第103話 ヴィヴィオビストロ騒動 ~エックスバーアール管理図から導かれる異常~ 9
転送された先では、目の前で全身金属甲冑の人物3名とシルビアたちが戦っていた。
「アルト、来てくれたのね。こいつらミスリルの剣でも切れないの」
見ればシルビアに渡してあるミスリルの剣がボロボロになっている。
金属甲冑の材質はミスリルだった。
彼らが使っている武器もミスリルで出来たダガーナイフだ。
室内なので長い武器は扱いが難しいので、神殿騎士団の動きが鈍い。
そのせいで押され気味である。
「ここでもミスリルか」
「ここでもって何よ」
「さっきミスリルゴーレムと戦ってきたから」
その会話に金属のヘルムのせいで表情の全く見えない敵が動揺するのがわかった。
なるほど、こちつら伯爵の手下だな。
だからミスリルゴーレムが城の地下にいるのをしっているんだ。
そして、そこから生還した俺に驚いているというところだろう。
「ショートソードがこれじゃあ使いものにならないわ。アルト、もっといい武器を持っているんでしょう。出して」
シルビアに言われたので収納してあるオリハルコンのショートソードを取り出して彼女に手渡した。
「私にもなにか貸してくれ」
神殿騎士団長がそう言うので、オリハルコンのダガーナイフを手渡す。
俺はさっきミスリルゴーレムとの戦いで使っていたピンゲージだ。
これで一対一の状況を作り出す。
「スターレット、フラッシュボムを」
「うん」
俺はスターレットに指示を出す。
すぐさま背中から強烈な光が襲ってくる。
これは迷宮内でのモンスタートレイン対策で考案して試作した、強烈な光を出すマジックアイテムだ。
ライトの魔法が付与されており、魔法適性が無い人間でも発動出来る。
こちらは直視していないから平気だが、襲撃者たちはまともにその光が目に入り視界が奪われたことだろう。
案の定、こちらの三人の攻撃は躱されることなくヒットした。
俺とシルビアが攻撃したふたりは動かなくなるが、神殿騎士団長はダガーナイフで金属甲冑のつなぎ目を刺しただけなので、一人だけはまだ動いていた。
そいつは逃げようと窓の手すりから身を乗り出そうとする。
その背中にシルビアの一撃が当たり、落下しそうになったのを俺が掴んで室内に引きずり込んだ。
「あれ、手加減したのに全員死んでるの」
俺が生死判定をして全員死んでいると告げるとシルビアが驚く。
「即効性の毒を飲んだみたいですね。おそらく奥歯にでも仕込んでいたんでしょう。どこの誰が送り込んで来たのかわかりませんが、狙ってくるなら王都の神殿か伯爵でしょうね」
「何で伯爵が狙ってくるのよ。デュアリス様を連れていったのだって、花嫁を取り戻しただけって言われたら何も反論できないわよ」
「伯爵だとしたら、多分狙いは指輪だよ」
「指輪?」
シルビアがグレイスの方を見た。
指輪はグレイスが持っているためだ。
「それが、伯爵の城の中で金貨を鋳造していたんだけど、そこに繋がる扉には魔法の鍵がかけられていたんだ。それを開けるのがおそらくその指輪なんだよ。鍵は二個あって、ひとつは伯爵が持っている」
そう言ったところでティーガタとオルタネーターベルトもこの部屋に入ってきた。
「わしは見た。ゴブリンどもとダークエルフが金貨を鋳造しておった」
「っていうことだよ。そこを見られるわけにはいかないから、鍵を回収しておきたいんだろうね。この人達が伯爵の送り込んで来た連中なら」
そう言って遺体を収納魔法で回収しておく。
「隠すの?」
「伯爵に殺人の言いがかりで逮捕されたくないしね。今夜ここには誰も来なかった。来た証拠はどこにもなければどうにもならないでしょ」
「さっきの連中がもっと沢山送り込まれてきたらどうするのよ?」
「その時は戦うだけだよ。そのショートソードは渡しておくからよろしくね」
「じゃあ、このダガーナイフもか」
神殿騎士団長が嬉しそうに言うが、そちらは回収させてもらった。
あんまりオリハルコンの武器を出回らせてもインフレを起こすだけだしね。
がっくりと肩を落とす姿に少しだけ罪悪感を覚える。
「わしは上司にこのことを直ぐに報告しなければならん。ここで通話の魔法を使わせてもらうからな」
ティーガタはそういうと水晶玉を取り出した。
「何それ」
オルタネーターベルトが興味深そうに水晶玉を眺める。
