第5話


俺が教室に入ると騒がしかった教室内が急に静まる。


「じゃあ、自己紹介しようか」


石屋の一言で俺は自己紹介を始めた。


「真嶋空、漢字は真心に山に鳥の嶋、空は上にある空。以上」


言い切り前を見ると後ろの方にいる梨奈と目があった。

呆れた目を向けられる。


「真嶋君、何かほかにないかな?趣味とか」

「趣味なら、バイクだ。たまに知り合いとツーリングしてる」

「いい趣味だね。もうほかにないかな?」

「ない」

「彼からの自己紹介は以上みたいだね。それじゃあ、一番奥の空いてる席に座ってくれるかな」

「わかりました」


ぽつりと空いていた席は梨奈の後ろだった。

梨奈の後ろってことは授業中寝れない。梨奈の座高だと担任からうつ伏せになっている俺の姿がみえてしまう。


俺は少し気落ちしながら席へと向かう。


「これからよろしく、真嶋」


席に着くと隣のがたいのいい、男が声をかけてきた。

こいつ本当に同い年か?随分と老けた顔をしている。

体の大きさも相まって見た目二十代後半にしか見えない。


「ああ、よろしく」


俺は内心の驚きを隠して、答えた。


「真嶋はボディガード学科だから、同じやつは手助けしてやってくれ。今日伝えたいことは他にあるけど、それは午後のHRで話します。授業が始まる前に真嶋君と少しでも話す時間がある方がいいだろう」


石屋は微笑むと教室を後にした。


がたんと遠くから椅子を蹴る音が聞こえたと思ったら目の前に影ができた。


「真嶋君!どこから転校してきたの!?何で転校でボディガード学科に入れたの!?私のボディガード引き受けない!?」


顔を上げると女の顔が目の前にあった。

目鼻は非常に整っていて長いまつげにきめ細かい肌、モデルでもしているんじゃないかと思うほどだ。


「いきなりだな、そして質問が多い」

「だって、見た瞬間びびっと来たのよ。イケメンだし気だるそうな感じが最高!」


興奮しているのか、キラキラした目を俺に向けてくる。


「それに近くでみると制服の上からでもわかる無駄のない筋肉、これから鍛えたら最高なボディガードになりそう?あ、もしかしてこの学校のボディガード制度について知らない?」

