第14話 登校(裕太視点)



 今日は月曜日。


 そして今俺は、学校へ向かっている。これからは入学式のような失態はするわけにはいかないと考えた俺は、時間に余裕を待って家を出た。おそらくこの調子なら予鈴より二十分ほど早く学校に着くだろう。


 今日の授業は学校案内など基本的な学校についての説明が中心だ。しかし、翌日の火曜日からは本格的な授業が始まる。一応彼も学校の授業に備えて少しだけ予習はしているから問題はないだろうが…………。




 ちょうど学校まであと少しのところまで来た時、後ろから声をかけられた。振り返るとそこには俺のもう一人の親友である西片歩が居た。


「よう! 裕太、おはよう。」

「おっ、歩か。おはよう。」


 入学式の日、俺は学校から逃げるように帰ってしまったので、彼とは会えずじまいだったのだ。


「久しぶりだな。」

「あぁ。」


 歩とは俺が引っ越ししてしまったため、最近は全く会えていなかった。夏休み中ぐらいにでもまた英一、歩、俺、あともう一人の親友の四人で集まりたいところだ。


 でも、まだまだ遠い話なので今は考えても意味のないことだろう。それよりも歩のクラスを確認するを最優先にしたほうが良い。まぁ、でも、彼のクラスがどこかは聞いておかなくてもすぐに噂となって俺の耳に入ることだろう。なぜなら、こいつはある理由でどこへ行ってもすぐに話題になるからだ。


「そういえば歩は何組になったんだ?」

「俺は二組だ。真里も同じクラスになれたぞ。」


 そうか、二人は同じクラスになってしまったか…………。二組の人たちにはご愁傷様と言う言葉を贈りたい。なぜなら、あの二人は一緒に居るといつも甘い雰囲気を振りまいているからだ。俺も何度その光景を見て胸焼けになったことか…………。うっ、思い出しただけでも胸がむかむかしてきそうだ。


「それはおめでとう。でも、自重しろよ。バカップル。」

「ん? 何のことだ?」


 やはり、歩はクラスの奴らが二人の甘い空間にやられていたことに気が付いていない様子だ。何人かが、口から砂糖を吐いたとか、2人のイチャイチャを見せられていたことでおやつを食べる量が減り、体重が減ったなんて言ううわさを聞いたことがある。


 どれだけイチャイチャすれば気が済むのやら…………。自分たちの世界を作るのは周りに被害が出ない二人きりの時に思う存分やってくれといってやりたい。


 実際に俺は一度被害の実態を歩たちに伝えた。二人ともきょとんとしていたが…………。それでもある程度は自重してくれると期待していた俺だが、その期待はことごとく裏切られた。


 そう、彼らの行動が改善する気配を全く見せなかったのだ。それどころかひどくなっていた気がする…………。やれやれ、本当に手の負えないバカップルだ。


「それで、裕太は何処のクラスだ?」

「俺は三組だな。二人とは隣のクラスか。まぁ、お互い高校生活楽しもうぜ!」

「あぁ、もちろんだ!」


 隣のクラスか…………。まぁ、歩と山村が同じクラスになっているのであれば二人と同じクラスにならなかったのは幸いなことだろう。去年のような苦しみはもう二度と味わいたくはない。まぁ、とりあえずこれからの学校生活を楽しむとするか。


「あっ、それとだな…………。」

「ん?どうした?」


 俺が歩の方に顔を向けると、彼は少し困ったような顔をしていた。何となくだが、おそらく俺に関係のあることだろう。何故か、背筋がぞっとしてきた。何でだろう?


