第2話

 ……そして、時刻は午前零時まで30分といったところ。


 さすがに全員が集まれたわけではなかった。親に見つかったのかもしれない。


 小学生とはいえ、携帯端末くらいは所持している世の中だ。メッセージアプリで返事を呼びかけてみても既読になることはなかった。


「……しかたがない。そろそろ時間だ、動こう」


 夜の学校に忍び込み、再び隠れ家のような旧教室に学友たちが集合したのを確認して、陽が言った。


 集まったのは4人だけだった。

 夕方の人数が10人に迫ろうとしていたことからすると、ずいぶん目減りした。それだけ家から抜け出すのは難しかったのだろう。

 4人のなかには葬もいる。興味を持てない彼だが、学友たちとうまくやっていくためにいた。というか、活動への参加もそれが目的で、ただ突っ立っているだけで通している。今回も後ろについていくだけのつもりだ。


「とりあえず旧校舎を回ってみるつもりだが、みんないいか?」

「お、おおう」

「そ、そそ、そうね」

「……」


 葬は無言で頷いた。

 ほかの2人はすこし怖さを感じている様子。いったい何が彼らを駆り立てるのか、葬には理解できなかった。




 ふと、カチ、と小さく音が鳴った。方向や音量からして、止まっていた教室上部のアナログ時計の針が何かの拍子で回っただけのようだった、が。




「ひいいいいいい!」

「きゃあああああ!」


 うるさい。


「ふたりとも落ち着くんだ! ……時計の針が動いただけみたいだぞ? それに葬を見習うんだ。この堂々とした立ち姿を!」

「……興味ないだけなんだがな」


 なぜみんなこんなに騒げるのか、葬にはまったくわからない。


「最初の怪異は、《動かなかった時計》で決まりだな……」


 陽がなにやらふざけているのか、本気なのかわからないことを言い出した。怪異の頭領とやらを探す割には、しょぼいものに反応してしまっている気がする、と葬は横でぼんやり思ってやりすごそうとした。


「怪異こええ……」

「ええ……まったく油断できないわね……」


 葬には理解できなかった。いつもと変わらず突っ立っているだけだった。


 それから陽と葬とほか2人は、《ぬめっとしたトカゲ》や《ホコリのたまり場》などありふれた存在や現象に怖そうな名前をつけて進んでいった。夜という普段ならいることのない時刻が彼らを高揚させているのは間違いなさそうだった。ただし。


「なあ葬」

「なんだ陽」

「楽しいよなあ!」

「興味ないな」


 葬は相変わらず平常運転である。懐中電灯ごしに陽は葬の顔を覗いてみても、いつもと変わらず虚ろなままだ。気が利く陽は、いつか葬が自分で笑ってくれる日がきてほしいと望んでいた。


「陽」

「な、なんだ、葬」


 などと考えていたもんで、急に呼ばれてびっくりしてしまった。


「おれたち、いつの間に現校舎に入ったんだ?」

「ん、なんだって?」

「いや、だって明かりの漏れてる教室はあるし、小さな音も聞こえないか?」

「はっはっは、葬が冗談を言う日がくるとは……ってマジだ」


 木製だった床は、滑り止めを兼ねた材質のものに替わっていた。懐中電灯をぐるりと回すと壁面もコンクリート製になっているようだった。そして最も異質だったのが……。


「陽」

「な、なんだよ」

「ほかの2人、どこいった?」

「んなもん俺らの後ろに……」



 いなかった。

 学友2人の姿がない。

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