第8話


「今日、空くんの親睦会を開こうよ」


この環境にも慣れてきた今日。

一ノ瀬が俺と梨奈の帰りを遮って言った。


「突然ね」

「だって今思いついたから、梨奈は空くんと一緒に過ごしてるからいいけど、私空くんのこと何も知らないんだもん」

「別に知る必要ないでしょ」

「いいじゃん、それとも私と空君が仲良くなるのが気に入らないとか?」」

「そんなんじゃないわよ」

「ならいいよね」

「私が決めることではないわ。空はどうなの?」

「あ?やればいいだろ」

「よし!なら決定だね。私の家にレッツゴー!」

「私は行かないから」

「何言ってるの!梨奈も行くに決まってんでしょ」

「ちょ、ちょっと」


一ノ瀬に手を引かれ、梨奈は連れていかれる。


「空、どこ行ってんのよ!」


梨奈たちと違う方向に歩みを進める俺を梨奈が戻ってきて、首根っこを掴む。


「本屋だ。今日発売の本があるんだよ」

「あんたの親睦会でしょうが!」

「斬新だろ、主役がいない親睦会」

「いいから行くわよ。私だって行きたくないのに・・・」

「なら行かないでいいだろ。適当に理由つけて」

「そうすると、初羽は家まで着いてくるわよ。それで用事が済むなり連行されるわよ」


お嬢様ってのは我が強いやつしかいないのか。


「とにかく行くわよ」


そのまま梨奈に引きずられるようについていった。



ーーーーーー



「ちょっと寄り道いいか?」

「また逃げる気でしょ」

「ちょっとそこのスーパー寄らしてくれ。2、3分で終わる」

「私もスーパー行きたい!私スーパーって行ったことない」

「何?」

「私も行ったことないわ」

「さすがに冗談だろ」

「それ冗談じゃないです」


まるで空気のようにいた花田が口をはさむ。


「お嬢様の買い物は決まったところにしか行かないよ。まぁコンビニ程度なら行くときもあるけどスーパーには行かないね」


そういうもんなのか。


「なら全員で行こう!」


ーーーーーーー


「ここがスーパーマーケットなんだ。結構人がいっぱいだね」

「初羽様あまり僕から離れないでくださいね」

「わかってるって」


それなりの規模のスーパーに入ったわけだが、一ノ瀬のテンションが高すぎる。花田に止められているが今にも走り出しそうだ。


「じゃあ、俺はあっちに用があるから」

「待ちなさい」

「ぐえっ!」


また梨奈に首根っこ掴まれる。


「あんた仮にもボディガードでしょ、私から離れるな」

「たかだか数分離れるだけじゃねぇか」

「それでもよ」

「花田もいるから大丈夫だろ。あいつだって見た目はあれだが、ボディガード見習いだろ」


女みたいな見た目で背も低いから、迫力は皆無だが。


「何、あんた。その用事ってのは私がいるとだめなの?」

「別にそんなことはないぞ」

「なら連れて行きなさい」

「へいへい」


俺は梨奈を連れて、目的の場所へ向かう。


「ATMコーナー?」

「ああ」


俺はただ、振り込みをしたかっただけ。


「それなら、ここまで来なくともコンビニで済ませればいいじゃない」

「コンビニだと手数料かかるだろ。ここなら安く済む」

「そんな気にするほどの額なの?」

「200円も違う」

「あんた、150万も貰っておいて気にするほどではないでしょう。私たちはあんたの手数料のために時間をとられたってわけ?」

「200円は大金ではないが、この手数料5回で1000円だぞ、物にもよるが、ゲームだって本だって買えるぞ」

「そうね、でも次からは行く場所と理由を伝えなさい」

「そこまで束縛するとかお前は俺の嫁にでもなったつもりか」

「私は雇用主、あんたは雇用者、わかる?」

「はい」


俺のボケをスルーですか。


「はやく、しなさいよ」

「へいへい」


俺はすぐにATMで振り込みをする。


「おわったぞ」

「案外早かったわね」

「振り込みなんて数分で終わるだろ」

「どこに振り込んでたの?」

「そんな詮索されるようなとこじゃねぇよ。ほら行くぞ、一ノ瀬が探してるかもしれないだろ」

「まぁ、いいわ」


その後、一ノ瀬たちと合流するために歩いたのだが、


「あら?梨奈さんと空じゃないですか」


聞き覚えのある声の方へ向くと、冷泉院と護衛の東雲がいた。


「もしかして、デートですか?」

「「違います」」

「息ぴったりですね」


こんな場所で出くわすとは


「生徒会長が買い物なんて珍しいですね」

「私だって買い物くらいしますよ。この店ははじめて来ましたけれど」

「そうなんですか?」

「ええ、この近くを歩いていたら偶然にも、このお店で買い物をしたくなったんです」


何か含みのある言い方だな。まさか、尾行してきたとか?


「そういえば、空の歓迎会するんですよね?私も混ぜてくれません?」


まったく、どこで嗅ぎつけたんだ。恐ろしいな。


「・・・私の家でやるわけではないので、初羽に聞いてください。おそらく、お菓子コーナーあたりにいると思います。私たちはまだ用があるので」

「わかりました」


二人は一ノ瀬を探しに俺たちから離れた。


「なんか、買いたいものでもあるのか?」

「違うわよ。とりあえず、生徒会長を遠ざけたかったの」

「あいつが歓迎会のこと知ってたことか?」

「そうね。でもあの人なら知ってても不思議じゃない」

「なんでだよ」

「あの人はそういう人なの。それより、あんた生徒会長に呼び捨てされてたわね。いったいどれだけ仲良くなっているの」

「別に呼び捨てくらい普通だろ。お前だって俺のこと名前で呼び捨てにしてるだろ」

「私はあんたの主人だから。生徒会長は私のことはさん付けしてたでしょ」


言われてみると、呼び捨ては俺だけだな。


「金持ち以外を見下してるだけだろ」

「生徒会長がそんな人に思う?」


自分で言っててあれだが、思わん。ただSっぽさは感じるけど。


「あんた、これ以上生徒会長との接触は可能な限り避けなさいよ」

「わかってる」


とは言うが、どれだけ避けても逃れられない気はする。梨奈もそれをわかっているから可能な限りと言ってるんだ。


「とにかく気をつけなさいよ」


数分後、一ノ瀬と冷泉院と合流する。

花田の両手にはお菓子でいっぱいとなったビニール袋で手がいっぱいとなっていた。また随分と買ったもんだな。

冷泉院は一ノ瀬から許可がおりたようでこのまま一ノ瀬家に一緒に向かうことになった。











  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る