第36話
裕太がやってきた場所は校内の外れにある和室であった。
「へ~~~! こんな場所があったんだぁ!」
歩と真理は辺りを見回しながら
「会長が隠れて食べるにはちょうどいい場所があるって教えてくれたんだよ。」
元々この場所は昔存在した茶道部の部室であった。だが、部員が居なくなったことで廃部となり部室であった和室は生徒会が管理することとなったのだ。一応、生徒会役員たちが集まるための場所の一つとなっている。
基本的に使われないため、生徒会役員たちがそれぞれで弁当を食べるために使われることが多かったらしい。現在居る生徒会役員たちは何だかんだ言って、全員クラスの中心メンバ―の一人なので教室にきちんと居場所がある。だから、ここを作っている者は一人もいない状況である。
葵衣は一年生の中で使う人はいないかなと思っていたところ、同じく参加することになった一輝によって裕太がクラスの端っこの方に居るのを知ったのだ。そして、葵衣は裕太にこの場所を教えたのだ。一番使いそうな人間だと思って…………。
「裕太にはぴったりな場所だな。」
「どういう意味だよ…………。」
まさに歩の言葉のとおりである。ジト目を向ける裕太。
「ここなら、優香も一緒に食べてもいいんじゃない?」
四人で一緒に食べられたらいいなと思っていた真理。この場所が使えるのではないかと思ったのだ。
「いつも家では一緒に食べているから、学校ぐらいは別のほうが良いだろ。面倒なことを避けるためにも…………。」
裕太の考えにも一理ある。わざわざ学校でも一緒に食べる必要はない。家では一緒に食べられるのだから…………。それに学校では人間関係のことも踏まえて、優香は友人と食べるようにしたほうが良いと思ったのだ。
一つ目は友人との関係を保つためである。優香も裕太と同じ人数しか友人はいない。もう少し温かく接すれば変わるかもしれないが、男関係が面倒くさそうだと言うことで対応を変えることはなかった。
二つ目は男関係である。もし、昼休みのたびにどこかに行っているとなれば一人で食べていると考える人間が必ず現れるだろう。そうなれば優香が友人と食事する場合よりも嫌いな男に一緒にご飯を食べないかと誘われる可能性が高くなると考えたのであった。
一つ目に関しては別に友人たちはそんなこと気にしないような人たちなので問題ないだろう。だが、優香にとっては二つ目が大問題なのだ。
「確かに…………。優香には一緒に食べるような友達がいるからね…………。」
真理も歩も裕太と同じ考えに至っていた。優香の負担になるようなことは起きて欲しくないと思う三人であった。
「そうだな…………。」
遠回しに裕太にはご飯を一緒に食べるような相手がいないと言われたのだが、ツッコんだらツッコんだでからかわれそうだなと思った裕太。そのことには一切触れないことにした。
一旦会話をやめた三人は床に腰を下ろした。弁当を食べながら、会話をすることにしたのだ。
「そう言えば、神崎は何を相談したかったの?」
「優香のことで少しな…………。」
真理はご飯をもぐもぐと食べながら、話を本題へと戻した。一番話さなければならないことはそれなのだ。
「実は少し前、優香にスクランブルエッグを作ってもらってな…………。」
「えっ…………?」
真理は少し顔を青くしつつ、裕太に尊敬のまなざしを向けるのであった。
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