完全に獲物を狙う目だな。
「音と映像を相手に送る事が出来るマジックアイテムだ。緊急で上司に判断を仰ぐ必要が出来た場合に使用する。予備も持たされておる」
ティーガタが魔法を起動させると、水晶からプロジェクターのように画像が投影される。
映し出された人物が上司か。
「どうした?」
「緊急事態であります。ヴィヴィオビストロ公爵領の公都にあるヴィヴィオビストロシフォン伯爵の居城において、重大犯罪である金貨の鋳造をみつけました。直ぐに、王都から大規模捜査団を派遣していただきたい」
「証拠はあるのかね?」
「私がこの目で見ました。城の地下でゴブリンを使役して鋳造を行っております」
「相手は伯爵だぞ。君の目撃情報だけでは捜査を開始するには弱い。万が一証拠を隠滅でもされていたら、こちらの組織の存在が危うくなる。事は慎重を期するのだよ」
「しかしですな、今そこで行われている犯罪を見逃すというのは、我々捜査官の使命に反するのではないでしょうか」
「だから、慎重を期すると言っている。そもそも君はラパンの専属の捜査官ではないか。まずはラパンを逮捕するのが先決だろう。伯爵の結婚式だぞ。そこでラパンを取り逃し、尚且つ金貨の鋳造の証拠を掴めなかったとなれば、影響は君の立場だけではとどまらんのだよ」
「しかし」
「くどい。そこまで言うのであれば、君の捜査官としての地位をはく奪させてもらう。後任が決まり次第別の仕事をしてもらうからな。以上だ」
ティーガタが食い下がったが、上司は伯爵の捜査を認めはしなかった。
悔しさからティーガタは壁を思いっきり殴った。
「何が法の番人だ!巨悪を目の前にしながら相手の地位にびびりおって。正義は死んだ。もう勝手にしろってんだ。わしはこの仕事から降りる」
イラつくティーガタの前にオルタネーターベルトが立った。
「本気で言ってるの?」
「勿論だ。この仕事の任を解かれる。後任に任せてわしは辞表を出して田舎で畑でもやりながら暮らすぞ」
パンという音が室内に響く。
オルタネーターベルトがティーガタの頬を平手打ちしたのだ。
「そんな程度の覚悟で娘の結婚式を後回しにしてここまで来ていたの?後任が来るまでは責任者なんだから、最後まで意地をみせてみなさいよ!ラパンが相手ならご免状があるんでしょ。だったらやりようはいくらでもあるじゃない」
オルタネーターベルトに言われてティーガタの目にやる気がもどった。
「なんのこと?」
スターレットが俺に訊いてくる。
「ティーガタの娘さんの結婚式が伯爵の結婚式と同じ日なんだ。娘の結婚式よりも仕事を優先してここに居るっていうわけ」
「そんな事情があったんだ」
「今から王都に戻っても、結婚式には間に合わない。だったらここで仕事をきちっとこなすべきだろうってことだろうね」
オルタネーターベルトがそれを言うのもどうかと思うが。
なにせ、ラパンとして盗みに入るのであれば、ティーガタがいない方がやりやすいと思う。
オルタネーターベルトがティーガタを説得したのは、彼に亡き父の面影を重ねたからか、それとも娘に自分を投影したからか。
あるいは、仕事の都合上ティーガタがいないと困るのか。
「お別れの前に腑抜けた態度が治ってよかったわ」
「お別れ?」
オルタネーターベルトがお別れと言い出したので俺は驚いた。
そんな話は聞いていなかったぞ。
そもそもここで協力して欲しいと言ってきたのは彼女の方だ。
「そうよ。ヴィヴィオビストロ公爵領までの案内はおわったわ。私の腕じゃ聖女様の護衛は力不足だし、これ以上一緒にいるわけにもいかないでしょう。依頼書の達成の欄にアルトのサインをもらえるかしら。これをもっていって、冒険者ギルドで報酬を貰ってくるから」
「そういうことならサインするよ」
俺は彼女から依頼書を受け取り、そこにサインをして返した。
「じゃあ、また仕事があるなら呼んでね」
「わかったよ」
依頼書を受け取った彼女はそう言うと部屋から出ていった。
この時は気付かなかったが、翌日銀の指輪が無くなっていることがわかった。
オルタネーターベルトが盗んだようなそぶりが無かったので、彼女が疑われるような事は無かったが、俺の予想では盗んだのは彼女だろう。
となると、やはり狙いは地下の金貨か。
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