処できるだろ」

「確かに」

「俺はまだこれからだからな。だから色々教えてくれよ、いのり」

「う、うん!空くん」


いのりは女みたいにかわいげのある表情で笑う。


「いのり、どうしたの嬉しそうな顔して?」

「な、なんでもないですよ」

「そう?あ、空くん梨奈が今週土曜日ならいいって」

「そうか。なら土曜日にお前の家に集合でいいか?」

「うん!楽しみだね」


「ちょっとこれもう少しなんだけど食べていい?」

「まってそれ私も食べたい!!」


お菓子に釣られ、一ノ瀬といのりは去っていく。


「遊ぶ約束ですか?いいですね」


一ノ瀬達と入れ替わるように冷泉院が話しかけて来た。


「私もバイクに興味あります」

「そうか・・・・」

「なんで私は誘ってくれないんですか?」

「なんか乗せたら後ろからちょっかいかけてきそうで」

「流石の私でもそんなことしませんよ。信号待ちならするかもですけど」

「やっぱりするんじゃねぇか」


「なんだか私の印象が悪い気がします。どうしてでしょう?」

「わかってるくせによく言うぜ」

「好きな人のことを知りたいと思うのは悪いことでしょうか?」

「いつ俺はお前に惚れられたんだ?それと知りたいと思うことは悪いことじゃねぇよ。ただ、知られたくないものをさらけ出そうとするのは大抵の人間は嫌がる」

「でも空は違うでしょ。秘密を探らせることにすら楽しみを覚えているのでしょう?」

「数回しか会ってないのに俺のことよく知ってんな」

「ええ、調べてますから」

「なら何か進展でもあったか?」

「聞きたいですか?」

「別に聞きたかねぇよ」

「残念です。面白いことを噂にしたんですけど。どうです?聞きたいですか」

「顔近づけてくるな。指で頬を指すな」


この女ぐいぐいと距離をつめてくる。


「実はですね・・・」

「話すのかよ」


俺のツッコミは無視され、冷泉院は話し出す。


「ある人が真嶋という人を探しているみたいなんです」

「なんだそれ?真嶋なんて探せばいくらでもいるだろ」

「探しているのは特定の一人だけです。なんでも血のつながった孫だそうです。あなた自身が探し人という可能性もあるかと思いまして」


そんなことを言われても探されるような心当たりはない。


「因みに捜索者の名前は半田什造。孫を探している詳細は不明ですが、莫大な資金と労力をかけて捜索しているそうです」


「まぁ俺には関係ない話だな」


祖父母がいることすらよく知らない。親父達からは何も聞かされてはいないから。

このことをわざわざ冷泉院に伝えることもないので話さないけど。


「噂ってのはそれだけか?」

「ええ。いろいろと調べてはいますが、一日二日程度では知れることは少ないです」

「それもそうだな」


冷泉院の情報力がどの程度かはわからないが、俺の正体を知るにはまだまだ時間はかかりそうだ。願わくば、ばれないでくれ。淡い希望だけど。


「そういえば、一ノ瀬さんのお父さまがあなたを探していましたよ」


一ノ瀬の父親が?まず知りもしないんだが。


「どうしてかはわかりませんが、おそらく書斎にいると思うので行ってみてはどうですか?」

「まぁ、気が向いたらな」


この家、書斎があるのか!

一ノ瀬の父親には会いたくないが、書斎は入りたい。金持ちの書斎とか隠れた名作とかありそうだし。


仕方ない、本のためだ。

俺は冷泉院に書斎の場所を聞き、そのまま書斎へと足を運んだ。























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