第24話 その後の生徒会室にて
「「ふぅ…………。」」
生徒会室から出てきて、緊張が解けた裕太と優香は二人同時に息を吐く。かなり気が張っていたようだ。
「緊張したな…………。」
「うん…………。」
裕太の呟きに対して優香も同意する。
「ゆ…、あっ、宮間…………。」
思わず『優香』と呼びかけてしまったが、既の所
すんでのところ
で言い直した。
「どうしたの? ゆ…………。神崎?」
同じく優香も『裕太』と呼びかけてしまった。
「じゃ、じゃあ! また今度な!」
「う、うん。またね!」
これ以上話していてはぼろが出てしまうと思った二人は、おどおどしながらも互いに別れを告げ同じ家に帰宅していくのであった。
全くボロを出すことなく乗り切ることができたと思っている二人だが、葵衣の前ではボロどころか家の中と同じような行動をしていたのを完全に忘れているようだ。
一方、その頃生徒会室では…………。
「あれ? そう言えば凛がまだ来てない…………。」
もともと葵衣はここには裕太と優香だけでなく、副会長の一人である赤石凛
あかいしりん
も呼んでいたのだ。だが、いまだに凛は姿を現していない。
「呼んだはずなんだけどなぁ…………。」
キョロキョロと辺りを見回す。凛はよく物陰に紛れている。体の小ささと相まって、見つけ出すのは困難を極めるのだ。二人は一緒に出掛けることがあるのだが、葵衣はよく凛を見失ってしまうらしい。一度は迷子として呼び出すことも考えたことがあるとか…………。
「どこで道草を食っているんだろう…………?」
葵衣は背もたれにもたれ掛かりながら、そう呟いた。すると…………。
「呼ばれて出てくる副会長で~~~す!」
「きゃあ!」
彼女の背後にあった大きめの箱に中から凛が飛び出してきた。気を抜いていた葵衣は、思わず驚きのあまりに叫び声を上げながら飛び上がってしまった。いつも冷静な葵衣も凛にはよく振り回されているらしい。
「凛!? ど、どどどど、どこから出て来てるのよ!」
動揺が抜けきっていない葵衣は、目の前にあった机のへりにしがみつきながら声を震わせ叫んだ。
「あっ、葵衣、ごめ~~~ん!」
そんな葵衣の注意を意に返す様子もなく抱きついていく凛。
「はぁ…………。それで何でそんなところに入っていたの?」
呆れ気味の葵衣。かれこれ五年以上の付き合いになる二人。互いのことも良く分かっている。
「あっ、その、ええっと…………。」
口ごもりつつ、そっぽを向く。
「恥ずかしかったからでしゅ…………。」
赤く染め上げた顔を俯け、もじもじしながら恥ずかしそうにそう告げる。勇気を出していったものの最後の最後で噛んだしまう。
「ん~~~~!!」
その失態に対してより恥ずかしくなってしまった凛は顔を両手で隠し、丸まってしまう。その姿を見た葵衣はというと…………。
「かっ…………!」
「可愛い~~~!!!」
「うにゃぁ!」
あまりの可愛さで叫んでしまった葵衣は瞬時に凛の小柄な体を抱き上げて、自分の膝の上に乗せる。突然、体を持ち上げられた はじたばたしながら抵抗したが、そんなことはお構いなしである。
「よしよし…………。」
頭を撫でている葵衣にとっては至福のひと時である。彼女的にはかわいい子供を撫でている気分らしい。凛の体の大きさは小学生と言っても違和感が全くない。凛にとってはそのことは少しコンプレックスとなっている。だからと言って、撫でられるのが嫌いではない様子。
「う~~~~!」
顔を赤めてはいるが、満更でもなさそうだ。どうやら葵衣に撫でられるのは好きらしい。こんな風にしているから、いつまでたっても子ども扱いから卒業できないことに本人は気が付いていないようだ。
葵衣が凛で遊んでいるとドアが開いた。
「失礼します…………。」
入ってきた男子生徒は、もう一人の副会長である下北沢直人
しもきたざわなおと
だ。葵衣と凛の姿を見て少々固まってしまう直人だが、見慣れた光景なのかすぐに気を取り直す。
「神無月先輩、赤石先輩、こんにちは。」
直人は二人から少し距離を置いて、椅子の腰かけた。
「こんにちは。下北沢君。」
「こんにちはです…………。」
離れる気は全くない様子の葵衣と凛はそのままの状態で直人に挨拶を返した。同じ生徒会役員の人間からすれば毎度おなじみの光景ではあるが、呆れ気味に見ていた直人はすぐに真面目そうな表情に戻す。
「ところで、先輩方。」
二人にこれからの生徒会にとって最も大事なことを聞くことにしたのだ。
「「?」」
真面目な顔の直人に対して、葵衣と凛はどうしたのか分からずキョトンとした表情だ。再び呆れ顔になりかけるも、すぐに気を取り直す。彼はよく葵衣と凛にペースを乱されるらしい。
「新入生の勧誘はどうだったんですか?」
じっと真剣な視線を葵衣と凛に向けるが、その二人のせいでどうにも空気が締まり切っていない。
「成功だよ~~~!」
凛のほっぺをぷにぷにするのに夢中になっている葵衣に代わって、隠れていて何もしていなかった凛がテンション高めで答える。
「良かった…………。」
