第18話 告白?【修正済み】
先程、優香が何と言ったのか裕太にはすぐに理解することはできなかった。脳の処理が全然追いついていないのだ。
(好きって言われたような…………。いや、聞き間違いだな…………!)
自身の聞き間違えだと考えた裕太は、頭を振り先程の言葉を頭の中から叩き出そうとした。だが、優香は再び同じ言葉を彼に向かって言った。
「好きだよ…………。 裕太…………。」
「な、な、なぁ!」
彼は自分の聞き間違いではなかったことがようやくわかった。
だが、もう一度言われたところでそれを頭が理解できるかどうかは別の話。優香が自身のことを好きだなんて考えられないのだ。だって、そんなことはあり得ないからだ。
今まで裕太と優香は兄妹のように育ってきたのだ。そんな関係である以上、彼女が自分なんかに行為を向けるとは考えずらかったのだ。ましてや、美人で好きになるなんて…………。でも、妹が兄を好きになってしまうと言う話もある。もしかしたら本当に…………。そう思いかける裕太。
「だから私の面倒見て。」
「…………。」
無言で優香をジト目で見つめる裕太。先程までの動揺の色はうかがえない。
「優香、お前俺に面倒見てもらうためにわざと言っただろ…………。」
そんなラブコメのような展開にはならなかった。今の言葉を聞いて裕太はそう確信する。自分に告白したのち、面倒を見るように言えば素直に言うことを聞いてくれるとでも思ったのだ。
そして、その後告白はなかったことにする。でも、裕太が優香の面倒を見ると言ったこと事実はなくならないのでそのまま面倒を見てもらう。そういう作戦だったのだ。
「もう! そこは素直に『はい』って言ってよ!」
「そんな簡単に俺が騙されると思うなよ!」
さっきの顔と仕草は全てが彼女の可愛さをより強調していた。優香と接しなれている裕太でさえ、そのまま素直に『はい』と言ってしまいそうなぐらいだ。それだけ破壊力のある表情と仕草をしていた。全ては計算のうちではあるが…………。
いつもの裕太なら冗談だとすぐに察して反撃に出ていただろう。これは裕太にとって大きな失敗だ。確実にからかってくるだろう。そして、最後は抵抗空しく音を上げるまでからかわれる。それがいつもの幕の引き方であった。
だが、いつまでもこいつとの駆け引きで敗北を期すわけにはいかない! 優香、今日こそお前に勝たせてもらう! そう決意した裕太はこぶしを握った。
「すごく張り切っているところ悪いけど、『お前』とか『こいつ』って言うの金輪際やめてよね?」
そんなことをお前に指図される筋合いはないと言いたいところだが、これから優香と一緒に過ごしていくとなるとそう言ったことは気を付けるべきだろうなと考えた裕太。
本当は裕太としても普通に『優香』って呼ぶ方がいい。何故か彼は昔から、優香の時だけ名前呼びの方がしっくりくるのだ。優香を別の呼び方をするときは基本的に裕太が虚勢を張る時だけ。まぁ、いくら虚勢を張っても優香に勝てたためしなんて一度もないのだが…………。
弱気になり始めた裕太だが、無理やり元気を出す。弱気になってはだめだ。弱気になっていては勝てるものも勝てなくなる! そうやって自分を鼓舞したのだ。その甲斐あって、少しだけ弱気になっていた心が元に戻ってきた。
そこに来てようやく裕太はおかしなことに気が付いた。自分は優香のことを口に出して『お前』とか『こいつ』なんて言ってない。心の中で思っただけだ。なのに何故こいつは気が付いたのだ? と…………。
裕太の背中に冷たい汗が流れる。
「いや、ちょっと待て。何で分かった?」
「また言ってる。懲りないね?」
「いや、そんなことより何で俺の思考が読めているんだ?」
「私にとっては裕太の思考を読めるかどうかなんてことどうでもいいことなの。はぁ、まったく…………。今日でいったい何度目よ…………。嫌だって言っているのに…………。」
優香は頬を膨らませながら、つぶやいた。激怒とまではいかないが、少し不機嫌になっている。だが、そんなことよりも裕太にとっては何故、優香が自身の思考が読めたのかの方が気になっている。彼はまずはそこを聞きたいのだが…………。
「いや、あの…………。」
「物わかりの悪い裕太にはお仕置きが必要みたいだね? フフフフ…………。」
不気味な笑い声を発する優香。完全にキレてしまったようだ。
「じゃ、キッチンを使わせてもらうね?」
「何をする気だ?」
キッチン? ボクソンナトコロシラナイ。心の声が動揺と恐怖のあまり片言になってしまった裕太。だが、暢気にそんなこと言っている場合ではない。優香が台所話使うなんてことさせてはいけない。裕太は全力で彼女がキッチンに向かうのを阻止しなければならない。なぜなら、…………。
「ふっふ~~ん! 裕太には特別に私の手料理を食べさせてあげるわ!」
「やめろ! 俺を殺す気か!」
優香に料理は作れないからだ。なのに何故か優香は台所に行って料理をしたがる。そういった経緯で優香は台所に入ることをみんなから禁止されてしまったのだ。まぁ、より正確に言えば、まったく料理を作れないこともないんだが…………。ただ、作成されるものが大きな問題なのだ。