「いいや、さっき石屋先生から聞いた」

「私のボディガードになれば苦労はさせないし、三食寝床つきどう?」

「それはないですよ。初羽様~」


女の背後から背の小さなやつが、俺たちに近づいてきた。


「だって、いのりってばかっこよさが全然ないんだもの。可愛いから選んだけど、ボディガードってかっこいい人のほうが絶対いいじゃない」

「そんなこと言わないでくださいよ!僕だってかっこよくなろうと頑張っているんですから!」

「その姿も可愛いんだから多分無理よ」

「そんな~」


俺の机に突っ伏すな。


「お前らなんなんだよ」

「ごめんね。勝手にしゃべっちゃって。私は一ノ瀬初羽でこの子は私のボディガードの花田いのり。小さくてかわいいでしょ?」

「確かに小さいな」


身長150㎝ないだろう。男女どちらにせよ小さい。


「こいつ男だよな?」

「当たり前です!男です」


がばっと勢いよく顔をあげて抗議している。


「まぁこの子のことはどうだっていいの、それよりどこから転校してきたの?」

「西条高校だ。この近くにあるだろ」

「西条高校ね。ならなんでこんな近くの学校に転校してきたの?てか転校できたんだね」

「どういう意味だ?」

「だって、ボディガード学科に転校って普通できないはず。確か途中から転校してきたところで授業や実技についてこれないとかで」


石屋や一ノ瀬の話を聞く限り、俺これからここでやっていける気がしないんだが。


「転校してきた理由は前の席のちんちくりんにでも聞け」

「誰がちんちくりんよ!」


梨奈が振り向きざまに俺の頭をたたく。痛くはないけど


「え、何?二人って知り合い?」

「ええそうよ。私がこいつを転校させたんだから。私のボディガードにするために」

「そうなの!わざわざ転校させるなんて、もしかして空君ってすごい実力者?」

「いや、全然」

「私が気に入ったから転校させただけよ」

「なにそれ?梨奈ってばもしかして空君に惚れてんの?一緒にいたいから転校させたとか?」

「違うわよ」


ここで少しでも照れたり、恥じらったりすれば可愛げがあるんだが、淡々と返答するからかわいくないんだよ。


「なら、私に空君くれない?代わりにいのりあげるから」

「嫌よ」

「そんなこと言わないでよ~」

「こら、ちょっとどこ触ってんのよ!」

「いいじゃない、女同士だし。それにしても相変わらずのもち肌うらやましい」

「いつまでも触るんじゃないの!」

「痛い!頭叩かないでよ」


何なんだよ、こいつらは。

てか、梨奈がいじられてるとかなんか意外だな。

梨奈のイメージって孤高、悪く言えばボッチだと思ってた。


「真嶋、それはいつものことだから気にしない方がいい」


となりのおっさん(同級生)が声をかけてくる。


「二人は良きライバルだからな」

「ライバル?」

「ああ、この二人は成績トップだからな。この二人に対抗できるのは他にひとりしかいない」

「へぇ」


梨奈が成績いいとはさすがいいところのお嬢様、英才教育もしっかりしてることで。

一ノ瀬も見た目ギャルっぽいのに秀才とは、驚きだ。


「そういうお前の成績はどうなんだ?」

「俺は谷剛誠で、お前と同じでボディガード学科だ。勉強はあまりできないが、体力には自信がある」


一ノ瀬とは違い見た目通りだな。



「空、ボディガードの授業さぼるんじゃないわよ。そんなことしたら許さないから」

「へいへい、でもいつあるんだ?」

「選択科目の授業の時よ、そうとう厳しいみたいだから頑張りなさい」


梨奈からお礼としてこの学校に来たんだよな?

いろいろと腑に落ちない。


梨奈が前を向くと、タイミングよくチャイムが鳴った。

教師が教室に現れる。


「お前ら席つけよ。じゃあ、前回の続きからな。転校生は近くのやつにでも教科書見せてもらえ」


教師はすぐに黒板に文字を書き始めた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーー


教科書は谷剛に見せてもらいながらなんとか授業は終わった。

この授業でわかったのが授業のレベルが高い。

西条では習っていない範囲ばかりでほとんど理解できていない。


今日帰って梨奈に教えてもらおう。


「真嶋、次選択授業だからどこに行けばいいかわからないだろ?ボディガードは別館で行うから一緒に行こう」


谷剛が声をかけてくれた。


「ああ、助かる」


俺は教室を出た谷剛の後をついて行く。

すると、花田も一緒についてきた。


「お前らって仲いいのか?」

「そうだね。ボディガードの授業ではよく一緒にいるよ」


こいつらが並んで歩いてると誘拐犯にしか見えない。


「谷剛は誰のボディガードなんだ?」

「俺は松田健吾様だ」

「へぇ、男の主人なんだな」

「お嬢様は誰一人俺を指名してくれなかったからな」


しれっと、悲しいこと言うなよ。


「後で紹介する」

「ああ」


雑談を交えながら二人についていく。


「ほらここだ」


案内された場所は広い畳の部屋だ。

いわゆる柔道場だな。


「全員、集まったな」


広い道場の中央でひどく存在感がある女が言う。

女が講師なのか。勝手に男が教えるもんだと思ってた。


「今日は新入りが入って来たが、やることはかわらん。いつも通り二人一組を作れ。新入りはこっちだ」


そいつは俺を見て手招いた。まぁ俺のことだよな。

だがあえて俺は無視する。


「真嶋聞こえていないのか、早くしろ」


先より苛立ちの含んだ声だ。

だがまだ行かない。目を瞑り、佇む。


俺の周囲が騒がしくなる。

あいつアホだ、とか死んだなとか聞こえてきた。


「真嶋、早く行った方が身のためだ!」


焦りを含んだ声で谷剛が俺を呼ぶ。

静かだが力強い足音が俺に近づいてくる。

俺まで後3メートル、このタイミングだ!


