第40話
裕太は優香の右側に立ち、彼女の手に包丁を握らせる。
「こんな感じ…………。」
「なるほど…………。」
裕太に握らせてもらうことでようやく理解できた優香。まずは右手。次は左手だ。
「次に左手は猫の手。」
「にゃぁ~~…………?」
少し右に首を傾けた優香は左手だけでなく声まで猫の真似をしながら、左後ろを向く。すると、優香の左手を見るために彼女の左側に立てっていた裕太と目が合ってしまった。何と見言えない空気が二人の間を支配する。
「え~~っと、その手を切るものの上にこうやって置いて…………。」
なんと反応していいのか分からなかった裕太はひとまず、スルーした。優香は先程の行動が酷く恥ずかしくなっていしまい、赤くなっていた。
「よし、切ってみてくれ…………。」
「うん…………。」
そして、優香がキャベツを切る。その切ったキャベツは青色に変色している。もう一度切ってみると今度は赤色に変色した。
「…………。」
「…………。」
二人とも言葉が出ない。優香自身も自分が料理をすれば何が起こるのか知っている。裕太も優香が料理をすれば何が起きるのか知っている。
「ひゃあ!? な、何!?」
突然、背後から覆いかぶさられる形となった優香は奇声を上げてしまった。
「一緒に切ったらどうなるのかなと思って…………。」
「あっ、そっか。」
裕太の思いつきに優香もいい案だと思った。優香一人でやったら失敗するだけで、誰かと一緒にすれば上手くいく可能性があると思えたのだ。だが、二人は次の行動には移れなかった。なぜなら、互いの心がそれを拒否したからである。
背後から優香を抱きしめるような形となった裕太。甘く、懐かしい香りが裕太の鼻孔をくすぐる。それは優香の匂いだった。優香から感じられる仄かなぬくもりも相まって心が落ち着いていく。一方の優香も裕太の香りが鼻孔を刺激していた。背中に密着している裕太の温かさ。それらは優香にとって心から安らぐものだった。
もう少しだけこのままで居たいと思ってしまう二人。
(駄目だ。料理に集中しないと…………。)
(今は料理。裕太に甘えるのはこれができてから!)
頭を振って雑念を追い出す裕太。優香は後から裕太に甘えようと決意して、気を取り直した。
慣れない新しい生活によって心労が溜まっていたから、無意識的に二人は互いを求めてしまったのかもしれない。心の癒しとして…………。
「うん! 試してみよ!」
最初の受け答えから、二、三歩遅れていた。他の人にしてみれば明らかにおかしな間があったのだが、二人共固まっていてのでその存在を認識できていない。
「おっ…………!」
「あっ…………!」
一緒に切ってみると変色は起きず、普通のままだった。もう一度切ってみても同じ結果だ。そして、二人はそのままキャベツやハムを切り終えた。
炒める時も裕太と優香と一緒にした。すると全く異常がなさそうな料理が完成したのだ。
「出来た…………。」
優香が呟いた。彼女にとって、今まで作ってきたものの中でも一番の出来だと思えるものだ。優香は普通の者ができていて欲しいと願うのであった。
ただ見た目上は大丈夫そうでも本当に異常がないのかは食べてみなければわからない。でも、裕太は本当に普通の食べ物が出来上がったと確信している。なぜなら彼の中のよく当たる勘がそう判断したからである。
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