第41話



 少しの恐れを感じながらも、野菜炒めを箸でとる裕太と優香。


「「頂きます…………。」」


 口の中に入れる。その味は…………。


「普通…………。」

「うん…………。普通だね…………。」


 味は普通であったが、それは皆が食べられるものだった。そのことは喜ばしいことである。上達するはずがないと思われていた優香の料理スキルが飛躍的に向上したのだから…………。だが、一つの大きな疑問が残る…………。それは…………。


「う~~~ん…………。何で成功したんだろう?」

「確かに…………。」


 何故、成功したのかだ。今までの失敗が嘘ではないかと思うほどのものが出来上がった。二人共、頭をひねっている。


「俺が一緒にしたから…………?」

「?」


 裕太が呟いた。


 成功した原因として考えられるのはその一つ以外思いつかなかった。最初、優香だけでキャベツを切った時は色が変わっていた。だが、裕太と共に切った時は変色は起きなかった。炒める時でもそうだ。優香一人でしていれば卵焼きの様に変色していただろう。


「今回みたいに誰かと一緒だったら、大丈夫なのかもしれない?」

「それだ!」


 そして最初の思い付きをより深く考えた結果、裕太はある結論に至った。優香は誰かと一緒に料理をすれば、失敗することはないのではないかと…………。


「なら次は理華か真理と一緒にやってみよっと…………。」


 優香はそんな決意を固めた。理華と真理がその頼みを耳にした瞬間、逃げ出してしまうことはほぼ確実と言っていいぐらいなのだが本人は聞いてくれると思っているようだ。


「ところで優香。俺に何をしてもらいたかったんだ?」

「えっと…………。それは…………。その…………。」


 視線をうろうろさせながら、返答に困っている様子の優香。甘えさせてくれというのが恥ずかしくなってしまったのだ。


(何て言ったらいいのかな!? えっと、えっと…………。)


 そして、優香は迷いに迷った果てに…………。


「ん!」


 何故か裕太に向かって頭を突き出した。言葉では言えなかったので、行動に出したのだ。もし、裕太がどういう意味何かわからなかったらどうするつもりなのだろうか。


「なんだ?」


 当然、裕太には優香の行動の意図が伝わっていなかった。頭を突き出しただけで、頭を撫でてもらいたいと察することはできないだろう。


「撫でて!」

「分かった…………。」


 優香は耳まで赤くしながらも、言葉にした。裕太はようやく優香が自分に何を頼んでいたのかわかった。


(そう言えば理華を撫でていた時、優香も撫でてもらいたそうにしていたな…………。)


 裕太は理華を撫でていた時の優香の心情を何となく察していたようだ。


「えへへ…………。」


 幸せそうな表情で裕太に撫でてもらう優香であった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る