第31話 エルフの心臓2

品質管理レベル29

スキル

 作業標準書

 作業標準書(改)

 温度測定

 硬度測定

 三次元測定

 重量測定

 照度測定

 ノギス測定

 輪郭測定

 マクロ試験

 塩水噴霧試験

 振動試験

 引張試験

 電子顕微鏡

 温度管理

 照度管理

 レントゲン検査

 蛍光X線分析

 シックネスゲージ作成

 テーパーゲージ作成

 ネジゲージ作成

 ピンゲージ作成

 ブロックゲージ作成

 溶接ゲージ作成

 リングゲージ作成

 ゲージR&R

 品質偽装

 リコール


 出発前に始業点検をしたらレベルが上がったので、テーパーゲージ作成スキルを習得した。

 やはり、始業点検は大切だな。

 日々の細かい積み重ねでも経験値を獲得しているということだ。


 エルフの心臓の群生地までは徒歩での移動となる。

 小さな宿場町には路線馬車が出ていることはなく、徒歩か馬での移動となるのだ。

 今回馬を借りると予算オーバーになるのもあったが、馬を借りに行ったら馬がスターレットを見て暴れ始めてしまったということがあったのだ。

 馬が合わないってやつだね。

 馬なら片道1日縮められたかな。

 高地には馬は連れていけないので、最後は徒歩なのは変わらなかったろうけど。


 歩いているときに、夜中に男から聞いたラパンについて、二人に知っているか訊いてみた。


「最近ステラで話題になっているわね。金持ち、それもあくどいやり方をしている奴だけを狙っているから、口には出さないけど応援している住民も多いわよ」


 シルビアがそう教えてくれた。


「冒険者に盗まれた物の回収を依頼したくても、御禁制の品物ばかりなので、冒険者ギルドを通せないっていう噂もありますよね」


 スターレットの話では、冒険者崩れのゴロツキを雇って行方を追っているのだという。


「冒険者ギルドは依頼を受けるときに、法律に触れていないかチェックが入るから。そのために調査費を依頼料から引いているわけだしね」


 シルビアは自分も何度か裏取りをしたと付け加えた。


「そうか、ラパンは怪盗っていうより、義賊に近いのかな」


 晴れた空を見上げて、会ったこともないラパンの正体を想像した。

 世の中を正すためとはいえ、盗みをはたらくのは感心しない。

 品質管理だって、言うことを聞かない作業者に、暴力を振るったり、いきなりの解雇はしないからな。

 法律の範囲内でやれることをやるだけだ。


 そこからは特に何事もなく、休憩を挟みながら順調に距離を進めることができた。


「この辺は盗賊とかモンスターは出ないのかな?」


 何気なく口にしたのをシルビアが拾ってくれる。


「ステラから近すぎて、何かあれば直ぐに軍や冒険者が動くのよ。だから、こんなところで悪さを働くのは、余程食い積めたか、田舎から出てきた世間知らずよ」


 そうか、確かにもっとステラから離れた場所の方が、討伐隊の到着にも時間がかかるしな。

 こんなところにも適者生存が在るのだと納得した。

 だが、その1分後には認識が覆る。


「前方で戦闘。この感覚はゴブリン五匹と人間二人の戦闘だね」


 俺の索敵スキルが戦闘を検知した。


「距離は?」


 シルビアの顔が一気に緊張した。


「490,384ミリ……約500メートル先です!」


 いつもの癖でミリで伝えそうになったが、シルビアの顔色が変わったのを一瞬で察知して、慌ててメートルで伝え直す。

 まったく、世の中の長さなんて全部ミリでいいじゃないか。

 そんな愚痴はさておき、俺達は戦闘している場所を目指して走り出した。


「それにしても、あんたの索敵スキルは本当に金等級並みよね」


 シルビアが走りながら俺のスキルに呆れた感じで話しかけてくる。


「金等級の斥候から教えてもらったスキルですからね」


 これが作業標準書のスキルだ。

 ベテラン冒険者と同じ事が出来るようになる。

 残念ながら、誰でもが同じ事が出来るわけではなく、効果は俺のみしかないのだが。


「本当に距離も数もピッタリね」


 視界を遮っていた木々を抜けると、ゴブリン五匹と男女二人が戦っていた。

 いや、正確に言えば中年の男とゴブリンの戦闘だな。

 若い女は男の後ろで距離をとっている。


「助太刀する!」


 シルビアはそう言ってゴブリンの中に切りかかった。

 横薙ぎの一撃で三匹が上半身と下半身に分かれる。

 客先のベテラン品質管理が俺の出した対策書に指摘してきたときのような鋭さだ。

 残りの二匹は突然の乱入者に混乱して固まった。

 そこを見逃すシルビアではない。

 残ったゴブリンも二秒後には他界していた。