「俺たちのクラスに宮間もいたぞ。」

「優香は二組になっていたのか…………。」


 優香とは隣のクラスになってしまったか…………。やはり、優香との腐れ縁もまだまだ続きそうだ。全く勘弁してほしい。


 バカップルと同じクラスになるのと優香と同じクラスになるのとどちらがいいと聞かれたら、俺は確実にバカップルを取るだろう。


 優香は毎年俺との関係を漏らしてしまっている。ポンコツなところがあるから仕方のないことだと最近は割り切るようにしている。でももう、俺が幼馴染だと言うことをついこぼしてしまうのを止めていただきたいところだ。


 俺の願いはただ一つ。ただ普通に楽しく学校生活を送れることだ。優香と関わり続ける限り、そんな平和な日常が俺に訪れることはないだろう。


「そう言えば裕太。真理から聞いたんだが、お前を訪ねてきた宮間を追い返したらしいな。」

「あぁ、そのことか…………。」


 やはり、歩もそのことを聞いていたか。歩には中学生時代から恋人がいる。恋人の名は山村真理。そして、彼女は優香の親友なのだ。


 優香はよく山村に相談をしているらしい。彼女はそのことを時々歩に漏らしているらしい。相談したことをその人の彼氏であれ漏らしてしまっているので優香も彼女に相談しなくなってもいいだろうに……………。


 だが、優香はいまだに相談し続けているらしい。優香も漏らしてしまっていることについて黙認しているようだ。歩は山村経由で俺と優香の近況を少しだけ知っている。


「追い返したのにも納得がいくが、学校の外ぐらいは別にいいんじゃないのか?」

「どこでだれが見ているか分からないからなぁ…………。」


 俺の住んでいるのはそれ程学校から遠く離れたところではない。そのことから同じ学校の人間に俺たちを目撃される可能性が少なからずあることは容易に想像できる 。俺たちの関係が同じ学校の人間にばれることだけはないようにしたい。


 それに俺は優香と距離を取りたい。そうすることで、男子に嫉妬の視線を向けられない普通の学校生活が送ることができるかもしれないと思ったからだ。


 俺の思考に割って入るように、歩は深刻そうな顔つきで再び口を開いた。


「宮間が言っていたらしいぞ。『お腹空いた…………。』と。見るに堪えないほど辛そうだったらしい。」

「…………………。って、なんか買って食えよ!」


 いやいや、俺が追い出したぐらいで何がお腹空いただ。食事出来る所なんて沢山あるのに。歩が深刻そうに話し始めたので優香のことが心配になってしまったではないか。全く、心配して損した…………。


「すまん、すまん。裕太がどんな反応するのか気になってな。」


 はぁ、全くもう勘弁してほしい。マジで心配になっちまった。


「やっぱり、裕太はお人よしだな。関わりたくないと言っておきながら、その人のことを心配するなんて。」

「俺はお人よしじゃねぇよ。」


 頼ってきた相手を邪険に扱うような人間はお人よしであるはずがない。歩には何度も俺はお人よしだと言われてきたが、それを自分で認められるようなことなんて今まで一度もしたことはない。


「いや、お前はお人よしだよ…………。宮間に対してだけだがな…………。」

「その宮間を俺は数日前追い返したぞ…………。」

「それでもだ…………。あの時お前は…………。」

「もう、その話はいいだろ。だいぶ前の話なんだから…………。」


 俺は何かを言いかけていた歩の言葉を遮った。その次に発せられる言葉を俺は分かっていたからだ。あの事なんて今となってはもうどうでもいいような話。優香だってそのことは知らないから…………。


「まぁ、お前にはずっとそのままでいて欲しいよ。」

「人間なんてそうそう変わるようなもんじゃないから、安心しろ。」


 いろんな人を今まで見てきたが、その人自身の根っこまで大きく変わってしまった人はいなかった。だからこれからも俺は今の俺と大きく変わることはないだろう。




 俺と歩はたわいもない話をしながら、学校へ向かっていった。やがて、ようやく学校に着いた。時間に余裕はたっぷりとある。今日のところはまず一安心だ。そして、ちょうど校舎に入ったところで、


「んじゃ、またな。」

「あぁ、じゃあな。」


 俺と歩は別れの挨拶を済ませるとそれぞれの教室に向かっていった。




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