性別が逆だと付き合えない!

くにすらのに

第1話 男の娘は王子と出会う

 上女鹿かみめが真澄ますみ

 俺はこの名前が嫌いだ。

 名前の中に「女」の字が入っていて、さらに真澄なんて言ったら誰だって女だと思うだろ?

 背が低くて、ムダ毛もほとんど生えなくて、女装したらあまりにも可愛いのはきっとこの名前のせいだ。


「よし、今日も完璧」


 鏡の前では自分の姿に太鼓判を押した。

 校則ギリギリまで伸ばした髪はちょうどいいボブになる。

 軽い筋トレをして引き締めた腕や太ももは、わたしが男だからこそ作れる代物しろものだと思う。

 毎晩の保湿ケアを欠かさない肌は白く透き通っていた。


 くるりと一回転すると通販で買った桜色のスカートがふわっと舞う。

 中身が見えたら社会的に死んでしまうので死守しなかればならないが、自分でスカートを履くようになって意外と守備力が高いことを知った。


「鉄壁の守りだからこそ崩したくなるんだろうな」


 今だって女の子に興味がないわけではない。ただ、女装した自分があまりにも可愛すぎて恋愛対象として見れなくなってしまった。


「さて、出掛けるか」


 自分が可愛いことは自覚している。だからと言って男に興味があるわけじゃない。

 ただ単純に可愛い自分を世界に見せたくて外に出る。


***

 

「ねえねえ俺たちと遊びに行かない?」

 

 雑誌で見たのと同じファッションをした二人組の男に声を掛けられて思わずため息が出た。

 この可愛さだから誘いたくなるのはわかるけど、毎度のことでうんざいする。

 ただ、自分だったらナンパする勇気はないのでそこだけは評価したい。


「すみません。待ち合わせがあるので……」


 もちろん嘘だ。女装姿で誰かに会うことなんてない。

 一応申し訳なさそうな雰囲気を出すがそれが良くなかったらしい。


「友達? いいじゃんいいじゃん。みんなで遊びに行こうよ」

 

 二人でいることで気が大きくなっているのか、わたしの態度を見て判断したのか、全く引き下がる気配がない。

 『実はこう見えて俺は空手の有段者だったのだ』

 なんてことはない。わたしの中身は見た目通りの弱い男だ。


「ごめん。待った?」

 

 一瞬、相手の男達に声を掛けているのかと思った。

 この姿で休日を過ごしていることは秘密にしているので本当に誰とも待ち合わせしていない。


「すみません。僕の彼女なので」


 そう言って彼はわたしの手を取った。

 突然現れた謎の男は男子の中では小柄な方だ。それでも手足が長いせいかよりも大きく見える。

 髪もサラサラだし、女装したら似合いそうなんてことも考えてしまった。


 私は見知らぬ男に手を引かれるがまま、あっという間に雑踏を抜けてひと気のない路地に来てしまった。


「あの、すみません!」

「ん?」

「そろそろ離してもらっていいですか?」


 二人組のナンパからは助けてもらったけど、もしかしたらこの人も新手のナンパかもしれない。

 まるで女の子のような柔らかい手を思い切り振りほどいた。


「ごめんね。可愛い女の子が困ってるみたいだったから。迷惑だったかな?」

「い、いえ。そんなことは。助かりました」


 ぞんざいに手を振りほどいたのも関わらず彼は紳士的な態度を崩さなかった。

 それどころか、


「それじゃあ気を付けて。もう変な男に絡まれないことを願ってるよ」


 助けた見返りを求めるでもなくすぐに立ち去ろうとした。

 

「待ってください!」


 普段なら絶対に自分から男に声を掛けない。だけどこの人には何か特別なものを感じていた。

 恋愛感情ではなく、人間として興味を持ってしまった。


「……」


 彼はくるりと振り向き、わたしの方に歩み寄ってくる。


「ごめんね。実は僕……」


 ナンパから助けてくれた時と同じようにわたしの手を取ると、おもむろに彼の股間に押し当てる、


「え……」


 思わず声を漏らしてしまった。

 なぜならそこに俺と同じものがなかったから。


「実は僕、女なんだ」


 そうつぶやいた彼の、いや、彼女の顔はあまりにも美しかった。

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