第38話




(ハムとキャベツを使った野菜炒めにするか…………。)


 裕太の考えが固まったと同じ頃、叩きつかれた優香は肩で息をしていた。


「はぁ…………。はぁ…………。」


 優香はクッションを膝の上に乗せ、俯いている。


「落ち着いたか?」


 裕太は恐る恐る、クッションをずらして顔を覗かせる。顔を見た瞬間、目元に涙を浮かべながらキッと睨みつけた。びくりと身体を震わせる裕太。


「裕太に大失敗した料理を食べさせたら、落ち着くかもしれない…………。」

「それは遠慮させて貰う。」


 優香の呟きに対して、裕太はすぐさま首を左右に振りながら拒絶の意思を示した。失敗したものならまだしも、大失敗したものは食べたくないらしい。普通ならどちらも食べたがらないと思うのだが…………。


「なら、さっきの条件を変えて。」

「どう変えるんだ?」

「失敗しようが成功しようが一回だけ私の言うことを聞くってのはどう?」

「別にいいぞ。」


 優香が無茶な要求をすることはないと分かっている裕太は彼女の提案の飲んだ。


「やった!」


 笑みをこぼす優香。あのままタイミングを掴めなければ、裕太に甘えることができずに時間だけが過ぎていくことになった。その機会を得られたことが余程、嬉しかったのだろう。


「よし! 早くやろ?」

「お、おう…………。」


 先程まであれほどまでに嫌がっていたことを自分から進んでしようとしている優香に対して、驚きを禁じ得ない裕太。動きの鈍い裕太の手を引き、優香はキッチンへと向かうのであった。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る