「助かりました。剣は持っていましたが、しょせんは護身用で本職の剣士ではないので、ゴブリンに襲われて死を覚悟しておりました」


 男が礼を言ってくる。


「この辺にモンスターが出るなんて珍しいわね」


 シルビアは男に話しかけた。


「ええ。十日に一度はステラに買い出しに行ってますが、ここでモンスターに襲われたのは初めてです」


 男はそう答えた。


「そうよね。モンスターがもっと出没するなら冒険者ギルドに依頼がでていてもいいはず」


 スターレットはモンスター討伐の依頼が出ていた記憶がないという。

 俺はその辺は全く知らないので、言われたことを聞いているだけだ。

 それにしても、これから行く方向で今までいなかったモンスターが突然出てくるとか不安でしかないな。


「お姉さんたちこれから同じ方向に行くの?」


「そうよ」


 若い女だと思っていたが、子供と成人の間くらいだな。

 先程までとは打って変わって元気だ。

 返事をしたシルビアが押され気味?


「よかったらうちに泊まっていかない?この先の宿場で宿を経営しているんだ」


「どうせ泊まるところが決まって無かったんだから、こうして知り合ったのも何かの縁だし、泊まってみようか?」


 俺は二人に確認すると、特に反対もなく決まった。

 袖振り合うも多生の縁っていうしね。


「へー、お姉さんたちエルフの心臓を取りに行くんだ。あれってそんなに需要がないから中々採取してくれる冒険者がいないんだよね。美味しいのに……」


 女の子はスターレットと打ち解けて、歩きながら楽しそうに会話をしている。

 俺とシルビアは周囲の警戒を続けているが、特に危険そうなモンスターの気配はない。

 なんの問題もなく宿場町に到着した。

 宿代は助けてもらったお礼に半額にしてもらったので、一番高い部屋に泊まることにした。

 個別で部屋をとっても良かったのだが、万が一襲撃があった時の事を考えて同じ部屋にしたのだ。

 ティーノの依頼でなんの襲撃があるのかといわれそうだが、ステラを出発する前にみた三人の死体が原因だ。

 昨夜俺が立ち去った後すぐに奴らは意識を取り戻したはずだ。

 ラパンがそれを殺したとは思えない。

 殺すくらいなら逃げないだろうからな。

 そうなると、ラパンに何某かを盗まれたやつが、探索をしくじった連中を処分したと考えるべきだろう。

 そして、殺される前に俺と会った事を話していたなら、可能性の一つとして俺にちょっかいを出してくる可能性もある。

 まあ、ちょっかいを出されたところで、こちらとしては何も知らないのだが、向こうはそれを嘘だととらえることもあるだろうからな。

 まったくもって迷惑な話だ。

 こんなことなら、連中のバックにいる奴を聞き出しておくんだったな。


「アルト、終わったわよ。行って来たら?」


 行水からシルビアが戻ってきた。

 風呂がないのは仕方がないが、体が洗えるだけましだな。

 俺は入れ替わりに部屋を出て、宿の裏にある井戸で水を汲んで行水をする。

 水は冷たく、身が引き締まる思いだ。

 これでは行水ではなく水行だな。

 外気温はまだまだ高く、水との温度差が余計に身を引き締める。

 その後全員で食堂にいき夕食をとった。

 夕食後に部屋に戻ると、昼間の太陽に焼かれた壁はまだ熱を発しており、寝るにはちょっと暑い。


「【温度管理】」


 俺は温度管理スキルで室温を20℃に設定した。

 先程まで暑かった部屋は一気に快適になる。


「すごい!これアルトのスキルなの!?」


 スターレットとシルビアは大はしゃぎだ。

 二人ともおきゃんですよ。

 まあ、エアコンの無い世界で空調を見せつけたのだから当然か。


「いつもこのスキルを使ってくれたら、一年中快適に過ごせるのに」


 スターレットが俺の両肩を掴んでせがんでくる。


「本当よね。アルト、毎晩あたしの部屋に泊まりなさい」


 シルビアは俺の首に腕を回した。

 首に蟒蛇うわばみが巻き付いたようで、生きた心地がしないのは気のせいだろうか?


 これは何も人のためのスキルじゃないんだよな。

 製品を測定する時に、室温は一定でなければならないのだ。

 推奨温度は20℃。

 温度変化によって0.01ミリくらいは直ぐに変形してしまう。

 材質にもよるが3時間くらい測定室の雰囲気にならしてから測定する必要があるのだ。

 ここでもそれを再現できるように、神様が設定してくれたスキルなのである。


 とりあえず二人の説得は難しそうなので、意識を夢の国に送り込むことにした。

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