第5話ナルシス様とマンゴドラ
家宝ともいえる貴重な本を雑に扱うナルシス様の所業に眩暈を覚えるダリア。対するナルシス様はダリアの苦悩を知ってか知らずか全く気にするそぶりは見せず言葉を続ける。
「さてこれに書かれていたことなんだが、簡単に言ってしまえば『ドゴニア病』による悲劇は過去にもあったみたいなんだ。私たちが知るよりずっと大昔の事のだけどね」
ナルシス様は説明を続けながらパラパラとその本をめくる。
「今とは別の名で呼ばれていたその病で、当時も多くの被害者が出たみたいだ。その時の様子がこの本には克明に記録されていたよ。古代の人々もまた被害を出しながらもそれに対する対抗策を何とか見つけ出して特効薬を作り出した。そしてそれは現代の薬とはまた別の製法で作られたものだった」
ナルシス様は言葉を切ってダリアへと本のとあるページを指し示した。それを覗き込んだダリアの目に飛び込んできたのは図解で示された薬の調合手順、その最初に描かれているのはマンゴドラらしきものと幾つかの材料。
「色々と詳しく書かれているんだが、このマンゴドラは特殊な個体のようでね。その群生条件が細かくあったわけなんだが、幸いなことにその条件に見事に当て嵌まったのがこの場所というわけだよ」
運が良かったと溢すナルシス様。一時悩みを忘れてナルシス様の説明に聞き入ってしまったダリアだが肝心な説明がされていないことに気が付く。何せ目の前のにいるのは未だ全裸のヘンタイなのだ。
「こんな場所に来た理由は理解しました。それで肝心なナルシス様がそのような姿になる理由は? 捕まるための準備とあれば他に色々あるでしょうに」
捕まえるための準備といえば色々あるのだろうがそう言って行った行動がコレである。捕獲のための道具も持たず、魔法などによる事前準備もなし。気配遮断の魔法もそれを発動させる魔道具もなし、ただの全裸である。
「せっかちだなダリアは。まあ見ていてくれよ」
口で言うより見せた方が早いと考えたナルシス様。行動を開始する。だがその行動もまたダリアから見れは珍妙なことで。
「---何をされているのですか!」
「見ての通りだが?」
泉に近づき近くの土を掘り起こして泥を全身に塗りたくったナルシス様。もはやダリアは意味が分からない。癇癪を起して怒鳴りそうになったところでナルシス様の動作はお口にチャック。
頭に血が上って顔を真っ赤にするダリアだが主人の指示に大人しく従う。
あたりを見渡しゆっくり動き出すナルシス様。泥まみれの男が動き出す異様な光景である。ダリアが見守る中しばらくの時間が経ち―――ナルシス様が自生している植物らしきものに手を伸ばす。
「よし!捕まえた」
『ギャアアァァ―ーーーーーー-----!』
あたり一帯に響き渡る絶叫音。ダリアは思わず耳を塞いで目を背ける。
反響する音がようやく収まったその後でダリアが目を向けてみればマンゴドラらしきものをしっかり片手に掴んだナルシス様の姿があった。手刀でマンゴドラを打ち据えて気絶させたところでようやく一息。
「大丈夫かいダリア? 状態異常とかなっていないだろうね?」
「私は大丈夫ですが。カーナル様こそ近距離で大丈夫ですか?」
互いの心配をする二人。ダリアは距離も結構あったことと常備しているお守りで問題なく。近距離でこそマンゴドラの絶叫を受けたナルシス様こそ危険があった。すぐさま主の体を心配したダリアに対してナルシス様は髪をかき分け耳元を示す。
「一応対策はしていたからね」
イアリング型の状態異常を防ぐ魔道具である。ようやく一安心できたダリア。無事にマンゴドラも手に入れて万々歳…なのだが懸案事項は解決していない。
「それで結局そのお姿になった理由は何だったのですか?」
「ん? ああちょっと待ってくれ ”浄化”」
やはり趣味でしかなかったのかと心配するダリアの前でナルシス様は魔法を使った。
効果の発動と共にナルシス様を包む光が表れるのとほぼ同時のこと。ナルシス様の周囲から高速で飛び出し周囲へ散っていくいくつかの影。ダリアの目が一瞬だけとらえることの出来たその正体はと言えば。
「今のはマンゴドラですか?」
「うむ。こいつの仲間たちだな」
気絶したままのマンゴドラを掲げながらナルシス様は言う。
「これが理由だよダリア!」
ナルシス様は笑顔で宣うがダリアにはまだ理解が追い付かない。どういうことか問い詰めたい気持ちもあるダリアだったがそれ以上に言いたいことがある。
魔法によって綺麗になったなったナルシス様、それがどういうことかと言えば。
「意味が理解できません。そ・れ・よ・り・も! 早く服を着てくださいナルシス様!!!」
裸体のヘンタイがいるということなのだから。
がんばるナルシスさん 虎太郎 @kuromaru
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