第2話 俺とわたし、私と僕
「女の子がなんてことしてるんですか!」
俺は思わず声を荒げてしまった。
男女問わず股間は大事な部分だ。それこそ女の子なんて全身くまなく大事な部分と言っても過言ではない。
「あはは。女の子同士なんだからそんなに気にしなくていいのに」
「すみません。実は俺も……」
俺と彼女の手は今も繋がっている。
話の流れでそのまま股間を触らせるのが手っ取り早いのだが、まさか女の子に自分のアレを触らせるわけにもいかず沈黙してしまう。
「えーっと……その沈黙はつまり」
「男……なんですよね。俺」
二人の間に気まずい空気が流れ続ける。
俺は相手主導とは言え女の子の股間を触ってしまったことが気まずさの原因だった。
彼女の表情も実に苦々しい。
男に股間を触らせたからなのか、俺の性別を勘違いしていたからなのかはわからない。
「ちょっと時間いいかな?」
「はい」
彼女からの誘いに即答した。相手が女の子だとわかったからじゃない。単純に興味があったし、何か運命のようなものを感じたからだ。
***
「僕……で、いいかな。この格好をしている時は男として振舞っているんだ」
「構わないです。それならわたしも」
咄嗟の時は男が出てくるけど、わたしも基本的にはこの格好をしている時は女の子でいるように努めている。
「僕は
「
名前を聞いただけなら目の前にいる存在が男とは思えない。
たしかに顔立ちは綺麗だが、こういう中性的な男性は世の中にたくさんいる。
その逆が俺なんだから。
「マスミ……ちゃん、って呼んでもいいかな? どうして女の子の格好を?」
「はい。高1の時に文化祭の出し物で女装をして、自分で言うのも変なんですけどその姿があまりにも可愛くて。理想の女の子は女装した自分以外あり得なくて、それで…‥」
初対面の人に話したらドン引きされるかもしれない内容にも関わらずアキラさんに対してはすらすらと言葉が出てきた。
「なるほど。たしかによく似合ってるし可愛いと思うよ」
「っ!」
今までどんな男に褒められても不快感しかなくてただの自己満足だったのに、アキラさんに褒められて体の奥から熱くなるのを感じた。
「僕もね。マスミちゃんと似たような理由かな。女子にしては背が高い方で胸もない。そんな僕を『お姉さま』って慕ってくれる子達もいるんだ。決して嫌じゃないんだけど女の子と恋愛したいわけじゃない。この格好は一種の現実逃避かな」
窓から差し込む光がアキラさんの憂い気な表情を照らし、それがまた絵になっている。
俺から見てもそれは憧れの対象になるレベルのカッコよさだ。
「なんだか不思議だね。外見でも男女、中身も男女なのにちぐはぐだ」
「…………」
わたしは注文したオレンジジュースをストローで吸い上げる。本当はコーラの方が好みだけど、目の前にいるアキラさんに少しでも女として見られたいという感情が注文を変えさせた。
「あの……もしよかったらなんですけど」
「うん」
まるで全てを見透かしているようにアキラさんは余裕の表情を浮かべている。
「あ、ちょっと待って。今は僕が男で、マスミちゃんが女の子だ」
「え、あ、そうですね」
喉元まで来ていた勇気が一気に胃まで落ちていく。
「僕はただ現実逃避で男になってるわけじゃない。マスミちゃんと同じように、自分の中にいる理想を形にしているんだ」
そう言ってアキラさんはわたしの手をぎゅっと握りしめた。
「マスミちゃん、この姿の僕と付き合ってくれないかな?」
「はい……喜んで」
相手の中身が女の子だからではない。アキラさんだから付き合いたいと思ったんだ。
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