「何よ。ちゃんと食べれるもの作るから安心しなさい。」
優香が胸を張って自慢げに話す。だが、裕太は知っていた…………。
「う、嘘だ! お前は食べれるものから毒を作ることしかできないだろ!」
その自慢げな様子の優香に反論する裕太。彼女は天才的なまでの毒の作成能力(?)のおかげで料理を作るとその料理は毒物になってしまうのだ。どんなに教えても、作れるのは毒だけ。優香の料理の腕前が下がることはあっても、上がることはなかったのだ。
だが、裕太がいくら反論したところでその過剰なまでの自信が揺らぐ様子はない。
「酷い! 私だって上達してるんだから!」
「本当か?」
優香の発言に対して疑いの目を向けながら、思案し始める裕太。
(まさか、そんなことがあり得るのか? 優香の殺人的なまでの料理の腕が上がることなんて…………。誰が教えても上達する気配さえ見せていなかったのに…………。)
裕太は一筋の希望を信じて、優香の言葉を信じようとした。だが…………。
「うん! 大丈夫、大丈夫! 最悪、死ぬだけだから!」
「どこに大丈夫な要素があるんだよ!」
やはり変化することはなかったようだ。裕太は頭を抱える。このままだと本当に優香によって毒殺されてしまう。何としてでもこの場から退避しなければならない。自分の命を守るために! だが、現実は非情である…………。
「逃がすと思う?」
どこから出したのかわからないが、優香の手にはロープが握りしめられていた。
「捕まえられるものなら、捕まえてみろ!」
強がる裕太。
「じゃあ、遠慮なく。」
優香はそう呟いた途端、裕太を捕獲しようと襲い掛かった。彼は持ち前の直感を使って、ひらりと彼女の魔の手から回避する。
「ちっ…………! 裕太のくせに生意気…………!」
裕太を捕まえられなかった優香は、悔しそうに彼を睨みつける。
「ふん…………! 俺を嘗めるな!」
優香は何度も同じように繰り返し、裕太を捕獲しようと試みるものの目的を達成することはできずにいる。
「くっ…………!」
奥歯を噛みしめ、悔しそうな表情を浮かべる優香。
「何で!」
彼女の心の声が漏れた。それもそうだろう。彼女は、今まで裕太は運動音痴だと思っていたのだから…………。
「ただ単に優香が運動音痴なだけじゃないのか?」
裕太は彼女の心の叫びに対して、煽るように返事をする。
「むう~~~~!」
頬を膨らませ、唸る優香。
「あっ…………! 裕太が運動全般はだめだめな代わりに、直感がすごくよく働くことを忘れてた…………。」
優香が思い出したように呟いた。彼女が言った通り、裕太は運動全般が苦手だ。本当に…………。苦手でもやればできる人も居るかもしれないが、彼はそれに当てはまらない。彼はいくら頑張っても全くと言ってもいいほどできないのだ。
でも、それとは別に直感が良く当たるこれは裕太の知り合いの人すべてが首を傾げていた。直感が働くのならば、そこまでできないこともないだろうにと…………。
「こうなったら…………。」
優香はこのままでは裕太を捕まえることはできないと分かると、最終手段に出た。
「えっ…………?」
突然、彼女は裕太に向かって突撃してきたのだ。裕太は彼女を避けても良かったのだが、怪我をするかもしれないと思ってしまった。だが、優香は裕太がよけてもケガをしないようにちゃんと考えていた。だが、この事を裕太が分かるはずもなく、思わず受け止めてしまった。
「おい、危ないだろ?」
裕太はこれまでのことを忘れ、思わず優香のことを心配した。が、返事として帰ってきたのは…………。
「がはっ…………!」
彼女のこぶしであった。不意打ちであったため避けることも出来ずもろに受けてしまう裕太。殴られた裕太はお腹を抱えたまま、膝をつく。優香はかなり手加減をしたようだが、彼を一時的にでも身動きできなくさせるには十分すぎる威力があった。
「よし、捕まえた。」
その一瞬の隙を優香が見逃すはずもなく裕太は彼女によって縛られることとなった。
「あっ…………!」
自分の状況を瞬時に理解できた裕太の顔は青くなっている。
「裕太。そこで大人しくしててね?」
そう優しく微笑んだ悪魔は裕太をソファーに転がし、台所へと向かった。その一瞬の間に彼の口にタオルをかませ、足は余っていたロープで縛る。これによって裕太の逃げ道は完全に立たれてしまった。この状態では動くことも、誰かに助けを求めることもできない。
まぁ、たとえ、助けを呼べたとしてもこの状況を見た人全員がカップルが私情の縺れが原因で喧嘩をしているようにしか見えないかったであろう…………。
「私の丹精込めて作る手料理、楽しみに待ってなさい!」
「ん~~~~~!」
必死に解こうとするが、非力な彼にはどうすることもできない。
そんなことお構いなく、時間は進み続ける。ゆっくりと、そして確実に死の瞬間は刻一刻と迫ってくるのであった。
そして、その日の夕暮れ時。一人の男子高校生の叫び声が赤く染まった町中に響いたのだった…………。
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