第7話


生徒会室から教室へ戻り、数分待つと梨奈が戻って来た。


「さぁ、帰るわよ」


梨奈の後を追い、並んで帰る。

一応、生徒会長に会ったことは話しておくか。


「お前を待っているときに生徒会長に会った」

「あんた、まさか彼女に目をつけられたんじゃないわよね」

「多分目はつけられらた」

「何やってんのよ」

「俺が悪いわけではない」


梨奈の関係で俺が男どもに呼ばれたからあの生徒会長に会ったんだ。梨奈が原因と言える。

たとえ、あの一件がなくとも接触を図られていたとは思うが。


「それで何で彼女に目をつけられたわけ?」


さて、どうしたものか。

正直に俺の偽りの資料が提出されていたなんて言うと、色々と面倒そうだ。

冷泉院の場合は避けられないと感じたから、それっぽく言ってやったが、これ以上調べられてもいい気分はしない。


適当な理由をつけるか。


「俺がイケメンだからな」

「何の冗談よ」

「俺がイケメンなのは事実だ」

「顔の良し悪しなんて客観視して言うものよ。つまりこの場では私の意見が正しいのよ」

「梨奈は感性が他と比べてぶっ飛んでるから、俺がイケメンに見えないんだ」

「殴るわよ」


拳を固めるな。


「それで本当の理由は?」


これ以上戯言を言えば、殴ると目で脅してくる。


「ボディガード学科に転校してくる生徒って普通いないらしいからな。物珍しさで声をかけられただけだ」

「それだけ?」

「ああ」

「だとしてもまずいわね」

「何がまずいんだよ」

「生徒会長は興味のあることはとことん突き詰めていくタイプよ」

「それは出会ってよく理解した」

「だからこれから執着されるわよ」

「と言っても学年も違うから大丈夫だろ」

「だといいけど」


梨奈の様子を見る限り、俺がごまかしていることには気づいていない。

人が嘘をつく目的ってのはほとんどが何かを隠したいから。だから嘘の後の話は真実だと思い込みやすい。


「なぁ、その生徒会長のボディガードってどんなやつだ?」


これ以上聞かれると簡単にボロが出てしまうので、少し話題を変える。


「彼女についてはあまり知らない。生徒会長とは血縁関係にあるそうだけど」

「そうなのか?」

「本人たちが言っていたわけではないから、ただの噂だけどね」

「ふーん」


血縁関係か。言われてみると、顔のパーツなどは似ている部分があったかも?なにより一般人とはかけ離れた独特な雰囲気はどことなく似ている。


「彼女について何か思う所でもあるの?」

「あの生徒会長のボディガードしてるから気になっただけだ」

「そう」


その後、迎えの車に連れられ、屋敷に戻った。




ーーーーーーーーー


「転校初日だってのに色々あったな」


夜、部屋で本を読みながらゴロゴロしていると、扉がノックされる。


「空、少しよろしいですか?」

「その声は湊か、開いてるから入ってこい」

「失礼します」

「適当に座ってくれ」

「はい」


湊はベッドに腰かけた。


「それで何の用だ?」

「空様は転校初日で心細い思いをしていないかと心配で来ました」

「本当かそれ?」

「もちろん嘘です」

「おい」


昨日から薄々勘付いていたが、こいつ俺と同じで人をからかうのが好きだろ。


「でもメンタルケアも私の仕事ですので、好きな人に告白してこっぴどく振られたりしたら、大声で笑ってあげます」

「傷口えぐってるじゃねぇか」

「ちょっとしたメイドジョークです」

「おい、本当の用を言えよ。お前に構っているほど暇してない」

「勉強を教えてあげようかと」

「何?」

「空は馬鹿ですから、秀麗の授業は難しいでしょう。だから頭脳明晰な私が教えてあげようと」

「馬鹿言うな、俺は天才だからお前に教わるまでもない」


俺はカバンから教科書を取り出し、机に広げる。


「それで数学のここの所なんだが」

「教わる気満々ですね」


正直、教えてもらうのはありがたい。自分でやろうと思っていたが人から教わる方が理解しやすい。

ただ、このメイドってのが心配だ。


「お前、教えれるほど頭いいのか?」

「梨奈様の家庭教師も兼任しているので問題ないです」


こいつ、意外にできる女だな。


それから二時間ほどこいつに教えてもらった。


「何というか空様って容量がいい?」

「お前が教えるのがうまいだけだろ」

「それもあるかもしれませんが教えるとどんどん吸収しているのがわかります。教える側としては大変好ましく思います」


「二時間も付き合ってもらって悪かったな」

「いえ、これも仕事の内ですから」

「それでここに来たのは梨奈に言われたからか?」

「・・・わかりますか?」

「この屋敷で俺が勉強が追い付いていないのを知ってるのは普通に考えて梨奈くらいだろう」

「それもそうですね。梨奈様の優しさにむせび泣くと良いです」

「所々、口が悪いよなお前」

「空は常時口が悪いですよ」


メイドについて詳しくは知らないが、湊が一般的に想像するメイドとは大きく違うのは決定的だ。俺にだけかもしれないが。


「今日の梨奈様のご様子はどうでしたか?」

「さぁ、普通じゃねぇか?いつものあいつを知らないから確証は持てないけど」

「それなら良いのです」

「ふーん」

「空様」

「なんだ?」

「もし、梨奈様を傷つけるようなことをすれば許さないです」

「いきなりだな」


突然変わった湊の雰囲気。


「忘れないでくださいね」

「覚えてるかはわからん、善処するとだけ言っておく」

「とりあえずはそれでかまいません」


「湊ってここにどれくらいいるんだ?」


話題を変え、興味本位で聞いてみる。


「10年はいます」

「は?」


それは流石にないだろ。だって見た目より年食ってても25歳くらいだろ。

10年もいるわけがない。


「本当ですよ、10歳の頃に梨奈様に拾われてそれからずっとここで働いています」


今の日本で10歳から働かせるとか、児童虐待とかに枠組されたりしないんだろうか。


「私が働きたいと言ったんです。梨奈様のご側に居たいから」

「お前は梨奈に感謝しているようだから梨奈の側にいたいんだろうけど、俺からすればアホだな」

「確かにそうかもしれませんね。いずれ梨奈様の優しさに気づきますよ」


湊は心底、梨奈に心酔している様子。

今の所、優しさは皆無。これから共に過ごしても変わらないと思う。


「私はまだ別の仕事が残っているので、失礼します」

「おう、サンキューな」


湊は部屋を出て行った。

もう10時になろうとしているのにまだ仕事が残っているとは。

メイドってのはブラックなのかもな。


その後、軽く本を読み、眠った








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