ホッとした様子の直人。去年と同じように最初に勧誘した二人のうち一人が断るようなことになれば、新しく決めるのに悩むことになったであろう。
「すみません! 遅れました!」
駆け込んできたのは庶務の如月玲奈
きさらぎれな
だ。
「今日は何もないわよ?」
先程までの気の抜き用が嘘のように冷静に返す葵衣。さすがに何時までもリラックスした状態でいてはいけないと思ったのだ。
「あっ、いえ…………。新入生がどうだったのかなと…………。」
苦笑いを浮かべる玲奈。
「皆考えることは同じってことだね~~~。」
凛がにこやかに笑いながら呟いた。ここにきていない人たちも皆、同じように心配していたのだ。
「山下は『マイシスター、今帰るぞ!!』って叫びながら帰ってたのを見かけたから置いといて…………。」
庶務であり、生粋のシスコンである山下恭一
やましたきょういち
。根は真面目な優等生なのだが、妹のこととなるとポンコツ化してしまうのだ。生徒会の中でも一番個性の強い人物と言えるだろう。
「あとの三人は?」
どこかに潜んでいるかもしれないと周囲を見回す葵衣。
「柳君と坂上さんは手をつないで帰ってたよ~~~~。ホント、仲いいよね~~~。」
凛が知らせる。書記の柳良太
やなぎりょうた
と会計の坂上渚
さかがみなぎさ
は恋人同士である。人目を気にせず仲良くしている姿が校内でよく見かけられるらしい。
「北村は編集者さんと打ち合わせがあるとかどうとかで急いで帰っていきました。」
北村隆
きたむらりゅう
。書記であり、自称小説家でもある。
「そっか…………。」
個性が強めな生徒会役員たち。彼らを思い浮かべて遠い目になっている葵衣。そう言う葵衣も個性が強いのだが、本人には自覚がないらしい。
「まぁ、いいや! 今は後の二人をどうやって選ぶか決めるのか考えないと…………!」
一学年につき四人が生徒会に入る必要があるのだ。選挙の時は毎年、四人以上が立候補するので問題ないが、新入生の勧誘はその時の生徒会が誰にするか決めなければならない。
「先程の二人の様に選ぶのであれば成績が三位の人と四位の人を選んでもいいでしょうけど…………。」
玲奈が少し不満そうにしている。成績が良いと言う理由だけで全員選んでもいいのかと思ったようだ。
「うん…………。それだとちょっとね…………。」
葵衣も玲奈の言葉に賛同する。
去年はもう卒業した三年生の生徒会役員たちが決めてしまっていたので、どう選んでいたのか知らない。その人たち曰く、『成績が悪くてもいい人なら勧誘していいからね。』と言うことらしい。だが、そうなると人数が大量になってしまうので選ぶのが難しくなってしまう。十人前後の中から選ぶのが適切だろう。
「なら、成績が十位以内の人の中から顔が広い人を選んだらいいんじゃないかな?」
凛がアイディアを出す。
「それいいわね!」
即座に取り入れようとする葵衣。玲奈も直人も反論はないようだ。それを視線の実で確認した彼女は…………。
「よしよし、ありがとう凛。」
案を出してくれた凛の頭を撫でるのであった。即座に行動はしないらしい。
「ふにゃぁ~~~。」
葵衣に頭をナデナデされた凛は目をつぶって気持ちよさそうにしている。そこには猫になってしまった凛が居た。
「でも、どの人が顔が広いのかわかりませんよ?」
「それはあの二人に聞けばいいだろ?」
玲奈が一つだけあった問題点を告げるが、直人の提案ですぐに解決した。
「あっ、そうだった!」
二人の新入生が確保できていたことを失念していたようだ。
「それじゃあ、選択の方法はそれで決定ね。後は…………。」
「皆で集まるのはいつにするか、ですね?」
玲奈が葵衣の言葉につなげるように言った。
「うん。でも、今ここで決めることはできないから生徒会のRINEのグループで相談しましょう。」
簡単な話し合いや連絡は生徒会全員が入っているRINEのグループ内で行っているのだ。
今の全員が集まっていない状況で集合日を決めたとしても、全員が集まれることはまずない。後二人の一年生を選ぶだけなら、三年生と勧誘済みの一年生のみで話し合って決めてもいいだろう。だが、次回は優香と裕太への生徒会役員の紹介も兼ねて行うつもりなのだ。
「じゃあ! 今日の所は解散で!」
この話し合いのまとめ役である葵衣は解散することにした。別にわざわざ言う必要もないのだが、その場のノリで言ったようだ。
「葵衣先輩、さようなら~~!」
「失礼しました…………。」
直人と玲奈はすぐに生徒会室を後にする。
「バイバイ~~~!」
葵衣は二人に手を振って見送る。残るは葵衣と凛だけ。
「葵衣~~~! そろそろ離して~~~!」
「あっ、ごめん、ごめん!」
葵衣がなかなか離してくれなかったため、彼女の膝の上に居た凛が手足をじたばた動かす。ずっと凛を抱きしめていた葵衣は彼女に謝りながら、名残惜しそうに開放するのであった。
仲のいい二人。彼女ら最初の出会いはどんなものだったのか…………。
それはまたの機会にて…………。
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