第15話 再び(裕太視点)
「はぁ~~、終わった~~。」
今日の授業はこれで終わりだった。それにしても、今日は午前中だけしか授業がないのは嬉しい。でも、明日からは午後からも授業が始まるのだが、…………。
教室を出て廊下を歩いているとちょうど歩が隣のクラスから出てきているところだった。俺は歩に後ろから声をかけた。
「歩、一緒に帰ろうぜ。」
「あぁ。今日は真理と帰る予定はないから大丈夫だ。」
すんなり了承してくれた。う~~ん。やはり持つべきは優しい親友だな。
「なぁ、裕太。」
「ん? どうした?」
ちょうど歩き出そうとしたその時、歩が何か恐ろしい物でも見たかのように小刻みに震えながら、俺に疑問を投げかけてきた。
「昨日の事なんだが、本当に訪ねてきた宮間を追い返しただけなんだよな?」
「あぁ、それだけだが?」
どうしたのだろうか? そんなことを急に聞いてる来るということはなにか裏があるに違いない。それに歩が小刻みに震えている原因も分からない。ただ分かるのは、俺の身に危機が迫ってきていることぐらいだ。
だが、俺が頭を回転させその原因を考えつくことはできなかった。なぜなら、その原因はすぐに歩の口から告げられたからだ。
「いや、宮間が『ユウタコロス』って連呼してたから気になってな。」
「え? それ不味くない。ましで殺されそうなんだけど。」
そうかなるほど。俺への情報提供だったらしい。だが、正直言ってその情報は聞きたくなかったな。
「んっ? あれ宮間じゃないのか」。
「えっ?」
俺は反射的に身構えた。それと同時に強烈な殺気が降り注いできた。この殺気は優香から発せられているものだろう。
「あっ、こっちに来てるぞ。」
「まずいまずい!」
この状況はまず過ぎる。何とかして逃げなければならない。考えろ! 考えろ!
「………………………………。 あっ!!」
「そうだ! 歩助けてくれ、頼む。」
「う〜ん。どうするかな?」
こうゆう時こそ親友に助けを求める時なのだ。優香のことで頭がいっぱいになってたから歩が目の前にいることを完全に忘れていた。
「頼む! 今度昼飯おごるから!」
こうなったら最終手段だ。俺が無事に家にたどり着くには歩を物で釣るほかない。
「その言葉に偽りはないだろうな?」
「あぁ、もちろんだ!約束する!」
「はぁ、分かった。さっさと帰……………。」
突然、歩の体がびくりと震える。嫌な予感がする。
「おい、どうしたんだよ?」
「あっ、悪い。今日は真理と帰るとつもりだったのを忘れてた…………。」
何故か急に歩の態度は一変した。理由は大体わかる。それは優香の殺気だ。
いまだ俺は背後から猛烈な殺気を感じている。この殺気を出している張本人である優香の視線は確実に俺の方を向いている。何故なら、先ほどから俺の背中に優香の殺気が突き刺さっているからだ。
その殺気が少しだけ歩の下に降り注いだのだろう。その証拠に先ほどよりかは俺に向けられている殺気が弱まっている。確実にこの殺気に恐れおののいたのだろう。
それになんだ? そのツッコみどころ満載な言い訳は? さっきはそんな予定なんてないって言っていたのに優香の殺気を受けた途端これだ。恐らく、逃げるための言い訳として今考えたのだろう。
俺が歩に突っ込みを入れようとしたとき、四組の教室から山村が出てきた。歩にとってはタイミングのよい登場かもしれないが、俺にとっては最悪のタイミングだ。
「真理、一緒に帰ろうぜ。」
「もちろん! でもいいの? 神崎のことはほっておいて?」
歩が山村と顔を近づけてひそひそ話を始めた。う~ん。嫉妬と羨ましさが混ぜ混ぜになったような視線が二人に向いてきている。それにしても、こいつら周りの視線が気にならないのか?
やはりと言うべきだろうか。予想通り、二人の話している内容から推測するに二人で一緒に帰る約束はしていなかったらしい。それにしても優香の殺気ってそんなに怖いのだろうか?