「今、いきまーー」


目を開けると拳が俺の視界を覆っていた。

気づいた時には遅かった。俺は思いっきり殴られた。

殴りだけで数メートル飛ばされたぞ。


「おい、新入り。馬鹿な真似すんじゃねぇよ。時間の無駄だろうが。立ち上がって早く来い。ほかのやつも見てんじゃねぇよ。いわれた通り、二人組作っていつものことやれよ」

「「「「は、はい!」」」」


俺は教師の近くへ行く。


「いきなり殴るとはとんでもない女だな。痛てぇだろうが」

「おまえこそ、教師を無視するとはいい度胸だな」

「ちょっと寝不足だったんだ」

「それに痛いとか嘘つくな。バレバレだ」

「殴られて数メートル飛ばされて痛いに決まってんだろ」

「まぁいいか」


結構やばい人を怒らせてしまった。

怒らないギリギリを狙ったのに失敗したな。



「今回は初犯だからこれで許すが次はないから、覚悟しておけ」

「はーい」

「それより、こいつらの動きを見ておけ」


俺以外の生徒は組手をおこなっていた。


「おお、すごいな」


技をみてレベルが高いのがうかがえる。


「今日は見学だけにさせてやろうと思っていたが、結構やれるみたいだから私と組手だ」

「絶対に嫌だ」

「いたぶったりはしないから安心しろ」


女教師は笑って言ってるが平気で骨折ったりしそうだ。


「今日は予定通り見学だけでいいか。それより、お前名前は?」

「おい、教師のくせに新人の名前覚えてないのかよ」

「あいにく私は直接会ってみないと、顔と名前を覚えられない。それで、名前は?」

「真嶋空」

「真嶋空、覚えたぞ。私は篝歌子。ボディガード学科の主に体術などの訓練を担当している。私のことは教官と呼ぶように」

「了解、教官」

「それと敬語を忘れるな。また殴るぞ」

「了解です」


これ以上殴られるのはごめんなので素直に敬語を使う。

石屋のときは敬語が抜けてしまったが今はいけそうだ。

もしかして、俺が敬語使えるようになるには殴られてしつけられるとかの荒療治しかないのか!


俺はイヌかよ。


「聞くが、なぜボディガード学科に入った?」

「無理やり入らされました」

「なんだそれは?」

「堂本梨奈っているだろ、あいつに転校させられたんだよ。てか教師ならその辺の情報知ってんじゃないんすか?」

「しっかり敬語を使え。知っている教師もいるだろうが、少なくとも私は知らん。ならお前は堂本のボディガードってことか?」

「そうです」

「それはまた大変だな」

「あのじゃじゃ馬は大変ですね」

「いや、そうじゃない」

「?」

「堂本はこの学校において、もっとも目立つ存在の一人だ。そんな彼女の護衛なんて、衆目にさらされる 。お前、目立つのは好きか?」

「どちらかといえば好きではない」

「だろうな。大抵の人は衆目に晒されることを嫌う。それでだ、目立つ奴の護衛が弱いなんて、主人の評判を下げる。高校生なんてのはレッテルを貼るとか、カーストをつけるのが好きなやつばかりだからな。お前は、強くなくてはならない。この学校にいるやつが全員にお前の強さが知られるくらいに。だから、これから頑張れ」


初めて見た優しい笑顔で、俺を激励する。

今日会ったばかりで殴られて、ろくな女じゃないと思っていたが、俺の勘違いだったかもな。


「はい、頑張ります」

「やれば敬語使えるじゃねぇか。ただ男が決意を決めたならもっと声を出せ!」


頭をげんこつで殴られる。

前言撤回、やっぱりこの女ろくでもなしだ!






















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