「今日の宮間の発言を思い出してみろ。」
「…………。よし!歩、二人で仲良く帰ろう!」
あの~、お二人さん? さっきからひそひそ話、俺に丸聞こえなんですけど? もしかしてわざとかこいつら?
「裕太、そういうことだからまた明日。」
「神崎、優香の事よろしく!」
いやいや、山村さん? あなたの親友でしょ? なんで、俺に丸投げなんですか? 俺だけで対処しきれるとお思いなのですか? 確実に事件起きますよ?
そして、歩!まさかお前まで俺を見捨てていくつもりなのか?親友だろ?なぁ?
「あっ、ちょっと…………。」
「「頑張れ!」」
二人は声をそろえて、俺にエールを送ってきた。彼らは動揺している俺に目もくれず、走り去っていった。
「この裏切り者〜〜〜!」
そうな俺の心からの叫びが、廊下に響き渡った。あいつら~~~! 覚えておけよ!この借りはいつか必ず返す! そうしなければ俺の気も晴れない。どうやって仕返しをするか考えておかないとなぁ…………。
(って、そんなこと気にしてる場合じゃない!)
だが、今最優先にしなければならないことはあの裏切り者二人に復讐することではない。そう、逃げることだ。こんなところで悠長に構えてはいられない。後ろには優香がいる。一刻も早く逃げかえらなければならない。だが、…………。
(あれ? いない?)
振り返ると優香はもうすでに消えていた。先ほどまでは、突き刺さるような殺気が俺の背中にぶすぶす刺さっていたのにその時のことがまるで嘘だったかのようにその視線は全く余韻も残さず消え失せていた。
(どこ行ったんだ?)
優香がそんな簡単に諦めて帰ってくれたとはどうにも思えない。優香はそんなにあきらめのいい人間ではなかったからだ。明らかに不自然だ。だが、周りをいくら探してもいなかった。それならそれでいい。今日は平和な日常を暮らすことができたのは何よりだ。さて、俺も帰るとするか。
そうして、俺は騒がしい学校を後にするのであった。
それにしても今日は学校中が本当に騒がしかったな。俺の教室では、クラスメイト達が高校生活でのグループづくりに奔走していた。他の教室でも同じような状況だったのだろう。
あいにくだが、俺は大人数のグループなんていう陽キャたちの集まりのようなものに入りたいとは思わない。そもそも、大人数になればグループ自体も内部でまた分裂していくだろう。そんな面倒なグループに入るよりは毎日を静かに楽しく送りたい。
それに今日と言う短い間にクラスメイトの中でも何人かとは関りを持つことができた。今はそれで満足だ。無理にクラスに溶け込もうとすれば失敗する可能性が高い。こういったものは自然に任せるほうが良いだろう。下手にでしゃばる必要はない。気長に待つとしよう。
ふと、周りに目を向けると少し気になる場所が多々あった。休み中は余り外に出なかったから全然気が付かなかったのだろう。ちょうど目の前にある公園なら、一人でふらりと寄ってみるのもいいかもしれない。
周りの風景を楽しんでいるうちに俺は自宅についてしまった。
俺は自宅の鍵を開け、中に入った。すると玄関には見知らぬ靴が置いてあった。おそらく女性ものだろう。それにしてもいったい誰のだ?
普通に考えれば、母さんか妹だろう。まぁ、後者の可能性は限りなくゼロに近いだろう。妹も今日から学校が始まっている。そのことから時間的に考えて彼女がここに来れる可能性は皆無と言っていい。ならば、母さんだろうか?
その真偽を確かめるため、俺は自宅の奥へと向かった。だが、やはりと言うべきだろうか。俺の予想は大きく外れていた。なぜなら…………。
「こんにちは、裕太。お邪魔してるね。」
そうそこに居たのは俺の幼馴染である優香だったからだ。彼女は俺をまっすぐと見据えつつ、にっこりと笑っている。彼女の笑顔は日の光に照らされ、何とも言い難いものとなっていた。少しでも気を抜けば吸い込まれそう、そんな雰囲気を彼女は醸し出していた。彼女は口を開いてこう言った。
「これからもよろしくね?」
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